まるで届かない場所にいる目標


 -三十分後。



「-…それじゃあ、終わりにしようか」

「…ハァー、ハァー、…あ、ありがと…う、ございました…」

「…あ、相変わらずです…ねぇ…」

 ニーナさんは涼しい顔で終了を宣言し、俺とドミニクさんは息を乱しながら床に手を付いた。

「…あ、そうだ。

 朝食が終わったら、またここに来てくれないかな?」

「…ああ。俺の《装備》ですね?」

「そう。…それじゃあ、食堂で」

「はい」

「了解でーす…」

 返事をすると、彼女は軽い足取りで部屋を出て行った。



「…ホント、凄いですね」

「…俺からすれば、隊長の攻撃を避け切ったタクトも十分凄いけどな」

 彼は感心しながら言うが、俺は苦笑いを浮かべる。

「…手加減ありでしたけどね」

「…充分凄いよ」

 彼はしきりに感心していた。そんな彼を見て、俺はある事を聞く。

「…ニーナさんって、ドミニクさんから見てどんな人ですか?」

「…そうだな。…一言で言うなら、『進化する天才』かな?団長から受け継いだ素質を、類い稀なる向上心で磨き続ける…。

 …最初会った時は、今まで積み上げてきた自信が粉々になったもんだよ」

 彼はその時の事を思い出したのか、苦笑いを浮かべた。

「…ちなみにですけど、ニーナさんが上級騎士になったのって……」

「確か、成人になってすぐにだったな…」

 彼は、さらっと衝撃発言をした。マジの天才か…。

「…っと。俺達もとっとと部屋に戻って準備をしよう」

「…はい」

 俺もなんとか立ち上がって、ゆっくりと修練場を出た-。



 -…ん。来たみたいだな…。

 その後、食堂にてバランスの取れた激美味い朝食を感動しながら食べ終えた俺は、言われた通り再び修練場に来ていた。

『ニーナお嬢様。エスピル商会の方がお見えになりました』

「お通しして」

『畏まりました』

 ニーナさんが返事をすると、ドアがそっと開けられた。



「大変お待たせいたしました」

 ドアが開かれると、複数の商人らしき人を引き連れたスーツ姿の男性が申し訳なさそうに入って来た。

「いえ、お気になさらず。

 …というか、急に無理を言ってすみません」

 彼女が謝ると、スーツ姿の男性は慌てる。

「と、とんでもないっ…。

 アクウェル様は、我々の大事なお得意様です。そのご要望に迅速に対応するのは、当然の事ですので…」

 その言葉に、彼女は安心した様子になる。

「そうですか…。

 ありがとうございます」



「いえいえ…。

 -おっと、失礼しました。私、エスピル商会の武器フロア担当のジョージ=ブラウストと申します」

「…あ、タクトと申します。よろしくお願いします」

「…タクト様ですね。こちらこそ、よろしくお願い致します。

 それでは、早速-」

 ブラウストさんが後ろを振り返ると、商人達は持っていた高そうな長方形のケースを次々とそっと床に置き、ロックを外して蓋を開いていった。

 そして、全てのトランクが開けられると、彼はまず手前のトランクを指し示す。

 中身は、すねの長さまである茶色の革のブーツだ。



「まず、こちらの《ランドブーツ》からご説明致します。

 こちらのブーツには、《ランドハーディング》-《硬化》の呪文が《記憶》されております」

 …へぇ。

 次に彼は、右隣りのトランクを指し示す。

 そこには、水色のマントが入っていた。

「続いては、こちらの《ウィンドマント》についてご説明致します。」

 こちらに《記憶》されている魔法は、《ウィンドバリア》です。

 …尚、こちらのマントは《フロート》及び《フライ》を発動すると、自動で発動する機能が付けられております」

 …便利だなぁ。



 -その後も紹介は続き、最終的に《対水》《耐熱》《耐久持続》の黒のリュックサックと、白の袋財布。《衝撃吸収》のグローブと、速乾性の長袖黒シャツに厚手の紺のジーンズ。そして、それらの服や《アイテム》の効果を高める《アクセサリー》を数点受け取った。

「-それでは、最後にこちらをご説明致します」

 最後のトランクには、一振りの『剣っぽいモノ』が入っていた。…何故そんな風にいうのかと言うとその刀身は柔らかそうな素材で出来ていて、到底武器には思えなかったからだ。

「…ふふ。どうやら『これ』を見るのは初めてのようだね。私も最初見た時は今のタクトみたいに『これ武器?』って思ったよ」

「…え、マジでこれ『武器』なんですか?」

 その言葉に、俺はまじまじと『それ』を見つめる。

「…とりあえず、手に持ってみなさいな」



「……」

 ニーナさんに言われて、とりあえずそれを手に持ってみた。すると、柄にはめ込まれた丸い宝石が輝き始める。…魔力をチャージしているのか。

「…良し、そろそろ『振って』みなさい」

 そして、宝石がキラキラと輝いた時ニーナさんはそう言った。…っ!

 軽く振った瞬間、柔らかそうな刀身は魔力の青白い輝きに包まれる。

「それは、《マナウェポン》。要するに魔力の武器さ」

「……」

「…ちなみに、街中でのそういう武器や魔法の行使は此処みたいな場所を除き原則禁止になっているんだ。

 そして、更に凄いのが『それ』で切れるのは《モンスター》だけなんだ」

「…なるほど(…そうか。だから『普通の剣』を持っていた俺を即座に『外の人間』と判断出来た訳か……)。

 これはなかなか『面白い武器』ですね」



「…気にいったようでなりよりだ。」

 じゃあ、早速登録をしてしまおう」

「畏まりました」

 ブラウストさんは、剣の入っていたトランクから小さな箱を取り出し、丁寧に開けた。

「…こちらは、《ツールクリスタル》になります」

 彼はは、丸い《クリスタル》を別のトレーに乗せて差し出して来た。

「それを君の《クリスタル》にくっつけてみて」

「…ああ。初日みたいな事をするんですね」

 俺は丸いツールクリスタルを手に取り、首の《クリスタル》にくっつけた。すると、《クリスタル》はそれぞれ淡く光った。

「…それじゃ、次は剣にツールクリスタルをセットして、《コンパクト》って言ってみな?」

「はい…-。

《コンパクト》」

 直後。剣は一瞬で消え、丸い《クリスタル》だけが手の上に残った。…すげー。…ってかこれって、《ディメンションタイプ》やん……。おまけに-。

「-やれやれ…。凄い感知力だね?」

 俺の様子を見たニーナさんは、にこやかに微笑んだ。

「…確かにそれには、収納以外にもう一つの《魔法》が記憶されているよ。…その名は《リターン》。《これ》その物を盗られても、《戻って》来る魔法さ。

 …あ、取り出し方法は、魔力を注ぎながら《アームドオン》って言えばいいからね」

「…なにからなにまで、本当にありがとうございます」

 俺は、ニーナさんに頭を下げた。

「どういたしまして」

 頭を上げると、ニーナさんは優しくそう言った。



「…それでは、我々はこれで失礼致します」

「…あ、はい。

 今日はありがとうございました」

「ありがとうございました」

「こちらこそ、誠にありがとうございました。

 またのご利用を、お待ちしております」

 そうしてブラウストさん達は、修練場から出て行った。

「…さて-」

「-あ、隊長。終わりました?」

 それを見送った直後。ドミニクさんがドアから顔を覗かせた。

「ああ。

 …それじゃあ、行こうか」

「分かりました」

 俺とニーナさんはそのままドミニクさんと合流して、玄関に向かった-。





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