つまるところ、それはただのファンタジー

絶対に怯ませたいトゲキッス

つまるところ、それはただの近未来

第1話つまるところ、それはただの近未来①

遠い昔。この世界には、木々があふれていた。らしい。朝の家の中からは、鳥のさえずりが聞こえて。夜には、虫の鳴き声が響く。花が花壇に咲き乱れ、自由に生きてい

た動物たちも存在していた。らしい。

じっと目をつむって。本から出てきた風景を頭の中で想像する。緑で埋まった風景を、服を草まみれにしながら草原を転げまわる自分を。

「またやってんの?」

残念ながら、その想像は真希の一言によって飛散してしまった。

「おい、いつもこれをやっているときは話しかけないでくれといってるじゃん。」

あと少しで、世界に入り込めそうだったのに。

「ごめんごめん、やっぱり面白くて。つい、話しかけちゃうんだよね。」

この顔は、まったく反省していないし。次も必ず同じことをやる顔だが、まあ許してやろう。

「しっかし、真白も変わり者だよねえ。今どき、紙の本なんて読んで。それで読んでる内容は大体、退屈な昔の内容でしょ?」

「退屈だあ?言わしてもらうと電子書籍は無粋だと思うんだよね。本の質感が全くといっていいほどない。何度も繰り返し読んでついた折り返しもない。そんなの本を読んだとは言えない気がする。」

この内容を、早口で一気に言い切った。

「紙の本を売っている本屋さんなんて、東京に何個あるんだっけ。確か、もう東京と大阪にしか残ってないって言ってたような。」

「ああ、東京に二店。大阪に一店だ。昔は、一つの町にたくさんあったらしいのに・・・・」

ため息をつく。高度に発達しすぎた科学経済の弊害である。

「あんたはたぶん、50年前に生まれた方がよかったんじゃないかな。」

「俺も物心ついたときから、ずっとそう思ってるよ。」


21世紀後半。今までのデフレを乗り越え、社会は急激にまた発展し始めた。その要因として、新たな資源の発見や科学技術の発展も挙げられるが、主な要因は政治、経済分野へのAIアドバイザー導入である。AIアドバイザーは、その名の通りAIがその会社の経営などについて実質的に指針を示す装置であった。AIアドバイザーは、テスト導入されてすぐその優秀さ・合理性により、各国の政治・経済の中核となり、ほとんどの物事の決定に関与することとなる。

そして、今に至る。AIによって、経済は今も速度で成長しており、人間にとって社会になっているはずだ。俺が学んでいる社会・歴史学が間違っていなっければ。

少なくとも、俺にとっては、最適な社会ではない。いまだ、開発中であるというタイムマシンを一番待ち望んでいるのは俺だろう。すぐさま、2025年代へと飛んでいくのだ。


「バッティングセンター、行かない?」

放課後、真希に誘われた。放課後は、本を読みたかったのだが。暇だしいいいだろう。

「いいよ。」


木の寿命が尽きるなどして落ちてくることがないように、人工植物で塗装された道路。不快感も、違和感もまったくといっていいほどしないが、逆にそう思わせないように完全に操作されていることに対して、嫌悪感を覚える。

「あ、珍しい。野生の鳥が飛んでる。」

彼女が指さした先には、確かに真っ黒い鳥が優雅に飛んでいた。

「ああ、あれは前に書物で呼んだことがある。確かカラスっていう鳥だ。賢くて、人間に害獣と認識されていた時期もあったらしい。」

「へ―。あんなきれいな鳥が害獣かー。不思議だね。」

不思議だなあ。


バッティングセンターで受付を済ませボックスに入った。目の前にバーチャル画面が表示される。

「何回分しますか?」

その場にはいない、大人の女性の声が画面から聞こえてきた。加えて、画面に3回、5回、7回、9回という選択肢が目の前に現れる。

「3回でいいよね。」

「うん、5回は長い。」

三回と書いてあるボタンを押す。

来る前にしたじゃんけんで負けた俺が先攻だった。

バッティングボックスに入ると、目の前の景色が目まぐるしく変わる。芝のにおいと、球場の歓声。すぐ横のキャッチャーとピッチャーの息遣い。マウンドがとても近く見える臨場感。もう無数に来ているから慣れたが、最初は本当に自分がプロ野球選手になったのかもしれないと思ったほどだった。

「はー。何度見てもすごいわ、この技術。ええと、VR技術の応用と光彩が人間の脳に与える影響と錯覚を利用している・・・だっけ。まあ、よくは知らないけどとりあえずめっちゃすごいってことはわかるわよね。」

「高校生に限らず、大体の大人でもそんなもんだろ。こんな複雑な仕組みが全部わかるやつはいねえよ。」

そういいながら、バーチャル世界内のピッチャーが腕を振りかぶるのを見て、慌てて準備を始める。

「ストライーク!!!!!」

ボールは、見事な音を立ててミットへと収まっていった。

「へい、へい、見えてないんじゃねえのバッター。」

真希が女の子とは思えないようなヤジを飛ばす。いつものことだ。

「見てろー。」

ストレートにタイミングを合わせて、バットを振る。

スカッ、と大きな音を立ててバットが空を切った。

「くっそ。変化球かよ。」

追い込まれた俺は、バットを短く持つ。

コンパクトにコンパクトに、と唱えながら目をボールに集中させた。

「わかってると思うけど、能力なんか使っちゃだめだからね。」

「わかってるって。」

振りぬいたバットは、快音を響かせてボールに当たった。


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