まるで十年に一人の逸材のようなスピード



「ーさて、二時間目は魔法の基礎について勉強していきましょう」

 夫人はそう言って、自分の後ろにあるカートを前に出した。その上には、拳大の丸い水晶があった。

「まずはタクトさんの適性を調べます。その水晶の上に手を置いて下さい」

「はい」

 言われた通り手を乗せる。直後、水晶は紅に輝いた。…かと思ったら翡翠色に輝き、数秒後には群青に輝いた。

 ー…そして、最終的に十八のパターンを見せた。

「……」

 夫人は唖然としていた。…うん、なんとなく気が付いていたけどやっぱ『オールタイプ』なんだな。

「…はあ、あの娘がさんざん『驚かないでね』…と言っていた理由が今分かりましたよ。

 …これは確かに『手助けしても問題ない』でしょうね」

 どうやら、こちらの『事情』は既に把握済みのようだ。

「…失礼しました。

 では、授業に入りましょう」

 夫人は気を取り直し、カートの下から様々な色形の石の入ったトレーを取り出した。


「まずは、魔法の分類についてです。

 連盟の魔法は、大きく分けて二種類あります。

 一つは、『星天属性』…通称『セイント』。

 もう一つは、『星昴属性』…通称『ミスティック』」

 そして、夫人はこちらから見て上の列の右端にあるひし形の紅の石に指を伸ばした。

「次は、細かい分類です。

『セイント』と『ミスティック』にはそれぞれ八つの『系統』があります。

『セイント』は、『火天系統』…『フレイム』。『風天系統』…『ウィンド』。『水天系統』…『アクア』。『土天系統』…『ランド』」

 夫人の指が紅の石に触れた瞬間、石は真紅に輝いた。そして、左の翡翠に触れると石か小さな風が吹き出しその隣の群青の石の石からは水滴が石の表面に浮かび、黄土色の石からは砂が溢れた。

 そして、一呼吸おいて夫人は再び説明する。

「『氷天系統』…『アイス』。『雷天系統』…『ボルト』。『光天系統』…『シャイン』。『闇天系統』…『ダーク』。

 以上が、『星天属性』になります」

 次に、淡い水色の石では氷が生まれ黄色い石はパチパチと音を出し、純白の石からは蛍火に似た小さな光源が生まれ深紫の石は怪しく輝いた。


 そして、次に夫人は下の列の乳白色の石に指を指す。

「次に『ミスティック』は、『無昴系統』…『ノーマル』。『晶昴系統』…『プリズム』。『植昴系統』…『プラント』。『幻昴系統』…『ファントム』」

 その瞬間、フレイムとダークの石と同じ反応をした。その隣の無色透明な石は結晶を生じさせその隣の優しい緑の石かは双葉が生え、クリーム色の石からはぼんやりとしたもやが発生した。

 そして、再び一呼吸置いて夫人は説明を続ける。

「『氣昴系統』…『カーズ』。『毒昴系統』…『ポイズン』。『次元昴系統』…『ディメンショ』。『時昴系統』…『※確認』。

 以上が、『星昴属性』になります」

 次に、様々な色が混じった石からは石と同じ霧が発生し毒々しい色の色からは刺々しい光の玉が。そして、他の石とは違う小さな箱の型をした石からは、大小様々な『箱』が生じ同じくこれまでの石とは違う歯車の型をした石からは『光の時計』が出現した。


「…沢山あるんですね~」

「…ええ。

 …しかし、困った事になりました。これは、到底私だけでは教えて上げる事が……」

「…では、汎用性の高い『二系統』に絞って教えて頂けませんか?」

「……。…ええ、そうしましょう」

 困った様子の夫人は、俺の言葉に感銘を受けたような表情をしにこりとしながら賛成した。…なにか、変な事でも言ったかな?

「…そうですね。だとしたら、『ノーマル』と『ウィンド』が良いでしょう。この二つは、冒険や戦闘にとても役立つ魔法が数多くありますから」

「おお、それは凄いですね」

「では、まずは基本となる魔法から説明したいところですが…タクトさんは『彼から』何処まで教わりましたか?」

「(…ま、時間短縮になるか……。)とりあえず、『ウィンド』の飛行魔法は教わりました」

「……なるほど。では、『スフィア』は教わりましたか?」

「ー…えっと、《これ》の事ですか?」

 ふと、モノクルにイメージが浮かんだので『その通り両手で』再現してみた。


「……ええ、その通りです」

 夫人は物凄く驚愕しながら頷いた。…どうやら『同時発動』はかなりの『レア』らしい。

「…えっと、『これ』って人前ではあまり見せないよう気をつけた方が良いですかね?」

「…いえ、『一つ目』よりは遥かに常識的な部類です。むしろ、『この後』の事を考えると積極的に見せた方が良いでしょう」

「…『この後』?…もしや、『資格』を得る為の『試験』とかあるのですか?」

 ふと頭に浮かんだ、『ぼんやり』と覚えている知識を口にする。

「…っ!どうやら『あちら』でも、日常的に『試験』は行われていたようですね…」

「…ええ。…なんか、『苦労』したような気もしてきました……」

「…まあ、少なくとも『今の貴方』ならすんなりと『コントラクターライセンス』、東の言葉でいう『冒険者資格』を得る為の試験をクリアできるでしょう」

 夫人は自信満々に告げた。

「頑張ります」

「…では、スフィアについては飛ばして『攻撃魔法』を勉強していきましょう」

 夫人はそう言い、小さな板に丸い水晶が嵌め込まれた道具を取り出し、水晶に魔力を流した。

 すると、数メートル先に『的』が出現した。…リモコンやん。


「…では、初級攻撃魔法…『シンプルマジック:バレット』の実習を始めます」

 そう言うと夫人は右手にソフトボールサイズの『シャイン』の球体…《弾丸》を生み出した。

「《シャインバレット》」

 夫人がそう言った瞬間、《弾丸》はその手を離れ的に向かって一直線に飛んで行き的を破壊した。

「お見事です」

「どうも。では、次はタクトさんの番です」

「(…なかなかのハイペースだな。ま、大丈夫だけど。)分かりました」

 俺が躊躇いなく頷くと夫人は満足げに微笑み、再び的を用意してくれた。

 なので、俺はまず《ウィンド》の粒子を右手に集める。

「(…後はー。)《ウィンドバレット》」

 なんとなく《ぼんやりと覚えている-弾丸と風-》とをイメージすると、夫人が生み出したモノより小さい…《中に渦が出来た》野球ボールサイズの《弾丸》が右手に生まれた。

「《ウィンドバレット》」

 そして、言葉を紡ぎ弾丸を発射する。すると、《それ》はかなりのスピードで的に向かい当たった瞬間小さな《つむじ風》が発生した。…へぇ、こんな効果…?

「…《オーラ圧縮》に《追加効果》がはっきりと……」

 ふと横を見ると、夫人は驚愕の表情だった。…どうやら今のは『上級スキル』のようだ。

「…っ、失礼しました。本当に、貴方には驚かされっぱなしですね。実に、教えがいがある生徒です」

 咳払いした夫人は、とても嬉しそうに笑った。…やはりと言うか、かなりの数の優秀な人材を世に送り出した『伝説の教師』なのだろう。


「…では次は、初級防御魔法『シールド』についてです」

 すると、夫人はリモコンを操作した。直後、破壊された的は『自動』で片付けられて代わりに『ピッチングマシーン』的なモノが出て来た。

「《シャインシールド》」

 夫人が言葉を紡ぐと、手の数センチ先に一枚の《壁》が現れた。

 そして、夫人はリモコンを操作すると『攻撃』が始まった。…おお。

 しかし、《壁》によって攻撃は全て防がれた。

「では、どうぞ」

「分かりました。

《ノーマルシールド》」

 俺は予め、《ノーマル》の粒子を集め『向こうの頑丈な壁』をイメージしておいたので即座に言葉を紡いだ。すると、瞬時に目の前に《分厚い壁》が出現した。

「…っ。始めますー」

 夫人が宣言した直後、攻撃が始まる。しかし、先程夫人が展開した《壁》とは違い目の前のそれにはヒビ一つ入っていなかのだ。

「…凄まじいイメージ力まで……。これは、『ひょっとしたら』……」

 またしても、夫人はポツリと呟いた。

「…っ。…一体、貴方は此処に来るまでどんか人生を歩んで来たんでしょうね?正直、『ここまで』とは思いませんでしたよ…」

「…なんかすみません」

 やや疲れた雰囲気を出す夫人に、とりあえず謝った。

「謝る必要はありません。

 それでは次は、『ウィンド』の移動魔法についてですー」



 ○



 ーその後、二つの移動魔法を教わり実技の授業は終わった。そして、俺は一旦詰所に戻った後『着替え』て同じく礼装に着替えたドミニクさんと共に、入り口の前で『迎え』を待っていた。


「…来たか」

「…っ」

 ドミニクさんが緊張した顔で左側を見たので、俺は更に緊張した。

「「ブルフッ」」

 俺もそちらを見ると、奥から今朝見た白く美しい毛並みの二頭の大きな馬が優雅なキャビンを引きながら、こちらに近付いていた。

「-…ストップ」

 そうこうしている内に、馬車は俺達の前に停まった。

「「ブルフフ…」」

「……」

 すると、こちらも朝に会った赤毛の綺麗なメイドさん…クレアさんが者台から降りてきてうやうやしく礼をして来る。

「お迎えに上がりました。アルエ様、タクト様」

「送迎ご苦労様。お久しぶりだな『クレア』」

「勿体なきお言葉……。

 …はい。お久しぶりでございます。アルエ様」


「…っと。ありがとうございます」

 遅れて俺も、ぺこりと頭を下げた。

「…お気になさらず。これも、私わたくしめの役目です。

 それではお二方、どうぞお乗り下り下りさい」

 クレアさんはメイド服のポケットから《クリスタル》を取りだし指でなぞる。

 すると、男性使用人が内側から客車のドアを開き、とても良く磨かれた金属性の小さな階段が客車の前に設置した。

「「どうぞ、お乗り下さいませ」」

「ああ」

「分かりました」

 大きなタラップに近づき、ゆっくりと上り客車に入る。その中は『広々とした』まごうことなき『リムジン』の内装だった。…確か、《ディメンションカスタム》だったけか?

「それでは、出発致します」

 クレアさんはお辞儀をすると客車に入らず、御者台に移動する。それに合わせて男性使用人がドアを閉め、馬車は街を走り出したー。

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