Episode1-2 昼行灯 富士学校に

静岡県 富士学校


 陸上自衛隊の人材育成の中枢として設立されたここ富士学校には、開発実験団が駐屯している。

 各種装備品の開発実験を担う部隊で、装備品ごとに7つの実験科に別れている・・・とウ○キにはある。


 小島は開発実験団本部の人事部に「開発実験団 第9実験科」と書かれた異動の発令通知を渡すと、人事部長の顔色が変わった。


 人事部長の電話で来た迎えの高機動車は、小島を乗せて富士演習場へ出ると、市街地訓練場の片隅にある倉庫の中に入った。

 電動シャッターが閉まると、車ごと床が下がっていく。小島は驚いていた。


「富士にこんな施設があるなんて・・・」


 エレベーターが下がり切ると、目の前には車1台分のコンクリートトンネルがある。まるで秘密基地のような造りだ。


 トンネルは照明がなく緩い下りになっていた。小島を載せた車はライトを点けて進む。


 随分進んだところで道が水平になり、分厚い鉄扉が待ち構えていた。車が近づくと開き、通過すると閉まる。5枚ほど通過したところで狭いトンネルを抜け、車が停まるとそこには照明のついた体育館ほどのスペースが広がっていた。


 その奥には、五角形のコンクリートの床が2つ、それぞれに魔法陣のようなものが床に描かれている。


 車は小島を魔法陣の前に降ろすと入口の横に車を停めた。よく見ると駐車スペースらしく数台の車両が停まっている。


「第9実験科へようこそ、小島2曹」


 そこに待っていたのは、小柄な女性幹部だった。

「第9実験科 科長の若原2佐だ・・・着隊を歓迎するよ・・・」


 小島は敬礼し、口を開こうとしたところで若原2佐は人差し指を立ててそれを制した。


「小島2曹・・・自己紹介は不要だ」

 若原2佐は制した手を引っ込めると、持っていたバインダーに目を落とした。

「資料は読ませてもらった・・・体力、射撃、格闘など極めて平凡で能力は標準的・・・多少勤務態度は不真面目だが、独身で見よりもなく、恋人もいない・・・病気もしてない健康体・・・まさに理想的だ」


「何に理想的なんです?」

小島が少しムッとしながら問うと若原2佐は少し笑いながら応えた


「決まってるじゃないか。異世界転移だよ」

 若原2佐は当たり前のことを聞くなとでも言わんばかりの顔で言った。


「君は自衛官として異世界転移実験の・・・被験者に選ばれたのだ」

若原2佐は満面の笑顔でそう言った。


「本来君のような者が選ばれるはずではないのだがね・・・エリートを送る前に誰でも転移できることを確認したいと上層部が横槍を入れてきてね・・・」


「・・・これまで人間を転移させたことは?」


「安心したまえ。犬では成功して、ちゃんと帰ってきたよ」


「・・・・拒否したらどうなるんですか?」


「これは国家機密だからな・・・そうだな・・・実験を変更して、異世界転生にしようか」

 若原2佐は目を細めた。

「よくあるだろ?車に撥ねられて転生するのは・・・」

 若原2佐が冷たい表情で言うと、小島を載せてきた車のエンジンが掛かった。


 どうやら拒否はできないらしい。









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