Episode1-4 昼行灯 謁見

 転移魔法陣の部屋を出ると、富士の施設と全く同じような長い地下道を抜けると、体育館ほどの広さの部屋に出た。

 部屋には大きな鉄扉があったが、馬車が近づくと開いた・・・魔法仕掛けの扉だとノインは説明してくれた。


 そこは城の裏庭だった。


 その城は富士にそっくりな山の中腹に出入り口を麓から隠すように建っていた。

 ノルトキルヘンシュタイン城と呼ばれるその城は、外周を堅固な城壁に囲まれた要塞のような城だった。裏庭は城壁の外に造られていて、城壁の出入り口は馬車がギリギリ通れる程度の大きさの鉄扉が城壁の角にひとつだけ。

 

 扉に近づくと鉄扉が開き、城の裏側から表側へ馬車は進むと、サッカー場なら6面はとれそうな美しい芝生の庭のど真ん中に石畳の通路が敷いてある。


 片隅に馬車を停め、ノインの案内で城に入り、階段を上がった先の広間に入ると、赤い絨毯の通路の脇に槍を持ったフルプレートアーマーの近衛兵が並び、正面に見える台上の玉座には王冠を被った初老の男性が座っていた。


「おお、コジマ! そなたの来るのを待っておったぞ!」


 どこかで聞いたような台詞で出迎える王様に小島はキョトンとしていると、ノインは呆れた顔をした。


「お父様・・・またド○クエの真似なんて・・・」

 ノインの説明によると、生き物を送る前に様々な物を送る実験をしたそうで、試しにTVとファ○コンを送ってみたら王様はえらく気に入り、以来この調子なのだという。


ん?お父様?


「え、ノインはお姫様だったの?」

「・・・色々あって王位継承権はないのでお姫様ではないんですけど、私の父親が王様であるのは事実なので・・・」


・・・色々ねぇ。


「安心したまえ、ひのきのぼうとぬののふくにはした金で魔王を倒せとかいう無茶苦茶な要求をするつもりはない・・・」


「いや、俺みたいな昼行灯が逃げたエリートを探してこいとか無茶苦茶もいいとこじゃ」


・・・・と、言い終わる前に左右の近衛兵が数人、飛び出すように出てきて小島の眼前に槍を構えた。近衛兵の顔には無礼者めがと書いてあるかのようだ。


 王様は右手を上げて制すると、近衛兵はゆっくり元の位置まで下がった。


「普通の人間はそんなに平然としていられないと思うんだがね・・・」

 言いながら玉座の脇から出てきたのは黒いローブを着た端正な顔をした男性だった。

 大魔導師アインだと名乗ったその男が両手を広げると、玉座との間に小島の情報が投影された・・・


「小島 照」


そこには身長体重、過去の勤務成績や射撃などのあらゆるデータが示されている・・・

大魔導アインは、大げさな身振りで説明を始めた。

これでジーンズにニットならスティーブジョ○ズそっくりに見える。


「一見するとごくごく平凡なように見えるが・・・例えば射撃検定や体力検定は点数が平凡だが、毎年ほぼ同じ成績を取っている。普通に考えたら毎年限界まで頑張っている、と解釈するが、他の人間は調子の上下があるものなのに安定しすぎているね。」


「・・・・」


「他にも色々あるが、このデータからはこの人物は何らかの理由で意図的に低い成績にしているという事が見て取れるのだよ・・・」


「買いかぶりすぎだよ・・・俺にそんな能力なんてあるわけな」


 言い終わる前に近衛兵全員が槍を全力で小島に向って投擲した。


 

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