詳しすぎる老技師
ギン爺さんの工場。
呼び名はそう呼ばれているが、正式な名称は誰も知らない。
ただ、近所はみんなこの名前で通じるので困ってはいなかった。
ギン爺さんの工場についたケイは早速ギンに声をかける。
「ギンさん、きました」
「おー、坊主か。今休憩中だ。もう少ししたら始めるから、ちょっと休んでな。」
奥でチャトガ盤に向かい一人でぶつぶつ言っている。
チャトガとは将棋のようなゲームである。ギンはチャトガが強いことで知られており、技師としてよりもチャトガが強い人という印象が街の中では強い。
「ギンさん、ちょっと相談があるんだけど」
「ん?なんだ。お前もやるか?」
「いやそうじゃないんだけど。」
「なんだ、がっかりだな。まあ座れ。茶を入れてやる。」
茶をいれて、向かい合わせに座る。
ちょっと躊躇って、ケイは相談し始めた。
「。。。俺、アースダイバーになりたいんだ」
「そうか、頑張れよ」
思ったよりもサバサバしたギンに対して拍子抜けするケイ。
アースダイバーは命を落とす危険もあり、一般受けはかなり悪い。
「っと、あっさりだね?止めないの?」
「止めて欲しいのか?」
「いや危険な仕事だって聞くし」
「そりゃそうだ。でもお前も15だろ?やりたいことをやった方がいいさ。」
思ったよりも悪い反応がなかったのに少しホッとしつつ話を続けるケイ。
「それでさっきメタルギルドで試験受けてきたんだけど」
「どうだった?」
「魔力試験は合格したんだけど、身体試験と知識のテストが不合格だった」
「ほー、魔力試験合格したのか。ならいけるじゃないか」
テストの内容とかを説明しないといけないと思っていたケイはまたもや予想外の反応が返ってきて戸惑う。
「いや、3つ中2つ落ちたんだよ。難しいよ」
「身体試験なんて普通に鍛えれば何とかなるだろ。知識だってそんなに難しくないはずだぞ。魔力試験が一番の難関なんだ」
「やけに詳しいね?」
「ああ、昔問題作らされたからな」
飲みかけていたお茶を吹き出すケイ。
「何で?ギンさんアースダイバーじゃないでしょ。」
「ああ、俺は魔力ないからな」
「でもなんで」
「金属に関する知識とか、地中に関する知識だからな。知り合いも多いし、偶々色々知ってたからギルドに頼まれたんだよ」
予想外の展開について行けないながらも、ケイは質問を続ける。
「どのくらい前?」
「5年前くらいか?でも問題変わってないはずだぞ。こんな問題でなかったか?」
ギンが何個か例をだす。確かに見覚えがある問題だった。
「え、じゃあ答え知ってる?」
「まあ、知ってはいるがそれは教えられん」
「そりゃそうだよね」
「知ってないと、命に関わる問題ばっかりだからな。理解しないとまずいぞ」
急に表情がしまったギンを見て、ケイは何となく姿勢を正した。
ギンはお茶を含んで続ける。
「たとえば同地率とかな。90%前後でコントロールするのが基本だが、上げすぎると地中に落ちていって浮かんで来れなくなる。反対に下げすぎると土の中に捕まって動けなくなる。」
「そ、そうなんだ」
「ああ、結局アースダイブっていうのは生き埋めになりに行くようなもんだからな。潜り方にも色々知識が必要なんだよ。」
立て板に水のように喋るギン。
ケイは、ギンのことを魔動機に関しては博識だと思っていたが、アースダイブに関する知識もここまで持っているとは思っていなかった。
「でもなんでギンさんはそんなに詳しいの」
「アースダイバーに知り合いも多いしな。魔道呼吸器とかもメンテナンスしてるし。」
「あの、それなら知識を勉強する方法を教えてもらえないかな」
「そうだな」
ギンはうなづくと立ち上がって、奥の部屋に入り、本棚から本を探して持ってきた。
「こいつを読んで勉強してみろ」
「地中心得?思ったよりも薄いかも」
「ああ、スクールの教科書の元になった本というか雑書きだな。」
ケイはもう展開についていけない。
「何でそんなものがここにあるの。。。?」
「書いたやつから預かってる。俺がテスト作る時もそれ見てるから参考にはなるはずだぞ」
「なんかわからないけどそうなんだ」
達観した表情になりつつあるケイ。
ギンは気にした様子もなく、茶を飲んでいる。
「読んだら、いいな。仕事の合間でよければテストしてやる」
「本当に?ありがとう!」
「そしたら今日は仕事するとしよう。」
最後の最後、知識面がクリアできる目処が急に立ってきたことが実感でき、仕事に元気よく取り組んでいくのであった。
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