-覚醒-


『……-』

 直後、目の前の地面から灰色の《オーラ》を纏ったスキンヘッドの大男が、生えるように現れた。その目からは、生気が感じられなかった。…一緒の会場に居た人だ。

 そして彼は、《ガントレット》を装備し。尋常じゃないスピードで殴り掛かって来た

 しかし、俺は慌てずに腰を落とし右手を前に出した。…なるほど。《イリーガルオーラ》には、《ドーピング》の作用もあるのか……。

《ガントレット》で受け止めた彼の拳は、尋常じゃないほど重かった。

 直後、彼は《イリーガルオーラ》を纏わせた靴で、脇腹を蹴って来た。

 だが、その攻撃も《胸当て》に弾かれた。…しかし、どうなってんだ?

 一旦彼から距離を置きつつ、沸き上がる疑問について考え始める。

 だが、彼は直ぐに距離を詰め、拳を振り下ろした。…この《空間》や彼の《力》は、どう見ても《幻昴》だ。…けど-。

 考えながら足を半歩下げ、拳を避ける。

 -…どうして、《イリーガルオーラ》と併用して使えるんだ?


『-……っ』

「(まあ、とにかく今は彼を無力化しよう。-……フムフム。)

《アウェイクスタンプ》」

 俺はすかさず、《大きな手》で彼の背中に触れた。…よし。

 すると、背中に銀とクリーム色の《魔法陣》が刻まれた。そして、《魔法陣》は彼の体を包む灰色の《オーラ》を、すべて吸収した。

「(えっと…-)

《アウェイクシェルター》」

 再度操られるのを防ぐ為、彼の周囲に《結界》を展開した。…後は。

 俺は背後に視線を移し、ゆっくりと《発生源》に歩み寄った。

「(-…あ、《やっぱり》か。)

《アウェイクハンド》」

 右手を上に掲げ《大きな手》を作り出し、勢い良く振り下ろした。

 直後。足元の暗闇が薄くなっていき、『地面』が見えるようになった。

「…『ファーストフェイズ・クリア』」

 何となくそう呟き、俺は南東に向かって走り出した。



 -…次は、あれか。

 しばらく走っていると、視界の先に細長い《ツボ》が見えた。

「-《ウィンドブレーキ》っ!《ノーマルシールド》っ!」

 だが、俺は直ぐに足を止めて《防御》の態勢に入った。…目の前から、一本の《矢》が飛んで来たからだ。…あ、これは-。

《矢》が『ドゴッ!』と音を立てて《壁》突き刺さったのを見て、俺は《結果を視る》方法を《尋ねた》。

「-…《アウェイクマスク》。

(…ああ、《持たない》な)」

 直後。俺はさっさとそこから離れた。…危ない危ない……。

 俺が離れた数秒後。分厚い《壁》は大量の《矢》によって、あっさり穴ぼこだらけになった。

 どうやら二人目は、ぽっちゃりした体型の男性のようだ。


 -…なるほど。そう来るか…。

《マスク》から伝わる《光景》を見て、俺は右上を見た。…そちらから、数十本の《矢》が迫って来ていた。…どうやらこの《マスク》は未来だけでなく、《隠蔽》も見破れるようだ。

「-《アウェイクドーム》」

《モノクル》の指示通り《傘》を出現させ、頭に飛んで来た《矢》を防ぐ。

 するとまたしても、前方から大量の《矢》が飛んできた。…《実体》で陽動し、《幻》で決めるつもりだろうか。…うーん。『《一部》だけでも、《変えられない》かな』-。

 俺がそう考えた矢先、《モノクル》は《答え》を出した。

「(イケるんだ…。)

《アブソリューションフォース》、《ノーマルマナ》。《シンクロ》

 ー《ノーブルドライブ》」

《右腕》の部分に、乳白色と銀色で構成された《オーラ》を集めながら、言葉を紡ぎ-。

「《アブソリューションスライド・-ノーブルガントレット-》っ!」

 最後の言葉で、《ガントレット》だけが《変化》した。


「《ノーブルシールド》」

 間髪を入れずに腕を前に付き出し、言葉を紡いだ。…おし。…さて、どう攻略するか-。

 今度の《壁》は、《矢》を一本たりとも通さなかった。それどころか、《矢》の方が次々とボロボロになっていった。

 俺はそれを見ながら、左手を顔の前で振った。すると、右側に壊れた《矢》が飛んでいった。

 -…よし。

 俺はハエを追い払うかのような感じで、顔の周辺で左手を振り続けながら、ゆっくりと歩き出した。

 そして、彼の姿がはっきりと見える位置に着いたタイミングで、俺は駆け出した。

「《ウィンドアクセル》」

 更にスピードを上げ、一気に距離を詰める。

「《シールドキャンセル》、《ノーブルアーム》」

 直前で《壁》を消し、大きな《腕》で上空に跳ぶ。


「-《アブソリューションスライド・-ノーブルブーツ-》っ!」

 跳びながら《足》に《オーラ》を収束させ、《ブーツ》を《切り替える》。

「《ノーブルレッグ》っ!」

 そして落下が始まるのと同時に《両足》を作りだし、そのまま彼目掛けて落ちて行った。

 すると彼は攻撃を止め、その場から離れた。

 直後。土煙と大きな音が周囲を包んだ。

「-《ノーブルバインド》」

 俺は土煙が収まる前に《鎖》を出し、右側に伸ばした。…数秒後、『ドサッ』という音が聞こえて来たので、《鎖》を手繰り寄せた。



 ー…そろそろかな。

 ある程度を引いたので、そっと目を開けた。…どうやら、土煙は収まったようだ。

『……っ……』

 目線を下げると、ぐるぐる巻きにされた彼がじたばたともがいていた。俺は彼を仰向けにし、さっきと同じように左手に《力》を込め-。

「《アウェイクスタンプ》」

『-ッ!?』

 ふくよかなお腹に、手を打ち込んだ。すると、彼は一瞬跳ね上がり、直ぐに大人しくなった。

「《アウェイクシェルター》」

《結界》を展開し、二つ目の《発生源》-灰色の《ツボ》に近付く。

「《アウェイクハンド》…。

 -…良し」

《手》を挙げると、灰色の《ツボ》は消え去っていた。それに合わせて、無音の空間に草のなびく音が聞こえ始めた。…これで、『セカンドフェイズ』もよし。…おまけに、《イリーガルオーラ》もだいぶ薄まって来た。…後一個は何処-。

 最後の《発生源》の方を見据えていると、突然、《モノクル》が指示を出してきた。


「…?《アウェイクビジョン》」

『-ァァァーーーッ!?』

「《ウィンドアクセル》っ!」

 その《光景》を瞬間、俺は入口に向かって駆け出した。…くそっ!何処までも、『腹が立つ』。

 怒りを沸き上がらせながら、俺は『彼女達』の元に急い-。

 -っ!

 不意に足元の影が揺らめいたかと思うと、大きな《口》が飛び出して来た。

「《ウィンドフライ》」

 上空に逃げるが、《口》はしつこく追って来た。

 なので、右手に《光聖粒子(シャインオーラ)》を集め、《弾丸》をイメージする。

「《シャインバレット》」

 撃ち出された《弾丸》は、《口》に飲み込まれ-。


『-グウォォンッ!』

 不気味な遠吠えの直後。《口》は至る所から閃光が漏れ出し、崩れ去るように消えていった。

「(…二重の足止めか-と、普通なら身動きが取れなくなるんだろうけど……。)

《キャンセル》」

 俺はさっさと地面に降り立ち、再び《シャインオーラ》を集めた。…ってかこの《仮面》、《ラグ》がぜんぜん無い。

《仮面》の効力に驚きながら、俺は足元に手を向けた-。


 ☆


 -街道



 -イレツ森林に向かう街道は、異様な静けさに包まれていた。…まだ昼間だってのに、まるで夜みたいだな……。

「…やっぱり、おかしいな」

 外を覗き見ていると、隣に座るニーナお嬢もぽつりと呟いた。

「…《マナ》の気配が、少しづつ弱くなってる」

 …良く分かるよな。流石は天才-。

「《-っ!全体、止まれっ!》」

 改めてお嬢の才能に驚いていると、馬車は急に減速した。

 すぐさま、御者台に入る。

「どうしたっ!」

「…あれを-」

 彼は恐る恐る、目の前を指差した。…その先には、複数の《魔物》が道を塞いでいた。

「…どうやら敵は、是が非でもイレツ森林に行かせたく無いようだ。

 …どうやったのかは分からないが、この時間帯に《夜型魔物(ナイトモンスター)》が出て来るとは、思いも寄らなかったよ」


「…そう言う割りに、落ち着いてますね?」

「当然さ」

 俺のツッコミに、ニーナお嬢は笑顔でこちらを向いた。

「-君達の力を、信じているからね」

「(…やれやれ。)

 -ご命令を」

「-迅速に片付けよう」

「イエス、マイロード。

 -《行けっ!》」

『はっ!』

 その言葉を皮切りに、部下達は馬車を次々に降りて行った。

「俺達は?」

「彼等の手に余る敵が出て来たら、参戦かな?」

「了解」

 お嬢に続いて馬車を降り、魔物達の奥を見た。…見た感じ、イレツ森林はいつも通りに穏やかに見えた。とても、『異常事態』が起きているとは思えない程に-。


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