まるで様々な空想が混ざり合ったような想像の世界
「…それで、その『未来都市』はどういう風に描いているんですか?」
「最初の作品でもある『未来幻想記』を更に発展させたような感じです。
-その都市は、天候や気温をコントロールするコンテナが組み込まれた半透明のドーム型の天井に覆われ、街の中では大量の空を飛ぶ鉄の馬車が幾つもの天高くそびえる鋼鉄の建物の間を縦横無尽に飛び交っています。
そしてそこで暮らす人々も、一見連盟の民族と同じ姿をしていますがその身体は独自の進化を遂げていました」
…まさか。
「『マシーニアン』。そこでは、鋼鉄の骨と特殊な筋肉、凄まじいサーチ能力を持つ感覚器官に、如何なる天才も足元に及ばない処理能力を持つ頭脳を生まれながらに持つ民族が暮らしていますー。…という風に書いています」
「…へぇ(完全にサイボーグじゃないか…。街の設定も、わりかしこっちに似ているし)。
…他の作品にも、こういう民族は出てくるのですか?」
「はい。…まあ、想像だけでなくお伽噺も織り交ぜています。
例えば、《タリズマン》…えっと、マジックアイテムの元となった、特殊な場所でたまに発見される強力な能力を持つアイテムの総称です。…で、それらを生み出したとされる穴蔵の中に住み酒をこよなく愛する、ずんぐりとした無骨な職人民族『ドワーフ』。
あるいは、有史より遥か昔に魔法の源となる《天霊粒子》を発見した、深き森に暮らす長き耳と永き寿命を持ち、皆美しい容姿をした探求の民族『エルフ』。
後はー」
その後彼女は、かなりの数の『伝承民族』を
語っていった。…こっちでも、あくまでお伽噺だったけど外の世界にはマジでいるかも知れないのか。異世界半端ないな。
『-失礼します。シオン嬢、宜しいでしょうか?』
「…っ。は、はいっ」
その最中、ふとドアの外から彼女を呼ぶ声が聞こえた。
「…ご歓談中失礼します。実は-」
彼女がドアを開けると、兵士の装いをした女性がなにやら緊張した様子で彼女に耳打ちする。
「っ!?わ、分かりました直ぐに行きます。
…す、すみませんタクトさん。ちょっと、家族から連絡が来たので一旦席を外します」
それを聞いた彼女はびっくりし、そして申し訳なさそうに断りを入れてきた。
「構いませんよ」
「ありがとうございます…」
「…では、案内致します」
「お願いします。それでは、また-」
そう言って、シオンさんは部屋を出て行った。
…ふう。あ、『さっき』の事を伝えて置かないと-。
《-はい。こちらミリューです。…もしかして、-ターゲット-の報告ですかな?》
《…あ、すみません連絡が遅くなってしまい》
《お気になさらず。-マーキング-してもらっただけでも充分に有難いです。
…しかし、良く気付かれずにマーキングができましたね?現に、やたら-制空圏-が広く距離を測りかねているというのに…》
《(制空圏…。…策敵範囲が広いって事か?)…まあ、ちょっと銀の力による裏技を》
《裏技…。…っ!-羅針盤-を持っていたのですか!?》
《…いえ、なんだか曖昧な感じだったので実物ではないです》
《…まさか、それさえも-再現-したというのですか……。まさか、此処までとは…》
なんだか、とても驚かれているようだ。…しかし、どうやら《本物》はさっきのように曖昧な再現になるんだな。
《…失礼しました。
確かに、それなら安全に術を仕掛けられますね。お見事です》
《どうも…。…えっと、そちらはどうですか?》
冷静になったミリュー氏は、感服した様子で称賛してきたが、俺は恐縮しつつ一応確認する。
《こちらは、先程以降特に問題はありません》
《分かりました。…では、また》
《はい-》
そうして交信を終え、ソファーに寄り掛かる。
…さて、どうするかな?
手持ち無沙汰になりぼんやりし出したその時。ふと、いつの間にか画面が消えた《ガイドマップ》が目に入った。どうやら、一定時間操作しないと待機モードになるようだ。
…ちょっと、適当に何か調べてみるか-。
念のためモノクルでラーニングして、それから実際に操作する。…まずは、飯処かな。
そう決めてキーワードを入力した。すると、かなりの店舗がピックアップされた。やはり、大都市だけあって軽食からガッカリ系、こじまんりとしたパブや専属アーティストがいるバーなどといった多種多様な店があるようだ。…ちょっと絞るか。
今度は、『ライス料理』というキーワードで検索してみる。すると、何軒か候補が見つかった。
…ん?『ヤマモト食堂』…?
ふと、その中で気になる店舗を見つけた。…これって、完全に日本語発音だよな。
とりあえず、詳細情報を見てみる。どうやら、『ヤマト』の大衆料理を出す店のようだ。
なるほど、つまりは俺の知る日本語は此処ではヤマト語になるのか。…覚えておこう。
『-入るよ』
記憶に留めていると、少し早いタイミングでニーナさんが来た。
「どうぞ」
「……?あれ、シオンは?」
「ご家族の方からの通信に出ています」
入って来るなりニーナさんは首を傾げたので、簡潔に答える。すると、彼女は苦笑いを浮かべた。
「…やれやれ。私や父様が大丈夫だと言っているのに……っ」
そこで初めてニーナさんは、俺がマップを使っているのに気が付いた。…ま、多分大丈夫だろう。
「…公用語が話せる時点でもしやと思ったけど、タクトは以前長期間連盟で暮らしていたようだね?それも、『持ち運びサイズのマップ』が普及している何処かの都市で」
シオンさんと同様に、ニーナさんはとても嬉しそうに言った。
「(…やっぱり、どうにかなったな。)…みたいですね。あ、ちなみに今は食事関連の店を調べています」
「…なるほど、料理から推察しているのか。なかなか良い着眼点だ。
…ふむ、ヤマトの大衆食堂か。…という事は、日常的にライス料理を食べていたのかな?」
「…ですかね~。
…あ、そうだ。お伝えしたい事があります」
「…っ。ジーン殿からだね?」
こちらの真剣な表情でニーナさんは察し、背筋を伸ばした。
「はい。…内容は、『賊の仲間らしき少女が街に入るのを見掛けたので、念のため-マーキング-をしておいた』…です」
「……え?……まさか、既に侵入されていたなんて…っ!」
ニーナさんは目を見開き、そして頭を抱えた。
「…そのマーキングは、どうすれば分かりますか?」
「(えっとー。)…確か、『目に乳白の光を集めれば良い』と言ってました」
彼女の質問に、きちんと調べてから答える。
「…良かった。普通の《強化》で対応出来るのね。
ごめんタクト、ちょっと戻るね」
「はい」
ニーナさんは足早に部屋を出て行った。…忙しそうだな。ただ、これ以上『慌ただしく』はならないだろう。
『…あの、失礼します』
「…あ、どうぞ」
直後、入れ替わりでシオンさんが戻って来た。
「…あの、何かあったんですか?」
「…ジーンさんの伝言を伝えたからですね。…あ、内容は『精神衛生上』聞かない方が良いですよ?」
「…そう、ですか……」
すると、彼女はやや不安になった。だから、俺はなるべく明るく告げる。
「…大丈夫。ジーンさんが居る上に貴女の姉上も居るのですよ?それに、明後日にはキーパーの方も到着するのです。
何も案ずる事はありません」
「…そうですね。すみません、もう大丈夫です」
不安が和らいだのが、彼女は小さく笑った。
『-シオン嬢、度々すみません。お客様がお見えになっていますがお通ししても宜しいでしょうか?』
…と、その時。また受付の人がやって来た。……っ、なんだ…?
ふとドアの方から騎士の人並みのオーラを感じ思わず身構えてしまう。
「…お客様?……はい、お願いします」
一方シオンさんは、首を傾げた後とりあえず許可した。
『畏まりました。どうぞ-』
すると、ドアは開きクラシカルなメイド服を身に纏った女性が入って来た。
「…あっ!クレアッ!」
「お久しぶりでございます。シオンお嬢様」
その瞬間、シオンさんはバッと立ち上がり早足でメイドさんに歩み寄った。…うわー、完璧な立ち振舞いだなー。
「…シオンお嬢様、もしかしてそちらの方が?」
「っ!そうだよ」
深々とした完璧な礼に見惚れていると、メイドさんはシオンさんに確認する。すると、彼女はメイドさんを伴ってこちらに戻って来た。
「…お初にお目に掛かります。私は、アクウェル家にお仕えさせて頂いておりますクレア=オライオンと申します」
「…あ。…俺はタクトです。宜しくお願いします」
メイドのオライオンさんは名乗り再び礼をしてきたので、俺は立ち上がり名乗り返した。
「…タクト様。この度は、シオンお嬢様の救助にご尽力頂き誠にありがとうございました。使用人を代表し、深く感謝申し上げます」
「(…ホント、愛されてるなー)…どういたしまして」
「…ところでクレア、どうしてこっちに?」
問われたオライオンさんは頭を上げ、シオンさんの方を向いて答える。
「…どうやら、ニーナお嬢様は大変お忙しいようですね。
…実は-」
「-あ、クレアっ!時間通りだね」
オライオンさんが説明しようとした矢先、ニーナさんが戻って来た。
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