天才と天才の共演
まるで家庭教師のようなマンツーマン授業
「あ、ニーナお嬢様。お久しぶりでございます」
「ああ。…さて、それじゃあ後は頼むよ」
「畏まりました。…それではシオンお嬢様、タクト様」
メイドさんはこちらに身体を向け、深いお辞儀をした。…うん?
「あ。そういえばまだ伝えてなかったね。
―実は、私の両親が昨日の『お礼の一つ』として君をディナーに招待したがっているんだ」
「…っ!?」
初耳だったのかシオンさんは驚く。…え、マジで?…マナー通じるかな?てか、そもそも…あ。
俺も驚きつつ、そこでようやくこのメイドさんが来た理由が分かった。
「気付いたようだね。…そう、これからまず最初に行くのは貴族御用達の仕立て屋さ。…ああ、街のレストランではなく郊外にある騎士団の保養所の『饗応の間』を貸し切るのでテーブルマナーに関しては気にしなくていいよ。
…で、君用の礼服のそこで採寸し終えたらその後は街中を観光しながら市庁舎に向かい手続きを。それが終わったら、騎士団の保養所にて『ベテラン講師』による『特別授業』を受けて、最後に『私達』とディナーを楽しむ。
…それが、今日の分の『返礼』だ」
「(…スゲー濃厚なスケジュールだな。)分かりました。
じゃあ、『メイドのファミリーネーム』さん。今日は宜しくお願いします」
「…タクト様。どうか私めの事はクレアとお呼び下さいませ」
お辞儀をすると、メイドさん…クレアさんは少し困惑しながら申し出た。…まあ、仕方ないか。
俺も少し戸惑うが、クレアさんの顔を立てる為に受け入れた。
「分かりました。じゃあ、これからはクレアさんと呼びます」
「…ええ。では改めてまして、恐縮ですが私クレアがご案内させて頂きます」
クレアさんは、やっぱり少し困った顔をするが直ぐに真面目な顔になり、シオンさんと俺に深いお辞儀した。
「…お願いね、クレア」
「お願いします」
「畏まりました。
それではニーナお嬢様、私はこれにて失礼致します」
「ああ。
シオン、タクト。気をつけて行ってらっしゃい」
「…い、行って来ます」
「行って来ます、ニーナさん」
シオンさんはやや緊張しながら、俺は元気に返事をしてクレアさんの案内で詰所を出たー。
☆
ー昼・市庁舎小会議室
ーそして、諸々の用事を済ませた俺は最後に寄った市庁舎の一室にて『特別講師』による授業を受けていた。
「ーまずは、ちょっとした歴史の一ページから連盟の『成り立ち』を教えましょう」
俺の前に座る緑の髪の貴婦人…まあ、ぶっちゃけるとニーナさん達の母親であるケイト夫人はにっこりとしながらそう言い『悲しい歴史』を語り始めた。
-きっかけは、些細ないざこざだった。
《モンスタードロップ》-。それは、この世界に起きる一種の自然現象ともいうべき《モンスター》…。それが消える時に落とす、素材や《魔石》等だ。
その当時、《モンスタードロップ》のルールは『早い者勝ち』『共闘したら山分け』くらいだった。だが、素材や《魔石》の真価が説き明かされた徐々に見出され始めた時、人々は奪い合いを始めた。時に脅迫。時に裏切り。時に相手を冷たい存在に変えて…。
その流れはやがて世界に広がり、『侵略』や『略奪』に姿を変えた。そして、それに関わった-いや、『巻き込まれた』多くの血が流れた。
だが、その悲劇の連鎖は突如として終わってしまった。
奪い合いをする者達から、魔法の力の源であり星の力そのものと言われた《マナ》の力が消えてしまったのだ。それに合わせるように、その者達の故郷からも《マナ》は居なくなった。
…それは、『死の宣告』に他ならなかった。
水源はことごとく枯れ果て、大地は痩せ、風は清々しさを失っていった。やがて、流れた血以上の『灯』が消えて行き、一つまた一つと国が消えて行き、そのままゆっくりと世界が終わろうとしていた。
…だが、それの流れに抗った、十六人の若者達が居た。
その若者達は、誰も知らない場所の生まれだった。その若者達は、一人一人が勇敢な心と迅速な行動力を持っていた。その若者達は、次々と消え行く『灯』を救って行った。その若者達は、一度として見返りは求めなかった。
やがて、助けられた人々や残っていた人々は、若者達の後に続いた。そうして、徐々に味方を付けた若者達は、とうとう美しい世界を取り戻した。
そして、その功績を讃えられた若者達は、過酷な地に咲く可憐な白い花になぞらえて『ブランロース』と呼ばれるのだった-。
「-…この後、その若者達と味方になった人達で新たに『領土』と『ルール』を定め、世界は今の形になりました。
…これが、『ブランロース連盟』の成り立ちです。
『連盟』は『リジエーン』を代表とし、『ルヴァネス』、『グランマタン』、『リフィール』、『シェースト』…-」
ケイト夫人は、すらすらと代表的な加盟国を諳じた。…流石は、元教師だな。
そして、次にケイト夫人は代表的な加盟国の内特に覚えておくべき事を話し始める。
「ーまず、この『ルヴァネス王国』は『ブラウクリネス』大陸の西半分を治めています。
首都は国土の中心にある別名『金色の都』と呼ばれる『リオレイユ』です。…ちなみに、ルシオンは此処。ちょうどリオレイユの北ですね。
…では、次はー」
そして、ケイト夫人は近隣諸国について説明する。
ー東側の上半分には『グラマタン帝国』。ここは、技術力を売りにしている国だ。その下半分には、多くの《遺跡エンシェントメイズ》が点在する『リフィール共和国』と大体三十~四十くらいの小国や自治州が、ひしめき合っているらしい。
それと、今朝聞いた大陸の外の国についても説明してくれた。
その中で一番気になったのが、東の海にある五十以上の諸島『ルリ王国』だ。…話を聞く限り、『日本』っぽい国なんだよな……。ちなみに、《昴天属性ミスティックサイド》の発祥地だったりする。
「ーそれでは、次に連盟のルールについてです」
ケイト夫人は、それまでの優しい雰囲気から凄く真面目な表情になった。
「連盟の領域内で魔法を扱うには、自然の力そのものである《天霊(マナ)》の力を借ります。…ですが、《マナ》は誰彼構わず力を貸すわけではありません。
その条件にあてはまる人間は、共通して障気(イリーガルオーラ)》を纏っているのです」
「《イリーガルオーラ》…」
「『ブランロース連盟』には、三つの『禁忌』が定められています。
一つ目は『魔導の力で、他者の幸福を奪う事になかれ』。要するに、『妬みや恨みの感情で魔法を使い、誰かの当たり前の幸せを奪ってはならない』という事です。
二つ目は、『魔導の力で、他者の未来を奪う事なかれ』。これは、『魔法を故意に使い、誰かの夢を奪ってはならない』という事ですね」
ケイト婦人は一度話を切り、やや間を開けて三つ目を語り出す。
「そして三つ目にして最大の禁忌が『魔導の力で、他者の命を奪うことなかれ』。
この三つの禁忌をどれか一つでも犯せば、その人間の魂からは《イリーガルオーラ》を放つとされています。…故に、その人間…要するに『悪人』は魔法を使うことが出来ないのです。
…さて、授業は一旦ここまでにして休憩しましょう」
ケイト婦人はそう締めくくり、ゆっくりと席を立った。
「はい、ありがとうございました。…えっと、確か次は屋上にある運動スペースでしたよね?」
俺も立ち上がり、ついでに次の『教室』を確認した。
「はい。…次の授業は『広い』方が良いので。では、一旦失礼致しますわ」
「はい」
ケイト婦人はお辞儀をして、部屋を出て行った。…いよいよだな。
俺はワクワクしながら、ノートとペンを持って屋上に向かうのだったー。
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