エルフの依頼

仕事を終え、ギンから預かった本を持って孤児院に帰ってきたケイは早速本を開き、勉強を開始した。

本の内容には、潜るための基礎知識としてシンクロアースの魔法の概念、コントロール方法から地中での呼吸確保のための魔動機の扱い方、石や空洞に対しての注意、モンスターと遭遇した時の逃げ方や金属確保の手法など様々な内容について記載があった。


勉強を進めて一週間が経ったギンの仕事の手伝い日。

ふと気づいたことがあってケイはギンに質問した。


「ギンさん、ちょっと質問があるんだけど」

「おう、勉強は順調か。テストしてやろうか?」

「いや、それもありがたいんだけど、そうじゃなくて」

「おう。何だ」

「もしかして、アースダイバーになるためにすごくお金がかかる?」


地中の心得の中には必要な装備の話がかなり多く記載されていた。

呼吸確保の魔導機、シンクロアースで効率よく魔力膜を張る為の潜地服、探索するためのアースソナー、鉱石確保のための収納バックなど。どう考えても金がかかりそうな装備が必需品とされていたのである。

ギンは一瞬戸惑ったが、笑いながらいった。


「ああ、そうだな。かかるぞ。装備一式揃えるのでもかなりいい金が必要だな」

「ギルドで貸してもらえるのかと思った。。」

「貸してはいるはずだが、勧めねえな」

「何故?」

「1つには高い。高利貸しに借金するようなもんだ。もう1つは、自分に合った装備を選べないことだな」

「なるほど。。」

「だから最初はどこかのチームに所属することが多いな。もしくは最初は借り物で装備調達を目標に浅いところで潜って下積み期間ってところだろうな。」

「そうなんだね」

「まあ、呼吸器何かの型落ちしたやつとかなら調達できるかもしれん。下積み期間無しで深いところは危ないぞ。経験を積む意味でもその流れの方がいいのさ。」

「わかった、ありがとう」

「その前に、まずは合格することだ。」

「そうだね、頑張るよ。」


ケイとギンが話をしていると、工場の入り口に1人の女性が現れた。

落ち着いた服装に白い帽子を深めにかぶり、長い金髪が映える美人だ。


「ギン、久しぶりね。」

「カオルか。どうした。」

「ちよっと頼みたいことがあるのだけど。」

「直接尋ねてきたところを見ると、秘密の小咄か?まあ奥に入れ。」

「お邪魔するわね。」


奥の部屋に入るとドアが閉められた。

ケイはお茶でも出そうかとお湯を沸かし、お茶を入れる。

準備してドアの前に立つが薄いドアの向こう側の音が一切しない。

入れ違いで帰ってしまったのか、とドアをノックすると中からドアが開いてギンが顔を出す。


「坊主、茶を入れてくれたのか。すまんな。もう少し話すから休憩しててくれ」

「仕事邪魔してごめんなさいね」


カオルと呼ばれた女性が応える。

ドアを閉めて、休憩しているケイはどこかで彼女の顔を見たことがあった気がしていた。

思い出せないまま半刻が過ぎた頃、ドアが開き、中から2人が出てきた。


「じゃあ、頼むわね。」

「ああ、準備はしておく。お前こそ準備できなかったとかいうなよ?」

「当たり前よ。ゴルドンに笑われるようなことはしないわ。」

「そりゃそうだな。じゃあまた。」

「さようなら。」


休憩しているケイにも軽く会釈をして去っていった。

どこかで見たことがあったような。。と首を傾げているケイにギンが声をかける。


「どうした、何か気になることでもあったか。」

「さっきのカオルさん?ですか、どこかで見たような気がするんですが。。。」

「ああ、アースダイブスクールの校長してるからな。そこで見たんだろ。」

「ああ、確かに映像魔法で見た記憶が、、、って、えええ?」

「どうした?お前さんに渡した心得書いたのもあいつだぞ?」

「ええええ、どう見ても20代ですよね?」

「エルフだからな。俺よりも年上だ。」


マルガルドではエルフはかなり珍しい。

ケイ自身はエルフにあったことはなかった。

というのもマルガルドは鉱山都市の名前からも想像つくように土の精霊の力が強い。

風の精霊と共に生きるエルフとしては住みにくい街ともいえる。


「エルフがマルガルドにいるなんて。。。」

「まあ、あいつは特殊だけどな。そんなことより仕事するぞ。」

「カオルさんの急ぎの仕事ですか?」

「ああ、そっちは急ぎじゃないから大丈夫だ。ずいぶん話し込んじまったからな。仕事片付けんと。」


そう言って仕事を始めたギン。

ケイはもっと話を聞きたいところだったが、堪えて仕事に勤しんだのであった。

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