キザなRye

第1話

「えっ、てるてる坊主?明日、晴れだよ。」



「天気じゃなくて気持ちを晴れにしようかなって、」



明日は私の高校の卒業式、華やかな気持ちで卒業する人は多分いない。私達の学年は入学した年から疫病が世に蔓延し始めて入学前に想像していたような高校生活は送れなかった。友達と自由に遊びに行こうだなんてことは御時世的に到底言えなかった。私たちの華の女子高生ライフがどこかに消えてしまった。

多分、私と同い年の高校生たちや先輩、後輩たち、この世代のすべての人たちが思い描いていた高校生になれなくて苦しんでいる。

高校生活自体が楽しくなかったという人はいないと思う。例年よりも厳重な規定が設けられたものの体育祭や文化祭が実施はされた。例年とは違うことに先生や親からの多少の配慮もあった。

楽しかったことには間違いはないが、思い描いていたものとはどこかが違った。言葉では言い表せない“何か”がそこにはあった。



「一人で考えたの?」



「いや、“とりカラ”全員で考えてみんなやってるよ。」



ちなみに“とりカラ”というのは“取り敢えずカラオケに行き隊”の略である。



「麻衣ちゃんとか聡美ちゃんとかも?」



「もちろん。提案したのは私だけど企画はまいちんプレゼンツだから。」



ママと話をしながらもてるてる坊主を作る手は止めない。てるてる坊主は顔の丸さとかワンピースの綺麗さとかも大事だけど顔のパーツのクオリティーが求められていると私は思っている。



「よしたける、皆の心を晴れにするんだよ。」



私はてるてる坊主を猛と命名し、東側の窓の端にくくりつけた。これがみんなにしてあげられる最大のことなんだ、最後くらいは華々しく卒業式を迎えたいし全員がそう思ってほしい。

私だって大人になって高校時代を振り返ったときに色々あったけど楽しかったと思えるように高校生活の締めの卒業式に向けて気合いが入っている。



「明日が良い卒業式になりますように。」



猛に手を合わせてママはそう言った。卒業式に対して親子考えていることは同じということだろう。ママのその行動に何だか嬉しさを感じた。明日頑張らなくちゃと思わせてくれる。








朝起きると眩しいくらいの澄んだ日差しが部屋に入ってきていた。よし、とガッツポーズをする。いつもよりも気合い入れなきゃ、と髪のセットはもちろん制服はアイロンを念入りにかけてシワ1つない綺麗な状態にしていた。みんなにも私にも卒業式は人生で1度このとき限りなのだから自分なりにいつもとは変えなくちゃね。




「行ってきます!」

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キザなRye @yosukew1616

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