1.身代わり婚約者は命がけ?
1-1
アイリは
ドレスとアクセサリーの色合いも、妹の明るい
アイリの実の母親はアイリが生まれた時に、そして、実の父親はアイリが二歳の時に
「あの……叔父様? 本当に、
「当然だ。かわいいクリスティーナより他に、この国の
──なんで『地味で見栄えのしない』って二回言ったのかしら……。
本当のことではあるし、
「叔父様は、私に『陛下の
アイリは今年十七歳。妹は十六歳の一歳
だから一日だけ身代わりとして
「それは自分で考えなさい。おまえの考えに任せるとしよう」
叔父はしれっとして明言を
一国の王をたばかり、それが
「まあ、心配することはない。十年間、待ちに待たされて、クリスティーナはナーバスになっただけだ。すぐに
妹が待ちに待たされた、というのは事実だった。
「おまえは、いつでも妹を支えてやってくれていただろう。かわいいクリスティーナが、つつがなく王宮に上がるための準備と考えればいい……そうだな、機嫌を損ねた時に備えて
あまったるい
養女として物心つく前から世話になっている養父は、いつでもこんな調子だった。アイリに対して無茶を命じるときだけ猫撫で声になる。目の前の問題を先延ばしにして、その場を
いいかげんな行いの結果として、叔父と
ぎりぎりの
「……わかりました。やるだけやってみます……」
叔父の無茶に
これがアイリの日常なのだった。
十年前、慣習によりベルンシュタイン伯爵家は、当時の王太子ギルハルト・ヴェーアヴォルフの
ベルンシュタイン伯爵は、迷わず実の娘のクリスティーナの名を挙げた。
そして二年前、先王が男
新王ギルハルトの
そんなすばらしい人物が未来の夫になるのだから、クリスティーナには不満など何一つないはず、と言いたいところであるが、前述した通り、婚約が決まってからの十年間、クリスティーナが銀狼王と対面したのはたったの二回きり。二年前の
未来の王妃として両親に
月日は流れ──ついに、『婚約者と顔合わせがしたい』というお達しが王の署名付きで届いたのは、十日前のことだ。
アイリの養父、カスパル・ベルンシュタイン伯爵は待ちに待った日の訪れに、
『いやはや、我が娘が国母となる日も近いと言うわけですなぁ! がはははははは!』
派手に祝賀会など開いて鼻高々、すっかりお祝いムードに
王との顔合わせを翌日に控えた夜、クリスティーナがなんの
妹の手紙によると、銀狼陛下は
社交界には妹の
「クリスティーナが
妹は決して
その妹が
幼い
──銀狼陛下の攻略法を用意しろ、だなんて……。
銀狼王と渡り合う自信もなければ、『暴君』を
興奮した犬や子どもをなだめるのは、なぜだか昔から異様にうまいアイリであるが、大人の叔父には通用しない。一国の王相手であれば言わずもがなというものだ。
──犬と子ども、と言えば。
「『攻略法』を探り出す、ということはクリスティーナが見つかるまで、何度か陛下にお会いしなければならないんですよね? その間、
カールというのは弟で、ジョンというのは飼い犬だ。
ベルンシュタイン伯爵家において、アイリは日々、大変に多忙である。
叔父が遊び人で
たとえば、たまたま叔父が在宅しているときに、
どんなに金欠でも叔父が派手な遊びをやめずにいたのは、
「家の心配? そんなものより、王の
犬はともかく、自分の妻と
自らの暴言を
きらびやかな中年の貴族男は、大きな羽根つきの
「いやはや、ベルンシュタイン伯ではないか! ごきげんよう!」
「これはこれは!
一見、友好的に
「よーく覚えておけ。あの下品
「月の聖女反対派?」
「正確に言えば、『月の聖女を王妃に
叔父の話によると、ルプス国の一部の貴族から『ベルンシュタイン伯爵家から王妃を
この慣習が最後に適用されたのは、もう百年も昔のこと。
さらに、決定は当代の国王の独断であり、宮廷会議にもかけられることがない。創国から年を経るごとに適用には
もしも『
「今、反対派に
だから、急病を理由に、クリスティーナが拝謁を欠席するわけにはいかなかった。
「『病がちな令嬢が、はたして銀狼陛下の妃にふさわしいでしょうかねぇ?』なーんて
叔父はぶちぶちとまくしたてる。
「なぁにが『時代に即していない』だ、
自分の身勝手を
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