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厩には、見事な毛並みの美しい馬が並んでいる。
馬体にブラシをかける者、
「お初にお目にかかります、月の聖女
騎士団の衣装に身を包み腰には剣を帯びる、きらきらとまぶしい若き騎士たちは、アイリに向かって
銀狼騎士団に所属する騎士は、みな王に剣を
妹の社交に付き添っていたアイリは、身なりのいい貴族の子弟はたくさん目にしてきたけれど、目の前にいる騎士たちの立ち居ふるまいはその誰よりも洗練されていた。女性に対する
王宮に仕える彼らは良家出身のはずだが、みな熱心に馬の世話をしているようだった。
「銀狼騎士団では、自分で自分の馬を世話することが決まっているからな」
それで馬との信頼を高めるのだと、ギルハルトは説明をくれた。狼が
愛情深く馬を世話する彼らの様子を見学していると、騎士団長だとアイリに
ラフな格好をしていても、
「レディ。今日はどうして、このようなところへ?」
「お仕事中にお
「なんと、それは光栄なことだ」
馬が好き、という言葉を聞きつけた騎士の面々は色めき立ち、たちまちアイリは
「いつかお会いできればと思っていましたが、月の聖女殿にお越しいただけるとは」
「ありがとうございます、レディ」
「感謝します、月の聖女殿……!」
「本当に、貴殿が王宮に来てくださってよかった……心からの感謝を」
次々に礼を言われてアイリは
ある者は笑顔で、ある者は興奮気味に、ある者は涙ぐんでいて──。
「あなた様は、我々の命の恩人なんですよ!」
「命……?」
「ご存じありませんか? 我々は、救われたのです。あなたのお越しが、もしも半月
騎士によれば、ギルハルトは幼い
比類なき
半年前から、凶暴さを垣間見せるようになったギルハルトは、以前に増して
「この半年の間に、団員の三分の一が退団届を出したのです。届は、団長が保留にしましたが。今、団長が陛下と話しているのは、復員希望者についてですよ」
「無理もありません。僕も、先々月、半殺しにされかけましたから」
「半殺し、だなんて……」
きらきらまぶしい騎士から出た言葉だとは思えず、おおげさだと思いかけるアイリであるが、満月の晩の王を見ている。あの状態の彼が、剣を取ったかと思うと──。
「けだものでしたよ。ええ」
「ただでさえ、人間離れしてお強いのに」
「何度死ぬかと思ったか……訓練で
死者もなく、再起不能なほどの重体者も出ず、大事に至りこそしなかったが、これらの騎士の苦難が『暴君陛下の
最悪の事態が訪れるのは時間の問題──人狼の血に
だから、この一か月、彼は自ら判断して剣を持たなかった。その結果、これまで剣の
しかし、みな命は
進退
「あなたがいらしてからというもの、陛下はすっかり穏やかになられまして」
「失礼ですが、レディ。そのように可憐でかよわく見受けられるのに、陛下を恐ろしいとは思われなかったのですか?」
「よくぞご無事でいらっしゃいましたね」
「月の聖女には秘伝があるのですか? いったい、どんな術をお使いに?」
「いえ、私は何も。ただ陛下とご一緒しているだけで」
アイリの
「
「月の聖女って……本当に実在していたんですね、
「ああ。自分も、おとぎ話だとばかり思っていたぞ」
アイリを囲んでわいわいと盛り上がる中、一人の騎士が、向こうで立ち話をしているギルハルトの背中を横目に、耳打ちするように囁いてきた。
「ここだけの話、この数日、陛下はちょっと浮かれているくらいご機嫌がいいんです」
囁いてくるその騎士もまた、ずいぶん機嫌がいいように見えた。
「こうして聖女殿にお礼を申し上げられるなんて、我らは幸運です!」
喜びに沸き立つ騎士の誰もが王への
疑問に思いかけるアイリだが、きっと自分と同じなのだろうと思った。彼らも、ギルハルトが好きなのだ。彼の
その時、厩舎の外から馬の
「おい!? どうしたんだっ、こら、止まれっ!」
全身の体重をのせて手綱を引っ張るも、若い騎士の馬は止まらず、アイリに向かって突っ込んでくる。すぐ間近に
アイリは物おじせずに手を伸ばし、ぽんぽんと撫でてやる。
騎士の使う軍馬は見上げるほど大きい。所領の牧場で育てていた荷運びのための馬よりも目方があるが、すり寄られても
慌てていた周りの騎士たちも、やがてほほえましく見守った。
「レディは動物がお好きなんですね」
特別に動物が好き、というわけではないが、こうして
だから今回、身代わりといえど、こんな自分が王宮を訪れたことによってエーファや騎士たちが喜んでくれたというのなら、やはり嬉しいものだ。
「レディ、乗馬をご
「ぜひ私の馬に! 私が
「いやいや、ぜひとも俺の馬に! 気立てのいい
いや、自分の馬に、と、騎士一同はこぞってアイリに手を伸べる。
月の聖女と感謝をしてくれるが、ベルンシュタインの血を引くのはアイリだけではない。
こんなに手厚く歓迎してもらい仕事の邪魔をして申し訳ないし、何よりも男性と接することに慣れていないアイリにとって、きらきらまぶしい騎士たちの圧は
「ご厚意に感謝します。そ、それにしても、馬たちはみんな
顔を
振り返れば、なぜかひどく不機嫌な顔をしたギルハルトが立っている。強引にアイリを自分の愛馬にひっぱりあげて乗せてしまうと、騎士たちがざわめいた。
「陛下が、ご自分の馬に女性を乗せた!?」
一様に驚く彼らの中の数人が、ギルハルトが発した『かわいい……だと?』という
しかしながら、当然、この気力体力ともに
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