第50話 名前知ってますか?
「なかなか面倒な奴。で、問題は?」
分かれ道に差し掛かった時に俺が後輩に聞くと…。
この後輩。今までで一番いい笑顔。真面目にめっちゃドキッとするような良い笑顔で……。
「では、問題です。朝熊先輩。私の名前をフルネームでお答えください」
とか言いやがった。
一瞬何を馬鹿な。そんな簡単な問題出して……と思ったのだが……。
俺の頭の中ではエラーの文字がすぐに流れ出した。
そして今の問題の答えを知らない。と頭の中の全てが一斉に反応したような状態となったのだった。
「……」
後輩の勝ち誇った笑顔が目の前にあるのだが…。
いや、マジでか。
いやいやこれだけ放課後に会っていたんだ。どこかで…。ってこいつ…。俺の名前は普通に知っていたんだな。いや名前じゃないか。苗字ならどこでも調べれるよな。
今まで呼ばなかったくせに…。突然何だよ…。じゃなくて…。こいつの名前…。こいつの名前…。名前だと?それもフルネーム…。
……。
……。
……。
「どうしましたか?先輩。思ったより簡単な問題で固まっちゃいましたか?気が抜けましたか?ニヤニヤー」
「……」
こいつの自信満々は……自己紹介なんてしてませんよ。ってやつか……いや、でもどこかで名前くらい……と俺が必死に思い出そうとしていると……。
「あっ、先輩。解答権は1回ですからね。間違った場合先輩の負けです。答えられたらー、そうですねー、プレゼントありなので……なんでも先輩の言うことを私が聞いてあげますよ。プレゼント内容も大切なんですよね?これくらいでどうですか?あー、でも、先輩が答えれたら。私の身体の危機ですねー。まあもし答えられても先輩を信じましょう。ってことで……」
「……」
なんか今さらっとこいつすごい事を言っていた気がするが……悪い。それを気にする余裕はなかった。いや、マジでここ数週間数か月?放課後会っていたやつの苗字。名前どちらも知らないとかあるのか……と。
こんな目立つかわいいやつ……ってマジだ。俺後輩とか。奴。こいつ。とかでしか呼んでなかったから……。
「まあ…。まだ答えれそうにはないですねー。私は優しいですから。月曜日の放課後まで待ってあげますよ。わー。私優しい。身体の危機かもだけど優しいですよ」
「思い出してるからちょっと黙れ。うるさい」
うん。うるさいと考えられないだろ?である。
絶対どこかで見ているはず…。見ているはず。見ていないとかないだろ。とか思いつつ記憶をだな。昔のほうに…。の途中なんだよ。邪魔しないでくれである。
「えー、まあ、思い出せるなら待ちますけどー。って先輩そんなに必死ってことは人前では言えないお願いを私に言う気ですか?うわー。実はド変態でしたか」
「だから黙れ。過去を思い出せないだろうが」
うん。何をお願いするとか。それは答えてからゆっくり言ってやるから。今は大人しく。静かにしてくれである。
「……出ないと思いますけどね」
こいつ……すでに勝ち誇ってる……。
っかこのタイミングで俺がちゃんと知っていたら……「なんで知ってるんですか!」とかこいつ大騒ぎしていて……それはそれでめっちゃ面白そうな光景が見れた気もするんだが……くそっ……一文字も出てこない……。
すると――。
「先輩。土日で頑張ってみてください。じゃ、おつかれ様でしたー」
「あ、ちょ、お前」
後輩はそう言いながら歩きだしてしまった。
っかここで帰るってことは絶対答えに俺がたどり着けない自信があるってことだろ……そりゃ学校に戻れば答えがあるだろうが……すでに下校時間過ぎてるし。入ったところで……俺こいつのクラスは知らないし。
さらに明日明後日は休日……こいつ……。
とか思っていると……。
「先輩。車に轢かれますよー」
と、いう後輩の声が最後に聞こえてきた。
うん。確かに轢かれるな。ということで俺は道路の隅に寄ったが……こんなところに居ても後輩の姿はもう小さくなり――見えなくなったので俺は帰ることとした。
そして土日。悩みに悩んだが…………。
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