第4話
「左様で、ステラを伴に着けて頂ければ、なにも云いますまい。では、申し訳ありません。仕事が詰まっておりまして」
一枚だけ適当に手に取ると、ピーターはピラピラと解散の合図をとった。
だか、一番聞きたいのはそこではない。
遠回しを止めて分かりやすく確認し直してみる。
「ありがとう、なら心置無くデスネーデ川で舟遊びをしてくることにするわ」
それは許可できない、と途端に鋭く目を細め一段低い声で止めてきた。
やはりな、とカロサリーも内心で頷く。
となるとローレンスとデヴィッドが独断でデスネーデ川へ遊びに行く計画を立てたらしい。テラスで濁流を確認させる前だったらデヴィッドなら強行突破する可能性があっただろう。
しかし、朝食の時点ですっかりその気では無くなっていた。
「よかったわ。お兄さまたちが朝いきなり、今日は舟遊びをするぞ、と言われてわたくし集団自殺に巻き込まれるのかとヒヤヒヤしていたの」
頬に手を当て小首を傾げ、カロサリーは憂鬱そうな雰囲気をつくって話を続ける。
実際、デヴィッドの朝の発言には自殺幇助の疑いをかけられるぐらいだった。それを思い出せばいくらでも鬱々できるものである。
「最悪、舟遊びは大人たちが街でする事になるでしょ?
今はまだ食堂に居るだろうからいいけど、お兄さまたちがそんな姿を見たらきっと真似をしたがってしまうわ。泳ぎに街へ降りて行かれてしまうかもしれない」
釘を指して貰おうとここまで兄二人の行動予測を語って畳み掛けてはみたものの、一向に動く気配も無い。
情報開示がされないのも不自然である。
カロサリーは情報がまだ出揃っていないのか、とワンピースの前で組んだ手の平がじんわりと汗をかく。
ユア(仮)の知識や経験を使っても中途半端過ぎて歯が立たない。探ること自体が不慣れでなにも引き出せない。
全くもってお手上げだ。
ピーターから目線を外し腕をあげて大きく深呼吸をしながら、何度もまばたきをして瞳の潤いを補充する。
ため息をのせて大きく息を吐くとカロサリーはポンと手を合わせた。
「厨房に声をかけて軽食を準備させるわ」
結構です、と首を左右に振るピーターに有無を云わさず畳み掛ける。
「軽食に熱い紅茶もつけるから、その間にお兄さまたちに長めに釘を指しておいて貰えないかしら?」
死人を出したくはないでしょう、とカロサリーが出せる最大の圧をかける。
半強制休憩のお知らせだ。
これで駄目なら、最終手段に移る他がない。
圧の限度をさまよい始めた矢先、視界の端に棒切れかなにかを振り合う人影が二つ紛れ込んできた。
慌ててピーターの背後にある窓にへばりついて目を見張る。
天の助けか、偶然が運んだ奇跡か庭にローレンスとデヴィッドがそこにはいた。
そこからは無我夢中である。
「あ、ローレンスお兄さまにデヴィッド兄さん…!」
カロサリーは声のトーンをあげた。
目線をピーターと窓に交互にやって煽り倒し、終いには腕をグイグイ引っ張って椅子から立たせ真下を覗かせる。
「まあ、わたくし抜きでやはりお二人とも舟遊びに行かれてしまうのね…… でも、わたくしが止めても聞く耳をもっては……ねぇ、執事長?」
ここまで言うとピーターも流石に慌てた様子で部屋を飛び出して行った。
実はピーターが真下の確認をしていた間、最後の最後でうっかり口角をあげそうになった。が、すんでで耐えたカロサリーを誰か褒めてほしい。
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