第3話

 濁流がすごい早さで川を下っていた。

 ローレンスの言った通り橋には船も引っ掛かっているがそれよりは目立つのは大きな流木だ。一本どころか結構な量が留まっている。

 本流のダーゼル川がこれではデスネーデ川はどんな現状なのだろう。

 首から紐をさげてカロサリーの自室に戻りまたベランダへと出て双眼鏡デスネーデ川を眺める。

 こちらの方には船は見当たらず流木は少ないが川縁の崖は少し崩れたり削れたらしく根本が不安定な状態の木々が数ヶ所確認できた。

 しかし、浸水しているかどうかまでは双眼鏡でも確認はできなかった。

 振り替えって壁掛け時計をみると朝食の時間をゆうに越えてしまっていたため慌てて部屋を飛び出した。

 早足で食堂へと向かう途中でローレンスとデヴィッドに遭遇し玄関ホールでメイドのステラと合流する。

「川沿いの家は水に浸っしまっているかしら」

「町にまで水は着ていませんが、浮いている木々がおおいので流れが穏やかになったら撤去作業に移るらしいです。執事長が執務室に引き込もって男手はあっちこっち様子をみに行っててます」

「そうか、朝から迷惑をかける」

「いえ、仕事ですから。お気遣いありがとうございます、ローレンス様」

 ステラは住み込みでうちにいるメイドの中では一番若い。家族はデスネーデ川から数キロの所に住んでいると話していたことがあった。

 私たちを優先してくれているが、内心では駆けつけて顔をみたいだろうに。

 カロサリーにはなんともいえないやるせなさでなんと声をかけて良いかわからない。それは兄二人も同じようで皆、口をつぐむ。

 朝食をとり始めても誰一人として声をかけず、静寂のまま食卓を囲んだ。

 食堂には鳥の囀ずりと微かに咀嚼音とカトラリーを動かす音が聴こえるだけの、なんとも屋敷では珍しい光景ができあがる。

 手早く朝食のデザートまで食べ終えて、席を立つとステラが扉を開けてくれた。

 綺麗に磨かれた木目の階段を上がりきって、二階中央の扉をノックして一呼吸置く。

 はい、と中から声が微かに聞こえたのを確認しカロサリーはノブに手をかけた。

「執事長、おはよう」

「おはようございます、お嬢様。こんな時間にお珍しい、なにかありましたかな」

 安心感のある微笑みと優しいハスキー・ボイスの主は椅子に座ったままカロサリーの様子を伺ってくる。

 カロサリーは視線を動かすと事務机は天板が見えないほど書類が散らばっていて、壁側に設置してある本棚は所々で本が倒れていたり、普段閉じたままの扉が開きっぱなしと少し室内は荒れ模様だ。

「なにもないけれど、訊ねたい事があっだけよ。お兄さまたちと外で遊ぶ許可が欲しかっただけなの」

 カロサリーがフフっと微笑むと書類にチラチラとピーターは目を泳がせ始めた。

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