1-2
王の
ドカドカと
開口一番、舌打ち交じりにつぶやく。
「……グレル侯の次は、コレか……」
ルプス国王ギルハルト・ヴェーアヴォルフは、すさまじく不機嫌だった。
──そちらから呼び出しておいて……!?
謁見の場である。当然、口には出さない。
謁見中であるにもかかわらず、王は
王の手にしたカップからは毒々しくすらある茶の
暴君、という単語がちらつく頭の中、アイリは、とある可能性に行きあたる。
自分の
──まさか、陛下が不機嫌なのって、私がニセモノのクリスティーナだってすでに気づいていらっしゃるからなのでは……!?
銀狼王と呼ばれるこの王は、暴君
さらに、この一年の社交会シーズン、クリスティーナは熱心に
アイリと妹は、いとこなだけあり顔立ちこそ似ているものの、クリスティーナは肉感的な体つきなのに対して、アイリは叔父
まがりなりにも婚約者である国王陛下が、クリスティーナの社交界での評判を承知していれば、
──気の立った犬って、こんな感じよね……。
そう思うと、ほんの少しだけ気が
伯爵家の飼い犬は、ベルンシュタイン家の誰よりもアイリに
我が家で育てたその犬よりもはるかにやんちゃな、所領の牧場で飼われている犬たちをアイリは思い出していた。現実
飼い犬同様、牧場の犬たちは、
羊やヤギ、牛や馬、ともかく動物たちはアイリに寄ってきてはすりすりと甘え、やがて撫でられる順番をめぐって
──
暴君、という前情報もあいまって、直視するのもはばかられたが……その姿を初めて
──なんて
アイリは
戴冠式の日、はるか遠目にしか見たことのなかったギルハルト・ヴェーアヴォルフは
機嫌悪そうに
妹の付き添いで出かけた社交の場で、
そんなアイリに目もくれないギルハルトは、叔父が口を開こうとするのを顔も上げずに手だけで制すると、
「サイラス。この件は勝手に進めろ、おまえに一任する」
なぜだか、どこかあてつけがましい口調で命じられた『サイラス』と呼ばれた彼はアイリたちをここまで案内してくれた男性だった。自らを首席近侍長だと
「陛下、ご自分でお決めにならないと、あとでご機嫌が悪いでしょう」
「自分で決める、だと? ベルンシュタイン伯爵家から妃を
「ええ。『おまえに一任する』とおっしゃったので」
その結果の機嫌の悪さだとすれば、なるほど、サイラスの言は正しいようだ。
ギルハルトは忌々しそうに
二人のやりとりから読み取れるのは、銀狼陛下は、先王が勝手に決めたベルンシュタイン伯爵家との
──『攻略法』なんて言っている場合ではないのでは……逃げたクリスティーナは正しいのかも……?
半泣きになるアイリへと、サイラスは妹の名を呼んだ。
「レディ・クリスティーナ」
「え、は、はい」
「失礼ながら、お噂はかねがねうかがっております。あなた様は社交的で物おじしない華やかな女性だと聞き及んでいますよ」
それはもちろん、アイリではなく本物の婚約者クリスティーナの評判だ。
「ほら、陛下、あなた様がそんなふうだから、おかわいそうに婚約者様はあんなにも委縮なさっているではありませんか」
どうやら、いい具合に
「女なんてどれも同じだ、任せる」
そこから話が
それを見送ったサイラスはアイリに向かって
「レディ・クリスティーナ。どうか、我が主君の無作法をお許しください」
無表情である。あまり感情が表に出ない人なのだろうか。それでも、こうして
「い、いえ。お気になさらないでください」
不機嫌丸出しのギルハルトの態度は恐ろしかったけれど、正体を疑われたり、無理難題を
今回に限っては、王が婚約者に興味がないというのは、不幸中の幸いだ。
何しろ『暴君』である。下手に興味を持たれれば、早々に
──ともかく、今日のところは乗りきった、よね……?
緊張にこわばっていた体からアイリはゆっくりと力を
「レディ・クリスティーナ」
「は、はいっ!?」
妹の名で呼ばれて、なぜだろうか、長年の間に
「
「…………はい?」
不幸にも、嫌な予感は的中する。
この日から、妹の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます