バレンタイン~お渡し編~

「はい、やーくんこれ!チョコ!」と、彼氏に会うなり作ってきたチョコをさらっと渡せば、「え!ありがとう!」彼は嬉しそうにはにかみながらチョコを受け取った。

 付き合って3年目ともなると、バレンタインにチョコをあげるのは当たり前で、あの付き合う前のような渡すときのドキドキ感とかはまるでない。付き合ってる=お互い好きなんだから、彼もチョコを貰えることをわかっているし、そもそも日頃からお互い愛情を感じているのにわざわざバレンタインだからと言って、毎回チョコをあげる必要もないような気がしてくるのだが、まあそこは一応ね。こういう時くらいしかお菓子作りしないし、作るのは楽しいからいいんだけど、甘いのが嫌いな私としては、このイベントごとの何がいいのかよくわからない。そもそもチョコレートを1つ食べただけでうわ、となるくらい甘いものがダメだから、バレンタインやホワイトデーのお返しを食べきれた試しがほとんどない。正直記憶にある限りでは一度もない。好きな人にチョコレートをあげるとか、本当誰が考えたんだろう…実際男の人からしたら、チョコレートをもらって嬉しいのだろうか。私の彼氏、幹也みきやくんもお菓子は好きだけど、チョコレートを自分から買って食べてるところは一度も見たことがない。いつも食べているのはポテトチップスなどのしょっぱいもの。チョコレートケーキは好きだけど、普通のチョコレートを食べているところは見たことがないんだよな…今更ながら、チョコあんまり好きじゃなかったりして。来年はチョコ辞めてみようかな、なんて思ったり。


 チョコを渡したものの、部屋に入るなりチョコの入った紙袋を隅に置いて抱き着いてくる彼。チョコより私かい!今年はせっかく上手にできたから、早く反応が見たいんだけどな~。やっぱり彼はしっかりメイクしてる私が好きらしく、何度も顔を見ては「かわいいね~!」と言ってくれる。それが嬉しくて、私も「でしょー!今日はなんかすごくメイク上手くいったんだよね~!」なんて、ちょっと調子に乗って言うが、彼氏は全く気にせず真面目な顔で「本当にかわいい」と永遠言ってくる。本当に私のこと好きだなぁ~(笑)まあ、負けないくらい私も好きなんだけど。

 って、違う違う。今日はチョコレートの感想が聞きたいの。

「やーくん、これ見て、今年はすごい上手にいったの!」

 いつまで経っても中身を見てくれない彼氏に痺れを切らして自分から作ってきたチョコを見せる。ひとつひとつ中身を紹介すれば、「えー!すごいね!」と褒めてくれる。いやまあ毎年見た目は良いのよ。ただ、味が微妙なんだよね。でも今年は味まで上手くいったのさ!だから味の反応を早く見たいんだけど、今はまだチョコレートの気分じゃなさそうだから、とりあえずそっとしておこう。

 少しして隣でゲームが始まったので、私もスマホで小説や漫画などを読み漁る。いつも彼氏がゲームを始めるから、私も隣でスマホをいじっているのだが、やっぱり一緒にいるからなのか彼氏はすぐゲームの合間合間に絡んでくる。私は小説や漫画を読んでいると、そっちに没頭してしまうから半分上の空で返事をしてしまうのだが、彼氏はあんまり気にしない。しばらくして、「さーちゃん、チョコいただきまーす!」なんて言っていたけど、内容が右から左に流れて行ってしまって「んー」などと適当な返事をして私はまた読書に戻った。


「さーちゃん」

 また少しして呼ばれるから「なにー?」なんて言うと、彼はとっても真面目な顔をして「さーちゃんこのチョコ何処に行けば買える?」と、これまた突拍子も無いことを言い出した。

「え、それは私の手作りだから、何処へ行っても買えないかなあ」

「えぇっ!?売ってないの?こんなに美味しいのに?売り物じゃないの?」

 絶対彼は冗談で言っているのに、毎回毎回真顔であたかも本気で思ってますよみたいな感じ出すの、本当に面白いから辞めて欲しい。感情隠すの下手な癖に、こういうふざける時には意外に演技派なんだよなあ。そんな白々しい反応をする彼が面白くて、つい笑ってしまう。すると彼もつられる様に笑って「これお店で売ってるやつより美味しいね」と言ってくれた。これ以上無いくらいの褒め言葉に頬が緩む。本当、いつも嬉しい事を言ってくれるなあ。…まあ、こんなに上手に出来たのは、手作りキットを使ったからなんだけど。でも、一応私が作った事には変わりないし!市販の物ラッピングし直したとかじゃないんだから喜んだっていいよね。

 今年のバレンタインは今までで1番の大成功。その後も永遠に「チョコ美味しかったな〜」とか「もっと食べたいな〜」って言ってる彼。そんな彼が面白くて、可愛くて、この日は1日ニヤけが止まらなかった。…因みにだけど、彼も生チョコやトリュフを食べる時にココアパウダーを吸い込んでむせてたよ。私だけじゃ無かったみたい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る