-白銀-
-昼前・騎士団詰所
ー俺…ドミニクが部屋に入った瞬間。今まで経験したどの『実戦』の時よりも緊張した。…理由は簡単。
「……」
その部屋の主が、プレッシャーを放っていたからだ。
「(…どしたん?)」
「(…っ!ドミニク副隊長、良い所に…)」
近くの部下に状況を尋ねると、彼は物凄くホッとすると共にチラッと、プレッシャーの『発生源』-ニーナお嬢を見た。
「(…実は、二時間くらい前からあんな感じに……。)」
「…もしかして、シオン様と連絡が-)」
その途中で、俺は首を振った。
「(…今日もシオンお嬢は、アクウェル夫人と行動していたはずだ。…もちろん、護衛付きで)」
「(…そうでしたね……。
…あ、そうだ…-)」
彼はそっと立ち上がり、近くの棚からバインダーを取った。
「(-『これ』の確認をお願いします)」
「(…ああ。
ふむ-)」
それ…例の『少女』の動向を記した物を受け取り素早く目を通した。
「(-…ん?)」
何枚目をめくったその時。俺はある『違和感』を覚えた。…なので念の為、『ある点』に注意しながらもう一度下から見はじめた。
「(…副隊長?)」
「(-彼女、同じ行動を繰り返しているな…)」
「(え?)」
「(まずは、『ここ』読んでみ……)」
俺は、報告書の『ルート』の部分を指差した。
「(…これが、どうしたんですか?)」
「(そしたら今度は、『四~五枚後ろ』の三人組の『ルート』を見てみ?)」
状況が飲み込めない彼に、俺はバインダーを返しながらそう告げた。
「(…はい……-)」
彼は言われた通り紙をめくり、そこを注目した。
「(-…あ、確かに……。
『入った店舗の順番』が違うだけで、同じ通りを移動してます)」
「(そうだ…。
…だが、問題は『何を意味して』いるかだ。…とりあえず、店舗の人間の『確認』をー」
「-やっぱり、遅い……」
やり取りの最中、不意にニーナお嬢が呟いた。
「-…タクトの事ですね?隊長がぴりぴりしてる理由は…」
「…すまない。…どうやら、怖がらせたようだね」
そこでようやく、ニーナお嬢は《プレッシャー》を出している事に気付き、申し訳なさそうに謝った。
『……っ。……』
《プレッシャー》が消えた事で、部屋の中に居たメンバーはホッとした。
「-…で?何か分かったのかな?」
「…とりあえず、分かったのは-」
俺は先程までのやり取りを、かい摘まんで伝えた。
「-…そうか。
…どう思う?」
彼女の問いに、俺は苦い表情になった。
「…どうもこうも、《騙されて》ますよね……」
「ああ…。
とりあえず『確認』が取れるまでに、準備を」
「…了解。
-全員、注目っ!」
『はっ!』
俺の号令に、部屋に居た全員が一斉に立ち上がった
「現時点をもって『緊急出動』を発令するっ!出動範囲は、《イレツ森林》及び周囲300メルグになるっ!
そして、これはまだ未確定だが、出動範囲全域が《ファントムエリア》と化しているので、《アンチファントム》の物をっ!それと《シャインガード)》に不安がある者は、それも装備しておくようにっ!
…質問は無いか?」
『……』
誰も手を挙げなかったので、俺は先程の彼に目を向ける。
「-…無いようだな。
では、騎士フランっ!」
「はっ!」
ビシッと敬礼をしフランに、俺は改めて指示を出す。
「君は《通信室》に行って、《冒険者協会》には《イレツ森林のクエスト参加者》が『戻って来ているか』と、《ダンジョンガード》との《コンタクト》が取れるかを確認して来てくれっ!」
「はっ!了解しましたっ!
では、失礼しますっ!」
フランは迅速かつ静かに、部屋を出て行った。
「では、残りの騎士は彼が戻って来るまでに、準備を済ませておけっ!」
『了解しましたっ!』
残りの騎士達は、フランと同様に迅速かつ静かに整列し、早足で部屋を出て行った。
「-さて、私達も準備を始めようか」
「ええ…」
俺とニーナお嬢は、すぐ側の二つ並んだドアに入った。…タクト……。
俺はタクトの無事を祈りながら、素早く《装備》を身に着けていった。
-…この時の俺とニーナお嬢は、知るよしもなかった。…この事態は、ただの『始まり』だったという事を。そして、『全部を容易く』片付けられる《存在》が、この世界に《存在》しているって事を……。
☆
-《イレツ森林》
-っ!?
直後、俺は咄嗟に《ノーマルパワー》で身体強化し三人を突き飛ばした。
「「「-っ!?」」」
その直後。突然三人の居た足元から、どぶ川のように濁った色の《壁》と同じ色の《腕》が出現した。
《ウィンドフライ》っ!…っ!?…くそ、分裂する上に早いとか、勘弁してくれよ……。
即座に《飛ぶ》が、《腕》は枝分かれをしながら急速にこちらに迫った。
「-っ!?ダメッ!」
なんとかぎりぎりで避けていると、不意にヒナが叫んだ。
-……え。
俺は《進路》を見て、固まった。…大量の《手》が、目前に迫っていたからだ。…く…そ……。
《手》はそのまま頭に纏わり付き、俺の意識を奪い始めた。……っ。
そして、追って来た《腕》に巻き付かれた俺は、完全に動けなくなった。
「タクトーッ!?」
…ま、ずい……。…飲み込ま……れる……。
ヒナの悲痛な叫びが聞ききながら、俺は《腕》によって《壁》の前に運ばれ-。
『…っ。……ま……れ……』
…い……しき、が……-。
成す術無く《壁》に飲み込まれて行き、ついに意識を手放してしまった。
-《アブソリューションプロテクト》。
だが、不意にどこからか声が聞こえた。…すると、頭が一気に目覚て行くのを感じた。
「……-」
完全に頭がすっきりするのに合わせて、俺は目を開いた。…こりゃまた、凄い事になっているな……。
目の前に広がる《光景》を見て、俺は言葉を失った。
…例えるならば、『下水道』と言うのがピッタリな状況だな……。
真夜中以上に真っ暗な空間と、空間全体に悪臭のように漂う《イリーガルオーラ》を感じ、俺はそんな事を思った。…って、なんだこれ?
よく見たら俺の体は、銀色の優しい《光》に包まれていた。どうやら、この《光》が俺を護ってくれたらしい…。
-…ん。これは、《発生源》の位置か?
ふと《モノクル》が、俺の立っている所からまっすぐ十メートル進んだ先、そこから南西と南東六十メートルくらいの地点に、《発生源》がある事を教えてくれた。
「(-これらを壊せばいいのか。)
《ウィンドアクセル》」
直ぐに、一番近くの《発生源》に向かった。
そしてものの数分でそこに迫ると、白い《燭台》に乗ったクリーム色の《ろうそく》だけが置いてあった。…その先端には、灰色の《火》が揺らめいていた。
俺はとりあえず、右手に《ファントムオーラ》を溜めようと-。
-…いや、《これじゃ》ダメだ……。…もっと、《強く》……。
何故かそう思い、俺は一旦溜めるを止めた。そして、『強く』イメージした。
すると、《モノクル》は一つの《答え》を出した。
俺は、直ぐに《答え》を口にする。
「《アブソリューションフォース》、《ファントムマナ》。
-《同調(シンクロ)》」
言葉と共に、俺の体を包む《銀の力》と《ファントムオーラ》が融合していくのを感じた。
「-《アウェイクドライブ》」
そして俺の体は、クリーム色の外殻を持つ銀の光に包まれた。
-っ!来る…。
どうやら、《発生源》の《防御機能》が発動したようだ。…その証拠に、足元が少しづつ《不安定》になっていくのを感じた。
「(-…こうかな?)
《アウェイクメイル》」
《モノクル》の『再現』に従い、全身を《鎧》で護った。
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