Episode1-8 昼行灯 狙い撃つぜ


 ノルトキルヘンシュタイン城 地下射撃場


 最大射程500mの射撃が可能な巨大なトンネル射場は、有事の際のシェルターを兼ねて建設されている・・・このため王城から直接入ることができる。


 小島とノイン、ヴィッセンシャフトの3人は、M16のフリをした戦車砲という、馬鹿げた銃の試射に来たのだ。


 ヴィッセンシャフトは数十発の弾の入った弾薬箱を手渡した。練習用に作られたそれは初速や弾頭重量などを本物の弾薬と同じように調整されたもので、タングステン弾芯のため貫徹力が十分の一以下だ。・・・それでもかなりの威力だが。


「・・・これ、撃ったら反動で怪我とかしないよな?」

 小島は弾倉に弾薬を込めながら不安そうに尋ねると、ヴィッセンシャフトは普通に撃てると言うが・・・・


「普通、ねえ・・・」


「魔法の補助なしで撃てないと只人は撃てないだろ?」

 ヴィッセンシャフトは力瘤を作って、自分が人間族ではなくドワーフのハーフであることを告げた。


「・・・ドワーフハーフね・・・」


 只人という言い回しに納得した小島は慣れた手付きでアッパーレシーバーを取り外して遊底とチャージングハンドルを引き抜くと、2脚を取り付けて射台の上に置かれた皮の砂袋を積んだ上にアッパーレシーバーを置いて、予備のスコープでレシーバーを覗き込んだ。


「・・・何してるんですか?」

 ノインが不思議そうに尋ねると小島はボアサイトだとぶっきらぼうに答えた。


 小島は砂袋をうまく調節して銃身を100メートル離れた目標の四角い板の左下角に向けると、アッパーレシーバーに直にマウントされたスコープを覗き、スコープのクロスを調節し、再び銃身を覗き込んで銃身が動いていないか確認し、銃を組み上げた。


「とりあえずこれで撃ってみるかね・・・目見当なんだが・・・」


 小島は弾倉を込めるとチャージングハンドルを引き、初弾を薬室に送り込んで照準を合わせた。



 轟音と馬鹿げた量のマズルファイヤが薄暗い射場を一瞬昼間にする。 



 目標は厚さ5ミリの防弾鋼板に白く塗装しただけのものだが、弾丸は易々と貫通した。

 弾痕は射入孔が異様に小さく針の穴のようだが、普通の鉛弾では12.7mmクラスでなければ一発で貫通することはない。


「思ったほどの反動じゃないけど・・・弾着が全く見えないな・・・」


 小島はさらに2発を射撃したところで可変倍率スコープの倍率を上げ目標を確認すると着弾点が狙点から下に3センチほど逸れていたが、親指の先ほどに集弾していた。

 空力性能が高い矢のような形状のAPDSFSはボアサイト通りの着弾をした。


「凄いなこれ!これだけでも持ち帰ったら・・・」


「あー・・・そのことなんだがな・・・」

 ヴィッセンシャフトはバツが悪そうに何やら言い訳めいた事を言おうとすると、ノインが少し身構えた。

「実はこれらの武器の殆どが、あちらに転移すると使えなくなるんだ・・・魔力そのものを転送することがどうしても出来なくてな・・・」


「え?・・・でもそれならこの銃は・・・」

「使用されている火薬は魔力を帯びていてな、送る火薬は普通の威力に戻る・・・銃身はミスリル合金を使っているしそれにも魔力が乗っていて・・・」


「なるほどね・・・」


 ヴィッセンシャフトが言うには、それを聞いた前任者・・・フジイとやらはテスト中のア○アンマンとレーザーブレードを持ち逃げしたという。


「ここに残れば俺TUEEE・・・か」


その言葉を聞いてノインが嫌な顔をした。


 藤井とやらもそう思って装備を持ち逃げしたのだから当然だろう。


 小島は気付かないふりをしてスコープの調整をし、今度は500m先の目標に狙いを付けた。そのままリズミカルに5発射撃し、25センチ四方の的に全部命中させた。


 小島は満足げな顔で弾倉を外すとチャージングハンドルを引き、薬室を空にした。


「武器はまあいいとしてだ、腹も減ったし飯にしてくれないか?今後どうやって藤井とやらを捕まえるのかも話したい」


 小島がそう提案すると、3人は再び応接室に戻り今後の話し合いをすることになった。

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