第5話つまるところ、それはただの近未来⑤

学生自警団?聞きなれたことのない言葉に全員が首をひねった。

「学生自警団、とは。なんなのか、みんなそう思っていると思うが、なーにそんな難しいことはない。」

「あ、名前を言うのが遅れたね。俺は、厚労省特別局局長の、町田だ。よろしく。さて、学生事件段についてだね。それは、政府が考え出した。要は君たちの能力を借りて、この町の治安を守ってしまおうという組織なのだ。」

警察、みたいなものだろうか。

「もちろん、バイト代は出す。内申も良くなるぞ。」

そして、説明をしている人が、ぱちんと指を鳴らす。さっと、紙が自分たちの前に現れた。

「では、その紙に書いてあることを一応説明しておくね。」

パワーポイントを男が指さす。

「今の君たちは、とても強い能力を持っている。それは自覚しているよね?」

大体の子供たちがうなずく。

「その強い君たちの能力を、この町の治安維持に生かすことで。というか、主には凶暴化した動物への対処を行ってもらいたいというわけだよ。」

なるほど。

「正直、ロボットだけでは手が回らないという現状なのでね。住人達の住居に侵入でもされたら大変なことになるのだよ。」

「もちろん、君たちがその仕事中にケガをしたら完全無償で最新鋭の治療を受けられる。」

「そのほか、君たちは能力を日常生活でも使えるなど様々な恩恵も用意しているんだよ。」

話は終わったとばかりに、彼は新しい紙を出してきた。

「この二つの紙をよく読んで入りたいと思った場合、7日後までにサインをして持ってきてください。では。」


適当に入ったファミレスで、俺と真希は今日起こったことを考えていた。

「学生自警団、ねえ。入る?」

「うーん。入る5,入らない5かなあ。なんか胡散臭いし。」

もらった紙をじっと見つめる。政府主導というのは、ネットニュースを見かけたので、真実だとは分かったがいまいち信頼できる要素、というものがない。

「動物を抑えて、完全に無傷というわけにはいかないだろうしな。」

「ふーん。そうなんだ、私入ろうかな。学生自警団。面白そうだし、バイト代も出るんでしょ?」

サインのところに、もうすでに名前を書き始めている。

「おい、ちゃんと見たか?契約書。両親お前はいるんだし、一応見てもらった方がいいんじゃないのか?」

「・・・・」

真希が急に沈黙をした。この反応は、、、何度も見た反応である。

「また、か。喧嘩したんだな。」

「・・うん。進路のことで、いろいろあって。私は、自衛隊になりたいって言ったんだど、、、、、」

はー。溜息を思わずついてしまう。この話題も何回目だろか。それで、彼女の両親は、そんなに危ない職業はやめてほしいというのだ。

「だとしたら、学生自警団も、、、、、、反対されるだろうな。」

真希が、小さくうなずいた。

「でも、ここに書いてあるように学生自警団に参加していたということは実績にもなる。能力があれば、私の、夢である自衛隊に一歩近づけるかもしれない。私は、実力を認められたのだから、学生自警団に参加したいわ。何がなんでもね。」

強い意志を持つ目をこちらに向ける。

こういう時の彼女は、強い。俺には、止めることもできないだろう。


家に帰り、家事をすべてロボットに任せて、書類をまた一から確認する。

「日常的に能力が使えるのは、メリットだよなあ。」

いままで、隠れて使っていたとはいえこれからは学生自警団以外への締め付けが厳しくなりそうだ。テレビでは、もう学生自警団への特集が組まれていた。仕事が、早くて結構だな。もちろん、他のくだらない番組へとすぐ変える。


そろそろ寝たくなってきた。寝るか。布団に入る。だが、いつもとは違いすぐには眠れなかった。なにか、胸騒ぎがする。

「気のせいか?」

能力テストの疲れで気が立っているだけだろうか。

「いや、。」

こういう時は、前にも一度あった。その時には、当たったのだ。何かまずいことが起きると考えてもいいだろう。すぐに、私服へと着替える。何故か、頭の中はぐちゃぐちゃになっている心とは違い、整理整頓されて冷静であった。


そして、事態は引き起った。窓から見える莫大な光のエネルギーと、遅れてやってくる巨大な何かが破裂したような音。その方向は、、、、真希の家の方向であった。携帯と財布を強引にとって、真希の家へと向かう。

家へと走りながら、真希へと電話をかけていた。

「おかけになった電話は、現在電源が切れているか・・・・」

その声が聞こえてきた瞬間に、もう聞きたくなくて地面へと携帯を放り投げる。

頼む、電源が切れただけであってくれそう願いながら、疲れている体を必死に動かす。段々と、野次馬が増えてきていて爆心地についていることを実感する。

「え?どうしたんだ?爆発か?」

「そうらしいな。」

ここを曲がれば、真希の家である。そこを目をつぶって通り抜けた。パチパチといった音がきこえた。ゆっくり、瞼を開ける。眼に入ってくる視界を埋め尽くさんばかりの大量の炎。その家のまえで、真希がいた。必死に引きはがそうとしているロボットに対して能力でその場から一歩も動いていない。

「真希!!!真希!!!!はなれろ!!!!」

慎重に、その場所に近づきながら真希に対して呼びかける。ただ、まったく聞こえていないようで。がっしりと、自分の腕で真希の肩をつかみ、引きはがそうとした。

「真希!!!!真希!!!!!!!」

やっと気づいたようで、能力使用をやめ、真希がひきづられる。

「真白!!!!この中に、お父さんとお母さんが!!!!助けないと!!!!」

泣きもせずに、うつろな目で問いかけてくる真希。その言葉に、俺は黙って。なるべく冷静な表情を作ろうと努力して。ゆっくりと首を振ることしかできなかった。




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