第2話つまるところ、それはただの近未来②
「あーあ。又負けちゃったよ。」
「二回で十四点差で勝ってて、能力ありにするっていう舐めプしちゃうからだよ。君の能力と私の能力、圧倒的に有利なのは私なんだから。」
うう。耳が痛い。14点差を一回で逆転されたのはトラウマになりそうだ。
そこからの帰り道、突如爆発音が聞こえてきた。音の方向に、激しい炎が上がっているのが見える。
「暴走かしら?」
「まあ、暴走以外ではあり得ないだろ。」
能力の暴走。というか、俺たちの世代以外では体の暴走といわれるか。AIを中心とした社会が確立してきたころ、つまり僕たちのおじいちゃんぐらいの世代だが。突如、人体が暴走するという事態が発生した。今まで、極めて健康的であった、つまり、健康診断で一回も引っかかったこともないような人が手から火を出したり、また
は頭が爆発したりするのだ。その現象は当時の最新鋭のAIで研究しても、解明することのできなかった。今も真相の究明は続いている。
「ほんとに何で私たちだけ。」
その後の人類は、いつ起こるかわからない謎の体の暴走におびえて暮らすこととなる。が、僕たちは違う。01世代、と呼ばれる僕たちの世代は正確には、俺たちの世代からはこの「能力」を自由自在に。とはいかないが、どうにかして操ることができたのだ。
家に帰ってきたら、テレビで俺たち01世代の能力使用を社会全体で認めるか、といった議論をしていた。
「ただいまー。」
家に帰っても彼には家族がいない。AIが考えた全人類公平プロジェクトだかなんだったか。孤児、またはほかに親が経済的な問題や特殊な事情を持っている場合、その子供は他の子供と差をつけないために。他の子供と変わらない家。そして、物を与えられるのだ。両親がいないまま。物心つく前に、親に引きはがされるため寂しさはない。そういう子供はこの世代に1万人いると言われている。
「能力の仕組みも何もわかっていないんでしょう?そうだったら・・・・」
「しかし、社会で使ったら凄まじい効果を生み出すかもしれません。」
「決められた子供だけを使って、社会実験のようなものをしてみては?」
「その子供はどうやって決めるんですか?」
当事者からすれば、能力は意外と日常的に使っているし。人目のつかないところで使えばいいだけなのだが。
と、結局。30分ほどたってから、彼らの議論は立ち消え今度はコンピューターが登場してきた。
「コンピューターの試算によると、・・・・」
そのどうでもいい結果でさえも聞きたくなくて、彼はテレビをすぐに消した。自分たちが生まれてからどうも、人間を物として扱う世間の風潮が拡大しているように感じるのだ。気分が悪いどころではない。物語では、いつも道徳心の大切さを説いているのにだ。
戻れるものなら、本当に過去に戻りたいくらいである。
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場面は打って変わって、ここ京都ではある事態が政府の手を悩ませていた。
一部の動物の凶暴化、である。サル、鳥。鹿などなど。程度の違いはあれど、ほぼ例外なくすべての種族の一部が。生物として、凶暴化が報告されていた。
「まず、一件目。カラスがゴミ箱をあさっており、それをいつものようにほうきで叩こうとしたら、反撃され手に重傷を負ったと。」
「重症とは?」
「ああ。骨折寸前ぐらいまでらしい。」
それは確かに、通常のカラスではできないことだ。少し舐めてかかっていた者たちが真面目な顔になる。
「そのカラスの捕獲は?」
「いまだ、捜索中であります。」
「では、二件目。これはかなり深刻で。ジャガイモの農作物を荒らそうとした15匹ものイノシシが、農場の電気鉄線の罠を突き破りました。かなりの数のジャガイモが犠牲になっており、供給網に多大な影響が出ております。」
そして、話終わると、聞いていた者たちに写真が配られた。
「幸い、いや不幸中の幸いといった感じなのですが、この猪たちはAIロボット参式十体と引き換えに一匹を除いて捕獲が完了しています。」
写真の中に映っていたイノシシたちは、茶色いはずの体毛が薄く紫に変色しており、体も少し大きくなってきていた。
「世代が2つ前のロボット参式十体ですか。ジャガイモと合わせて、被害総額が大変なことになってますね。」
「人が死ぬよりはいいでしょう。これが続くのはまずいですがね。」
「とにかく早急に対策を考えなくては。」
「では、次の事例について。」
まだ会議は続いていくのだった。
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また場面は移り変わり、大阪。ここにも大規模農場が、其れこそ今回のイノシシのような動物が襲いそうな建物があった。その隣には、高校が存在しており、ここでの教育上の実習も行ったりしていた。それは、AIから行ってもそれは重要らしい。
そこの高校生三年生増田紘一。彼は、遅刻常習犯であった。決して、不真面目なわけではない。むしろ、授業は誰よりも真面目に受けていた。そんな彼がなぜ遅刻しているのか、理由はただ一つ。低血圧。ただただ、低血圧であるのだ。彼は、その特質ゆえに朝起きることは不可能!!!!!!!!!!彼に朝起きることを強要してしまっては、もはや死んでしまうとも思われた。
「早く教室に行かなくては!!先生に迷惑が掛かってしまう。」
彼は、家から最短の距離で、最速で教室へと向かう。
「ふっは、ふっは、ふっは、ふっは。」
そして、発見するのだ。少し紫がかったイノシシを。
「イノシシ?しかし教室に向かわなくては?」
と、いったん真っ直ぐ向かおうとする。が、
「むむむ!!!!この猪もしや、農場を狙っているのでは?」
いったん足を止め、
「農場には、私や、私の大切な同級生や後輩が育てた農作物があるというのに!!!!しかし、教室に行かなくては。先生方にもうしわけがない!!!どうしようか!!」
彼はその場で10分考え続け、
「うむ!!!わからん!!!!!」
そうしているあいだにも、イノシシは侵入を果たしていた。
「あ、待て、イノシシよ!!!!」
すぐに増田は追跡を開始する。
「ふむ!!!!少し痛いかもしれぬ!!!」
そういって、彼はこぶしをイノシシに対して振り落とした。その拳は、ドドカン!!!!といった効果音がいまにもえてきそうだった。もちろん、イノシシはその一発で完全に気を失ったのだった。
この出来事から、世界の歯車は徐々に回り始める。段々と、段々と。蛇行しながらそして01世代をその中心に取り込みながら。
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