まるで越えるべき壁のような美しい騎士


「…大丈夫ですよ。まだアップの途中ですから」

「おはようございます。ニーナさん」

「…そうか。

 …ああ。おはよう」

 ニーナさんはホッと胸を撫で下ろし、にこやかに挨拶を返してきた。

「…そうだなー。ドミニク」

「リョーカイです。とりあえず、お手本だけでいいですか?」

 以心伝心と言うのか、ドミニクさんはそう言いながらポケットに手を入れた。

「ああ」

 …?って、おわっ!?

 直後、いくつかの床が左右に開き『武器棚』がせり上がってきた。 …ポケットに、《クリスタル》でも入ってるのか。


 驚いているとドミニクさんは棚の一つから木製の槍を取った。

「…さて、昨日聞いてたと思うけど、俺らの任務はお前の警護と《スキルアップ》だ。 …んで-」

「要するに、今から教えて貰えるのは街の外に出てる時の《身の護り方》って訳ですか?」

「…そうだ。…ま、ぶっちゃけ気休めにしかならないと思うが、知らないよりは遥かにいい筈だ」

 …確かに。…まぁ、いざとなれば《袋(これ)》に頼るか。


「…んで、《何を》を覚えて貰うかというと-。

《エンチャント・アクア》」

 ドミニクさんが言葉を紡ぐと、槍に《水聖粒子(アクアオーラ)》が一瞬で集まった。

「-《エンチャント》。…《武器》や《道具》と《マナ》を一体化させるとっておきのスキルだ」

 …おお。

「…本来、これを使うには《二ツ星》クラスの魔力量が必要なんだけど、タクトの場合は問題ないはずだよね?」

「はい」

 感動していると、ウォーミングアップを終わらせたニーナさんが確認して来たので、しっかりと頷いた。

「…それじゃまずは、《武器》選びからだな」

 …どうすっかな~。…ん?

 棚を見ながら考えていると、《モノクル》が剣の棚を指し示した。

「…じゃあ、これで。

 …ふっ!」

 とりあえずそれに従って、棚に近づき剣を取った。そのまま軽く振り、前に向かって突きを繰り出した。


「…様になってるな」

 一連の動作を見ていたニドミニクさんはは、少し驚いていた。

「…体に染み付いた技術は消えないって言うけど、これは…」

 …うん。なんか自然に動かせた…。…剣術をかじってたのか?

「…それじゃあ次は、《収束》だ。とりあえず、剣に《無昴粒子(ノーマルオーラ)》を集めてみな」

 …あれ?…これは、何かあるな。

 言葉に引っ掛かるが言われた通り、剣に《ノーマルオーラ》を集めようとするが、思うように集まらなかった。 …ん~?…ん?ああ…-。

 ドミニクさんの状態をつぶさに見てある事に気付いたので、目をつぶり《スキル》の名前を頭の中に浮かべた。

「…さて、それじゃあヒント-」

「…待った」


「…へ?」

 そんなやり取りの最中、俺は再び《ノーマルオーラ》を剣に集めた。

「-…《エンチャント・ノーマル》。

 …よし」

 目を開けて剣を見ると、刀身は乳白色の光を纏っていた。

「…嘘~」

「…素晴らしいね」

 それを見たドミニクさんは唖然とし、ニーナさんはとてもニコニコしていた。

「…やっぱり、『一体』となる事が正解でしたか」

「その通り。

 …さて、お次は《クラフト》だ」

 ニーナさんは片手剣を持つと、武器棚は床に収納された。

「…《エンチャント・ボルト》」

 ニーナさんの持つ剣は一瞬で、ぱちぱちと音を立てて発光した。


「それじゃあ、実際にやって見せよう」

「お願いします」

 すると、今度は木製の人形が床からせりあがってきた。

「……-」

 直後。剣から聞こえる音が大きくなり…-。

「《エレクトロソード》」

 …っ!?

 剣に切られたターゲットは、一瞬で黒焦げになってしまった。 …スゲー。

「…と、こんなものかな。

 …ちなみに今のは、『剣術Lv:1』の《クラフト》だね」

 …マジでか……。

「じゃあ、今度はタクトの番だ。…ちなみに《それ》の場合は、《ノービスソード》だ」

「…分かりました。

 ……-」

 剣に流す魔力を増やすと、乳白色の光は濃くなりそれと同時に力強さを感じた。


「……《ノービスソード》」

 俺はその剣を振り上げ、言葉と共に振り下ろした。

「……」

「…ここまでとはね」

 切られたターゲットは、真っ二つになっていた。

 …今気付いたけど、このターゲット『硬い』ので出来てるな……。

「うん。…威力も問題無し。

 それじゃあ…」

 ニーナさん表情が、真面目なものに変わった。

「……っ」

「はぁ…」

 俺はやや緊張し、ドミニクさんは溜息を吐いた。

「…二人共、好きに攻撃してきていいよ?」

「……。

 せいっ!」

 次の瞬間。俺は《アクセル》を発動し、掛け声と共に横から剣を打ち込むが、剣ははピクリとも動かなかった。 …ふむ。……あ。…早速やってみよう。


 いつもの現象を見た後、一旦距離を置き《エンチャント》を切った。

「っ…」

「《エンチャント・ウィンド》」

 ドミニクさんの驚きが聞こえるのと、《ウィンドオーラ》が集まるのはほぼ同時だった。

「《エアーソード》」

 間髪入れずに、強い風を伴った剣でニーナさんに切り掛かった。

 だが、ニーナさんは圧倒される事無く剣を受け止めた。 …これもダメか。……お。

「どうしたんだい?

 …おや」

「タクト。…交代だ」

 意を決した表情のドミニクさんを見て、俺は静かに頷いた。

「…タクトに触発されたかな?」

「…行きます」

 ニーナさんが尋ねるが、ドミニクさんは答えなかった。

「……。

 …いいよ」

「はっ!」

 ドミニクさんは、ニーナさんに向かって突っ込んで行った。


「《スプラッシュスピア》っ!」

 ドミニクさんは寸前で力強く踏み込み、《水》を纏った速い突きを放った。

「《クイック》、《スパークブレード》」

 しかし、ニーナさんは余裕でそれを避け、ドミニクさんの脇に移動し電撃の剣を振り下ろした。

「《クイック》っ!」

 ドミニクさんはぎりぎりで後ろに飛び退き、着地するのと同時に『槍投げ』のポーズを取った。

「《スプラッシュジャベリン》っ!」

 軽く槍を振った直後、長い水の《槍》がニーナさんに迫った。

「《エンチャント・ボルト》」

 だが、ニーナさんは避けようとせず、左手に《ボルトオーラ》を素早く集めた。

「《スパークスマッシュ》」

 そして、《槍》が当たる寸前で《雷の手袋》を着けた左手を払うように振った。…嘘~。

《槍》は簡単に弾かれ、真横に吹き飛んだ。


「…っ。

 …《エンチャント・アク-》」

 ドミニクさんは、一瞬間を置き《エンチャント》しようとするが…。

「-はい、遅い」

 ニーナさんは一瞬で距離を詰め、剣を振り上げた。

「っ!?《ノーマルパワー》っ!」

 ドミニクさんはとっさに、左手を先端付近に移し手足を《強化》した。

 直後。剣と槍はぶつかり、小さな火花が散った。 …耐えた。

 ドミニクさんは、なんとか槍を離さなかった。

「…へぇ、ようやく大丈夫になったみたいだね?」

「…ええ」

「けど、戦術はまだまだかな?」

「…ですね」

 …あ、間違いなくニーナさんの方がキャリアは上だな。


「…っと」

 ニーナさんは、ふっと力を抜きドミニクさんから離れた。

「…まぁ、それは今後の課題だね。

 …さて、それじゃあ-」

 ニーナさんは再度剣を構え、満面の笑みで言う。

「-…続きをしようか?」

 …うわ~。

 俺はやや引きながら、剣を構えた。

「(…まぁ、やるだけやってみよう。)

《ウィンドアクセル》っ!」

 俺はその場から勢い良く、ニーナさんに向かって駆け出した。

「…その迷いの無さ、良いよっ!」

 ニーナさんは何故か、機嫌良く剣を後ろに下げた。

「《エアーソード》っ!」

「せいっ!」

 振り下ろした剣と振り上げた剣はぶつかるが、直ぐに押し返えさ返され始めた。


「ドミニクさんっ!」

「…っ!ああっ!」

 だが、俺は慌てずにドミニクさんに合図を出した。

「《アクアサークル・ヴォルテックス》っ!

 -《ユニゾンクラフト》・スプラッシュドリル》っ!」

 ドミニクさんはニーナさんの右側に駆けながら、目の前に《水聖の魔法陣》を展開し、槍でそれを突いた。

 直後。激流渦巻く《槍》が、ニーナさん目掛けて飛んで行った。

「甘いよ。

《クイック》」

 しかしニーナさんは力を緩め、直後に俺の背後に回った。

「…ですよね~……」

「…っ」


「…さぁ、次はどうする?」

 ニーナさんは微笑み、俺達を挑戦した。…うーん。

 俺はその場から離れ、様子を伺った。

「…タクト」

 すると、ドミニクさんがこちらに駆け寄って来た。

「(…今度は、俺が隙を作ってみる。

 …作るポイントは-)」

 …なるほど。

 俺は頷き、剣を正面に構えた。

「…《アクセル》」

 次の瞬間。ドミニクさんは駆け出し、ニーナさんの周りを周回し始めた。

「……」

 ニーナさんはそれを目で追わず、じっとこちらを見ていた。 …なんか、上手く行かない気がしてきた……。

「《スプラッシュジャベリン》×六っ!」

 そう思っていた矢先、走っていたドミニクさんは《槍》を放った。六本の《槍》は一斉にニーナさんに向かい…-。


「-…《スパークロンド》」

《槍》が当たる直前で、ニーナさんはその場でクルッと回った。

 直後。《槍》はすべて壊され-。

「《スプラッシュストライク》っ!」

 -…た直後。ドミニクさんは、ニーナさんに向かって突貫した。

 だが-。

「《スパークハンド》×2」

 …ああ。やっぱりか。

 ニーナさんが言葉を紡ぐと、今度は両手を雷の《手袋》が包み込んだ。

「《パワー》、《フォーカス》。

 -ほいっと」

 ニーナさんは目と足に《力》を込め、槍の切っ先を余裕で掴みドミニクさんの一撃を止めた。

「…はぁ」

 俺は溜息を零した。

「惜しかったね」

「…よっ」

 俺は再度、ニーナさんから距離を取った。

「…さて、そろそろ私からも攻撃しよう。

 まずは、タクトから行くよ?」

「っ!?…はいっ!」

 俺が返事をすると、ニーナさんは腰を落としてから、駆け出して来た-。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る