ケイの目標

ケイとサッタは同じ孤児院で生活している。

孤児院はマルガンドが運営しており、少なくとも人間的な生活が送れる衣食住は約束されていた。

しかし、孤児院は満15歳で出ていかなくてはならない。

2人は今年15歳になり、あと一年以内には孤児院を出ていくことになっている。

孤児院から紹介してもらえる仕事もあるが、当然あまりわりの良くない仕事につくことしかできなかった。


サッタは12歳の頃頃から大工の手伝いをして小遣いを稼いでおり、棟梁に目をかけてもらっているため、大工の道を進むことを決めている。本人も大工の仕事を気に入っており、これから先の生活について特に心配はしていない。


対してケイは近くの老技師のもとで手伝いをしていた。

技師の仕事は魔法で動く機械、魔動機のメンテナンスが主な仕事である。

そんなに大きな工場でもないケイの手伝い先での仕事はほとんどが近所の日常で使われる湯沸かし機などの修理がほとんどで、面白みのない仕事である。ケイはそこで働き続けることはあまり考えていなかった。


ケイは小遣いをためてよく本を買っていた。その中でもお気に入りは『地中の覇者』という物語でマルガルドで人気の本である。地潜艇と呼ばれる大地を潜る船に乗る、人間とドワーフ、エルフの冒険譚だった。


色違いのオリハルコンを手に入れるために巨大ワームと戦う話や地底人との交流、戦争で敵陣に囚われた姫君を救出する話などを何度も繰り返し読んでいた。

子供心に憧れていた。物語だと分かっていても、大地の中を潜る船にロマンを感じ、大地の中に何があるのかと想像するだけでも楽しかった。


いつか俺も地中を冒険する。

しかし地潜艇は物語の中に出てくる架空の乗り物で、現実にはそのような乗り物はないらしい。

冒険するためにはアースダイバーになって、直接潜るしかない。


これがケイの目標でありモチベーションである。



メタルギルド前でのやりとりから孤児院に帰ってきた2人。ひきづられて帰ってきたサッタは不満気にケイに話しかけた。


「お前さー、言われっぱなしは悔しくねえの?」

「サッタ、あんなところで言い争いになって問題点でもつけられたらどうするんだよ」


忿懣やるかたなし、といった面持ちで応じるケイ。

サッタはそんな様子を見て少し落ち着いた様子である。


「お、そうか。」

「絶対俺が悪いってことになっちゃうだろ。」

「そうだな、悪い。でもさ、知識のところはそれこそ問題だよな。」

「それは、、そうなんだよね。誰か教えてくれる人いないかなあ。」


2人で悩む。

マルガルドは教育がかなり進んでおり、識字率も高い。孤児院で基礎的な勉強もさせてもらえたため、2人は少なくとも読み書きは出来た。

しかし、アースダイバーや魔法に関する勉強をする場所、手がかりなど全く思い付かなかった。

諦めがてらサッタが提案する。


「ギン爺さんに聞いてみればいいんじゃねえか」

「うーん、魔動機の話ならともかく、アースダイバーのこととか知ってるかなあ。まあ知り合いでも紹介してもらえればラッキーか。今日仕事だから聞いてみる」


ギン爺さんというのはケイの仕事先の老技師の呼び名だ。

早速、ケイは仕事先に向かった。

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