まるで選ばれた人間のような逸材


 -数時間。俺は何故か、アクウェル公爵の執務室に居た。

「-ではアルエ。報告を」

「はい。

 …では、現時点までで判明した事を報告します」

 ドミニクさんは胸ポケットから、《クリスタル》のはめ込まれた小型の《装置》を取りだし、それを机の上に置いて《クリスタル》に触れた。

 すると《クリスタル》は光りの線を幾つも空中に放ち、小さな『ウィンドウ』を形成していった。…あ、もしかして昨日の件かな?

「…結論から言うと、盗賊達は謎の人物から《魔生武器(モンスタータリズマン)》を受け取ったと言うことです。この人物についてですが、ある日盗賊達のアジトに、書面で『話の持ち掛け』があったとの事です」

「…当然といえば当然だが、やはり素性を隠していか。恐らく、手紙も残ってはいないな?」

 アクウェル公爵は顎に手でさすり、ドミニクさんに確かめた。

「…はい。そして受け渡しの際も姿を見せず、指定の場所に武器が置かれていたようです。

 その直後、手紙は無くなっていたと…。…これについては現在、アジトを捜索中です。

 次に、例の《笛》についてです。

 こちらも、他の《モンスタータリズマン》と一緒に入手したようですが…」

 言いよどむドミニクさんを見たニーナさんが、ハッとして口を開く。

「…まさか、該当する《アイテム》に何か問題が発生したのかな?」


「…ええ-」

 ドミニクさんは《端末》を操作し、二つ目の《ウィンドウ》を出した。

「…な」

「…これは……」

 その内容を見て、アクウェル公爵とニーナさんは唖然としてしまった。

 -そこには、こう記されていた。

『《アイテム》の自然消滅により、調査続行不可』

 証拠隠滅機能か。…とんでもない相手だな……。

「…報告ありがとう。

 後で調査班に『お疲れ様』と伝えておいてくれるか?」

「…了解しました」

「…さて」

 アクウェル公爵は、ゆっくりとこちらを向いた。

「…君は、彼がどうしてその《笛》を壊したのか聞いているかな?」

「『《嫌な感じの魔力》がしたから』…だそうです」

 俺は『正直』に答えた。…すると、アクウェル公爵の表情が真剣なものに変わる。

「…っ。…それは、どういう《魔力》だったのかな?」

 …えっと?……あ、なんか思い出したら胃がムカムカして…-

「-…っ!『やっぱり』…」

 気付けば、俺は苛立っていた。


「…落ち着きなさい。…『ここには居ない』から」

「-…っ!?すみませんっ(…やべ、やっちまった……)」

 アクウェル公爵のプレッシャーが混ざった言葉に、俺は慌てて気持ちを落ち着かせた。

「…まさか、本当に『素質持ち』だったなんて…」

「…マジか」

 一方、ニーナさんとドミニクさんは驚愕の表情で俺を見た。

「…《素質持ち》?」

「…簡単に言うと《イリーガルオーラ》を感じ取れる人の事よ。そして、本来それは『ブランロース』の人達しか持ち得ない『特別』な力なのだけど…」

「…え」

「驚いたな…。…しかし、これは由々しき事態になったな……-」

 アクウェル公爵は顎を触ったまま、目線を下に落とした。多分、様々な可能性を視野に入れた上でどう対処するか考えていのだろう。

「(これは、情報共有しないといけないな…-。)…っ!?」

 俺は頭痛に見舞われたように頭を抑えた。


「…っ!?どうしたのかね?」

「…まさか、『彼』からのメッセージが?」

「「…っ」」

「…は、はい。すみません、驚かせてしまっつ……」

「…大丈夫?」

「はい。…それでは、『ジーンさん』からのメッセージをお伝えします。

 ー『敵はもうこの街に入り込んでいる』…だそうです」

『っ!?』

 当然、三人はぎょっとした。

「…どういう事ですか?」

「…実は-」

 俺は、昼間の事を『第三者目線』で話した。

「-…まさか、何処にでも居そうな年端もいかない少女が敵の尖兵だと言うの…?」

「…まずいな。もしかしたら、『現場』にいたのかも知れないな……。

 …騎士アクウェル、騎士アルエ」

「「ハッ!」」

 呼ばれた二人は、立ち上がり敬礼した。

「特別任務を言い渡す。

 内容は…幸いというべきか、彼はかなりの才能の持ち主のようなので《スキルアップ》の助力だ」

「「了解しましたっ!」」

 …おや、なにやら『面白い』方向に進んだぞ?


「…では、早速翌日から『スキルアップ』取り掛かかります。

 …それじゃタクト。明日の朝、『今日の朝』と同じ時間に起きて『部屋』で待ってね」

 …なんと此処は宿泊施設にもなっていて、ご厚意で泊めて頂く事になったのだ。

「分かりました」

「…うふふ。

 久しぶりに《アレ》が出来るかな?」

「…っ」

「…《アレ》?」

「…まぁ、明日になれば分かるよ」

 …何だろう。

 何故か楽しそうなニーナさんと引いているドミニクさんを見て、俺は若干不安を覚えたのだった-。




 ☆



 -翌日早朝・ゲストルーム



 -…っ。……。

 ふと目が覚め、ゆっくりと瞼を開く。その先には、白の天井が入り込んで来た。

「……。~~…」

 ムクリと起き上がり、大きなあくびをして高級感溢れるフカフカ-のように見えるが、実際は程よく固い素材で作られたからベッドから立ち上がった。…やっぱ『夏』だけあって、もう明るくなってるな。

 カーテンを開き窓の外を見ると、既に日が昇っていた。

 それをひとしきり眺めた後、窓から離れ洗面所に向かった。



 -…これかな?

 広々とした洗面所で身嗜みを整えた後、ゲストルームの入口付近にある木目調の引き戸を開き、中-ウォークインクローゼットに入り、黒のカバーの掛かったハンガーを取った。…うーん。いつの間にサイズを取られたんだ?

『俺用』の緑のジャージに着替え、そのままゲストルームを出ようとすると…。

「-おはようございます。タクト様」

 部屋の前に立っていたクレアさんが、にこやかかつ丁寧な挨拶をしてきた。

「…。おはようございます」

 一瞬固まってしまうが、直ぐにこちらも笑顔を浮かべて挨拶を返した。…なんでいるのかな?

「どうされました?」

 こちらが疑問を抱いていると、メイドさんは首を傾げ、柔和な笑みで尋ねてきた。

「…鍛練場に案内してください」

「畏まりました。早速ご案内致します」

 彼女はうやうやしくお辞儀をして、前を向き歩き出した。



「-…確かタクト様は、本日冒険者登録なさるのでしたね?」

 道中、ふとクレアさんが聞いて来た。

「ええ。…少しドキドキしています」

「タクト様ならば、きっと大丈夫でしょう。

 使用人一同、ご健闘をお祈りしております」

 素直な気持ちを伝えると、クレアさんは心からのエールを送ってくれた。…ホント、良い人達だ。

 彼女の後ろを歩きながらそんな事を考えていると、前方にジャージ姿のドミニクさんが使用人の後ろを歩く姿が目に入った。

「……。…お」

 向こうもこちらに気づき、近付いて来た。

「おはようございます。ドミニクさん」

「おはようございます。ドミニク様」

「おはよう。

 …早いのは、大丈夫みたいだな」

「…ひょっとしたら、『習慣』だったのかも知れません」

「なるほど…」

 そのままドミニクさんと並んで歩き、一階へと降りた。そして、食堂とは反対側に向かって進んでいると、一際頑丈そうな扉の前にたどり着いた。

「「こちらになります」」

 二人の使用人が扉の前に進み左右から扉を開けた。



 -そこは、フローリングのだだっ広い空間だった。

 天井に複数の質素な照明があるだけの部屋に入ると、ドミニクさんが説明してくれる。

「ここが、《修練場》さ。

 ここでなら、思いっ切り体を動かせるよ」

「…やっぱり此処って、『別邸』じゃなくて『保養所』だったんですね」

「…あ。そういえば、言ってなかったな…。

 …よく分かったな?」

「…ヒントは、至る所にありましたから。

 例えば-」

 ドミニクさんと共にテキパキとウォーミングアップをしながら、俺は『気付いた箇所』を告げた。

「-…よく見てたな。…緊張でいっぱいいっぱいだと思ってたのに……」

「…もしかしたら、場慣れしていたのかも知れませんね?」

「……」

 と、その時。

「-ごめんごめんっ!遅くなっちゃたねっ!」ドアが勢いよく開かれ、ニーナさんが慌てて入って来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る