まるで圧倒的なスピードクリア


 -それから、数時間後。俺は『コントラクター協会』…要は『冒険者ギルド』の所有する建物にて『魔導士ライセンス取得試験』を受けていた。

『-それでは、ただいまより-魔導ライセンス-テストの最終課題を開始します。

 ルールは模擬試合の形式となります。

 よって、試合時間は十分。攻撃魔法は試験官は《フュージョン》まで。スキル攻撃は互いに《Lv:1》のみ使用可能です。

 そして勝敗は、腕のプロテクターが破壊された方の負けです』

 そして、今まさに『最終関門』である実技試験が始まろうとしていた。

『では、番号-10番-の方は第一リングに。

 番号-11番-の方は第二リングに。

 番号-12番-の方は第三リングに上がって下さい』

 ちなみに、かなりの参加者がいる為ここの会場では『10~30』の受験者を担当している。

『…はい』

《メガホン》で呼ばれた坊主頭の男性とぽっちゃりした男性。それから前髪で目が隠れた男性は、緊張した面持ちでリングに上った。

『-武装を構えて下さい』

 再度アナウンスが流れると、三つのリングの上に立つ受験者と試験官は片や袋から武器を取り出し、片や《ツールクリスタル》から武器を取り出した。

『レディ、ゴーッ!』 

「-《ノーマルパワー》!」

「《ノーマルパワー》、《ノーマルショット+》!」

 直後、坊主頭の男性とぽっちゃりした男性は試験官に攻撃を開始した。



「《ノーマルバレット》」

 一方、前髪男子の方は試験官が《弾丸》を放った。

「「「《ノーマルシールド》!」」」

 しかし、最初の攻防は相対する三者が《シールド》を展開した事で即座に終了する。

「っ!《ノーマルチャージ》」

「《ノーマルチャージ》、《ノーマルアロー++》!」

 坊主頭の男性は、一度距離を取り《ガントレット》に魔力を注ぎ再度突っ込んで行く。一方、ぽっちゃりな男性も同じように魔力をチャージし《短弓》の弦を引き矢を放った。

「《ノーマルチャージ》、《ノーマルバレット+》」

 そして、目隠れの男性の担当試験官も強化された《弾丸》を放った。

「「「《ノーマルクイック》」」」

 しかし、今度は三者共に高速移動をして回避した。

「《ノーマルクイック》!」

「《ノーマルピント》、《ノーマルショット》!」

「《ノーマルピント》、《ノーマルバレット》」

 だが直後、坊主頭の男性は追撃を。残り二人は精密射撃を開始した。

「せいっ!」

 数秒後、それぞれは相手を捉えついに攻撃が命中-。

「「「-《ノーマルギフト・ガード》」」」

 やはり、三度目の攻撃も三者が腕のプロテクターの《防御》を付与させて凌ぐ。…いや。

 直後、坊主頭の男性とぽっちゃりの男性の担当試験官のプロテクターは破壊された。

 直後、試験官は無言で『降参』のジェスチャーをした。

「《ノーマルギフト・パワー》!」

 一方、目隠れの男性は精密攻撃を高速移動とプロテクターでのガードで掻い潜りながら試験官に接近。そして、杖に《力》を込めて試験官を攻撃した。

「《ノーマルギフト・パワー》」



『-そこまで!』

 直後、その試験官のプロテクターも破壊された時終了のアナウンスが流れた。

『それでは、番号10、11、12の三名は結果をお伝えしますのでリングから降り二階にお向かい下さい』

 すると、三人は武器をしまいリングから降り試験会場を出て行った。

『続きまして、番号13の方は第一リングへ。

 番号14の方は第二リングへ。

 番号15の方は第三リングへお上がり下さい』

 …来たか。

 俺は簡易椅子から立ち上がり、第三リングへ向かった。

『武装を構えて下さい』

 リングに上がると、先程とは違う試験官がそこに立っていた。…まあ、当然といえる『対策』だ。だが-。

「-《エンチャント・ノーマル》」

『-っ!?』

 俺はマナソードを袋(目立ち防止の為)から取り出し、『ルール上認められている-エンチャント-』を武器に宿した。

「…これは驚いた。ならば、私も使わせてもらおう。

《エンチャント・ランド》」

 しかし、俺の担当試験官は少し驚くだけで直ぐに自身のハンマーに《エンチャント》を施した。…なるほど、《防御寄り》か。



『レディ、ゴーッ!』

「《ウィンドアクセル》」

 開始と同時に駆け出し、試験官の周りを周回し始める。しかし、試験官は武器を構えたままじっとしていた。

「(…まあ、多分-。)《ノービスソード》」

 俺はなんとなく『予感』を感じながら、斬撃を

 放った。

「-《ノーマルクイック》、《ストーンスマッシュ》」

 すると、試験官は高速で振り返りハンマーの一撃で攻撃を《潰した》。…やっぱりか。

 俺はさほど気にせず次の手を打つべく左手に魔力とウィンドオーラを集めた。

「《ウィンドバレット》」

「《ノーマルクイック》、《ランドウォール》」

 一段階目として右から風の弾丸を放つと、試験官は壁を出して防ぐ。

「-《ウィンドジャンプ》」

「《ランドバレット》」

 二段階目はルートを切り替え、その壁を飛び越える。すると、予想通り試験官は俺に向かって《弾丸》を放った。

「《ウィンドプレート》」

「…なっ……」

 直撃コースだった弾丸は風の《足場》によって、明後日の方向に逸れて行く。

「《ウィンドカッター》」

 そして、俺は素早くしゃがみ真下の試験官目掛けて《刃》を放った。

「《ノーマルクイック》」

 だが、試験官は容易く前に駆け出すが-。

「-《エンチャントスライド・ウィンド》。

《エアーソード》」

 スイッチするようにエンチャントを切り替え、高速の斬撃を放った。

「-……。…見事だ」

 数秒後、試験官の腕のプロテクターは壊れた。

『-そこまで!』

 それと殆ど同じタイミングで、残り二つのリングも終了したようだ。

『それでは、番号13、14、15の三名は結果をお伝えしますのでリングから降り二階に向かって下さい』

「ありがとうございました」

 アナウンスが流れたので、俺は試験官に礼を言ってからリングを後にした-。



 ○



 -その後、無事試験をクリアした俺は《コントラクター協会》の受付フロアに居た。

『-大変お待たせしました。受付番号24の方は右端の窓口にお進み下さい』

 …しかし、『向こう並み』のシステムだよな。

 そんな事を考えながら、指定された窓口に向かう。

「-おはようございます。まずは、《クリスタル》の提示をお願いします」

「はい(…なるほど。決められたプロセスがあるのか)」

 言われた通り、《クリスタル》を手前のトレーに置いた。

「確認させて頂きます-」

 女性はトレーごと持ち、脇にある小さな《鏡台》に置いた。

「-…っ」

 …あれ、なんで驚かれているのかな?

 すると、女性はぽつりと呟く。

「…あなたが、『タクト』さんなんですね」

 どうやら、俺はかなりの有名人になっているらしい。

「(…って、そりゃそうか)一昨日の件の関係者から、聞いたんですね?」

 俺の確認に、女性は静かに頷く。

「…ええ

 -…っと。失礼しました。…これで、タクトさんは晴れて『ルシオンの《コントラクター》』となりました」

 女性は、トレーをこちらに返した。



「…なるほど。新しい街に着いたら、まずこれをやる必要があるんですね」

「そうです。

 …ちなみに、この街を出る際も同様の手続きを行います」

 …へぇ。物凄いしっかりしたシステムだな。

「それでは、早速クエストの案内をしますか?」

「はい。お願いします」

「少々お待ちください-」

 女性は机の下からファイルを取り出し、俺の手前に置いた。

「-こちらが、今現在タクトさんが出来る《クエスト》の一覧になります」

「…ありがとうございます。

 ……-」

 ファイルに収まった《クエストペーパー》を一枚づつ見て行き、どれにしようか悩んでいると…。

 -…《これ》か。

《モノクル》が、一枚の《クエストペーパー》を選んでいた。


 --------------------------------------------


 依頼(クエスト)Lv:☆


 対象:オーレ草


 棲息地:イレツ森林


 個数:50


 報酬:3000ヴァール


 --------------------------------------------



 -…いかにも、『初心者(ルーキー)』向けだな……。…けど、わざわざ《教えて》くれたって事は。

「…どうやら、決まったみたいですね?」

「…あ、はい」

 俺はファイルからクエストペーパーを取り出し、女性に渡した。

「分かりました。

 -…はい。これで《受諾》完了です」

 女性は直ぐに、《印鑑》を押してくれた。

「あ、オーレ草についての説明は必要ですか?」

「お願いします」

「分かりました-」

 女性は、クエストペーパーを鏡台に乗せた。…便利だな。

「-お待たせしました。

 …まず、群生地のイレツ森林ですが、東門から北東方向に約500メルグ進んだ地点にある、小規模の森です。そしてその中心が、群生箇所になります。

 それと、見分け方ですが-」

「…もしかして《魔力》でも、流れているんですか?」

 予想を言うと、女性は頷いた。

「ええ。

《ノーマルクリア》を使えば一目で分かります。…ああ、それと-」

 女性は《鏡台》の下部分に手を触れ、なんらかの操作をした。



「-イレツ森林の《エンカウト》情報ですが、今の時間帯は全く出現しません。

 なので、安心して採集出来ますよ」

「助かります(…ふーん。夜行性のモンスターしか居ないのか…。…ただ、鵜呑みする訳にもいかないんだよなー……)」

 笑顔でお礼を言うが、内心は憂鬱だった。

「それでは、お気を付けて行ってらっしゃい!」

「(…へぇ)はい、行って来ます」

 女性の送り出しを受け、俺はギルドを後にするのだった-。



 

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