Episode1-3 昼行灯 異世界に転移する

 鉄扉は閉まっていて逃げ場もなく、車で轢き殺されるとあって、小島は拒否するのを諦めて、若原2佐の指示通りに魔法陣の上に移動した。


 若原2佐が2つの魔法陣の手前に設置された操作パネルを操作すると、魔法陣が輝き出した。


「では小島2曹・・・異世界の王城の地下に転移させる・・・魔道士が待っているので指示に従え・・・」


「おいちょっとまて?言葉は通じるのか?せめて武器は・・・」


 小島は疑問を言い終えることはできず、魔法陣は強い光に包まれて、小島の姿はその場から掻き消されてしまった。


「転移成功だな・・・」


若原2佐は笑みを浮かべて地下施設を去った。



 小島は目を開けると、そこには富士の地下施設とほぼ同じような地下施設の魔法陣の上に居た。

「なにも起こってな・・・クルマがないな」


 富士の地下施設には数台の車両が停まっていたはずなのに一台もない。


 だが魔法陣の操作パネルの前には白いローブに身を包んだ・・・若原2佐に顔がそっくりの女性が立っていた・・・


「ようこそノルトキルヘンシュタイン城へ!私は魔道士のデア ツァウベラー・ノインといいます!」


 若原2佐とは違い明るく朗らかな口調で彼女は言った。


「・・・あの、言葉は通じてますか?」


 小島は言われて気がついたが、彼女は日本語を話していない。にもかかわらず何を言っているか完全に理解していた。


「ああ・・・通じている。大丈夫だ。」


 奇妙な感覚に驚きながら日本語で話すと、ノインは心配そうな顔を笑顔に変えた。


「やった!大成功!」


 ノインが言うには魔法陣は転移だけでなく、言語の相違を埋めてくれる効果と、病原体などを取り除いたりしてくれる・・・らしい。


「・・・それで喜んでいるとこ悪いんだが、どうやったら帰れるのか教えてくれないか?」


 小島が尋ねるとノインは首を傾げた。


「あの・・・コジマさん・・・ワカハラは言わなかったのかも知れませんが、転移に成功したのは貴方で二人目なんですけど、元の世界に帰ったのは最初の転移実験の犬だけです・・・」


「ん?どういう事なんだ?」

 小島は違和感を感じつつも、理由を問うことにした。


「・・・実はあなたの前任者は、優秀な自衛官だったのですけど、あろうことか我が国の最高峰の装備を持ち逃げして行方不明になってしまったのです」


「えぇ・・・・」


「なのでコジマさんには、その装備を取り戻していただき」


「ちょいまち」

小島はノインを制した


「色々おかしいので質問させてくれ・・・まず俺より優秀な人が逃げているのにそいつを見つけて捕まえるってのは不可能だろ?」


「その通りだとは私も思うのですけど・・・自衛隊の上層部は転移しても帰らないならエリート人材を寄越すことはないということで」


「で?」


「その上で選ばれた候補者のあらゆる履歴・・・入隊してからの成績などの全てのデータを大魔導師アイン様が分析し、貴方が選ばれたのです・・・」


「・・・・もう一つ質問だ」


「はい」


「なぜ、候補者のデータをアイン様とやらは見ることができたんだ?こちらから転移したのか?」


「いえ・・・そもそも私とワカハラは魂の双子なので・・・お互いの記憶や感覚を共有しているのです・・・」


「つまり、転移しなくても情報は伝わるのか?」


「はい・・・それがこの異世界転移プロジェクトの発端なので・・・次元を超える力は私とワカハラの二人が魔法陣を作動させなければ起動できないのです」


「え・・・つまりあの若原2佐は異世界の人?」


「いえ・・・彼女はこちらで生まれた訳ではないのですけど・・・ワカハラと私は異なる世界で同時に生を受け、成人してから感覚や意識がハッキリ繋がるようになったので・・・」


「・・・・」


「とりあえず王様とアイン様がお待ちですので、これからお会いして頂きたいのです・・・」


「やれやれ・・・」


 ここで目の前の魔道士とやらに何を言っても帰れないようだとやや諦めの気持ちで王様とアイン様とやらに会いに行くことを承諾した。

 すると出入り口の鉄扉が開き、一頭立ての馬車が現れた。御者がいないにもかかわらずその馬車は二人の前で停まり、牽いているま馬・・・まるでばんえい競馬の輓馬のように大きいその馬は、こちらを見た。


「ありがとう」


 ノインは馬に礼を言った。


 二人が乗り込むと、何の指示もされていないのに馬は出入り口に進み、転移魔法陣の部屋を出ていった。

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