遭難
メタルギルドへ到着したケイは正面の扉を開ける。
中に入って、ふとロビーを見ると先日ケイに向かってアースダイバーを諦めろと言っていた少年グループが目に入った。
彼らはチームに入ろうとしているらしく、20代半ばの男性に頭を下げている。
ケイは話の内容も聞こえず、持っている魔道呼吸器も軽くはないので気にしないで受付に向かった。
「こんにちは」
「どのようなご用件でしょうか。」
「依頼の品をお届けにあがりました。」
「魔道呼吸器ですかね、お手数ですが誰宛か教えていただけますか。」
「ゴルドンさん宛です。こちら手紙です。」
「ゴルドン、、ギルド長ですか。少々お待ちください。」
「。。。え?」
「違いましたか?当ギルドではゴルドンという名前はギルド長しかいないと思うのですが。」
「あ、いえ。多分あってると思います。お願いします。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
呆然とするケイを残して受付の女性は奥の部屋に入っていった。
数分とおかずにドカドカと大きな足音を立てて、背の低い髭面の男性が出てくる。
「待たせたの、ギンの使いはお前か?」
「は、はい。依頼の品をお届けにあがりました。」
「ほー、ずいぶんと小さくしたな。さすがだの。」
ふむふむと言いながら魔道呼吸器を見るゴルドン。
受付の女性から、注意される。
「ギルド長、そこだと目立ちますし邪魔になります。応接室に移られてはいかがでしょう?」
「おう、そうじゃな。ギンの丁稚、ちょっと応接室についてきてくれんか。」
「わ、わかりました。」
連れて応接室に移ったゴルドンとケイ。
ゴルドンはブツブツ言いながら魔道呼吸器をチェックしている。
一刻ほどは経っただろうか。
手持ち無沙汰のケイが受付の女性がお茶を持ってきてくれたお茶を飲み終わった頃、ようやくゴルドンがケイに向かってしゃべり出した。
「待たせたの。いやー、相変わらずギンはいい腕しとるわ。」
「ありがとうございます。」
「お前さんもギンのところで修行積めばいい技師になれるじゃろ。頑張れよ。」
「あ、あの、じつは。」
「あん?」
折角のチャンスだ。ケイはゴルドンに話してみることにした。
「僕、アースダイバーになりたいんです。」
「ふむ。。勧めることはできんのう。。」
「何故ですか?」
「命をかけなきゃならん。しかも成功するのは一握りだしのう」
「それでもなりたいんです。成功できなくてもいいんです。」
「成功できなくてもいい、とな。じゃあなんで潜りたいんじゃ。」
「地中に行ってみたいんです。冒険してみたいんです。」
心持ち懐かしい物を見るような目でゴルドンはケイを見ていた。
「なるほどのう。。ギンに似とるなあ。」
「ギンさんにですか?」
「ああ、あいつもそういうやつじゃ。まあそれはともかく、そういう理由なら今は力と頭を育てる時期じゃな。」
「そうですか。すぐにでも行きたいのですが。」
「本当ならスクールにでも行くのを勧めるのじゃが、金もないだろうしのう。」
「はい。。」
「潜ることを夢見て、他のこともやって勉強したうえで挑んだ方が良いと思うぞ。」
「わかりました。すみません、忙しい時にお邪魔して。」
「なに、話すのはわしも好きじゃからの。またギンの使いとしてでもこい」
「ありがとうございます。」
結果、アースダイバーへの近道は見つからなかったが、ギルド長と話せると言う貴重な機会に嬉しく思っていたケイだった。
そのままケイが引き上げようとした時、応接室のドアが慌ただしくノックされ、返事を待たずに受付の女性が駆け込んできた。
「ギルド長!遭難です!」
「なんじゃと!?どこだ?」
遭難とはアースダイバーが地中深くに潜りすぎてしまい帰ってこれなくなる状態である。空気と魔力さえ残っていればとりあえず生きてはいられるが、どちらかが尽きた時点で死は免れない。
「13番ポイントです!試験に合格したばかりのダイバーがチーム参加試験を受けていた様子。同地率を上げすぎたようです!」
13番ポイントはギルドに比較的近いエントリーポイント。
石の層や大きめの空洞も点在し、難易度が高いポイントとして知られる。
浅めの層については高価な金属は望めないが、複雑な地層ゆえに深く潜ると時々お宝が見つかることでも知られている。
「また厄介なところで。。近くのダイバーは!」
「試験をしていた大地の牙が捜索している様子ですが、難航しているようです。大地の牙からは報告受けておらず、参加試験を受けていた他のメンバーから通報がありました。」
「大地の牙?Eランクチームじゃないか。。ランクEで13番に行く時点で無謀じゃと言うのに。わかった、救出に向かう。」
「お願いします!」
受付の女性は他関係各所へ連絡するべく飛び出していった。
ゴルドンはケイを向いた。
「ギンの丁稚。頼みがある。ギンに、遭難発生。緊急事態につき準備を頼む。と急いで伝えてもらえんか。」
「遭難発生。緊急事態につき準備を頼む。で良いですね。」
「ああ、頼む。わしも準備する。」
復唱したケイ。すぐに立ち上がる。
同時にゴルドンも部屋から出て指示を出し始める。
「スクールに魔法回線をひらけ!カオルに連絡!」
ゴルドンの大声に押し出されるようにケイはギルドを飛び出して駆け出していった。
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