まるで元の世界に帰ったような気になる空想小説

 そして、画面は切り替わり市庁舎の三階を写し出した。…そのフロアには、元の世界では『一昔前』に良く見掛けたモノと台と椅子とプライバシー保護の為仕切りとセットになったある設備が複数設置されていた。

「…それでは、主な通信手段と流通について明します。

 一つは、こういった《マジックコンテナ》…『設置型の魔法機器』や通信アイテムを用いた魔導通信。

 一つは、手紙や紙媒体を用いたアナログ通信。

 この二つが、連盟での主な通信手段です。…ちなみに、魔導通信は急ぎや短い連絡手段として。アナログ通信は、魔導通信では伝えらない長い内容や守秘義務のある内容の連絡手段として用いられる事が多いですね」

「へぇー」


「…えっと、これに関して何か質問はありますか?」

「そうですね…(こっちの電話の仕組みが気になるところだか、それも『先生』に聞こう)。

《通信コンテナ》と郵便の最低利用料金ってどのくらいですか?」

「…えっと、通信コンテナは10ヴァールで、郵便の方は60ヴァールになります」

「ありがとうございます(ここもか…)。あ、もう大丈夫です」

「分かりました。

 …では次に、交通と流通について説明しますね」

 すると、画面右半分には昨日見た馬車が。左半分には鉄路を走る連結した客車とそれらを牽引するサイに似た大型の魔獣二頭が写し出された。

「連盟内の主な交通手段は二つあります。

 一つは馬の魔獣が牽引する馬車。一つはサイの魔獣が牽引するライノ鉄道です。

 馬車は、隣町に行く際や州内の移動の際に。ライノ鉄道は、離れた他の州や国家間の移動に利用します。

 …ちなみに最低利用料金は、馬車は150ヴァール。ライノ鉄道は500ヴァールになります」

「なかなか便利ですね(バスと高速鉄道って感じかな)」

「…えっと、他には何か質問はありますか?」


「いえ、大丈夫です」

「それでは、次に流通について説明します」

 すると、画面の右半分には向こうの郵便マークが描かれた赤い貨物車を牽引する乳白色の馬の魔獣の画像が。左半分には羽の描かれた大きな貨物コンテナを運ぶ大型の鳥や有翼の大型魔獣が写し出された。多分、左は運送会社だろう。

「流通ですが、主に二つに分類されます。

 一つは、アナログ通信等を配達する郵便局。物品や新聞等を配送する運送ギルドです。…まあ、この画像は長距離運送ギルドの資料ですが」

「…という事は、近距離運送ギルドには馬の魔獣の従業員が勤務しているんですか?」

「…うーん、場所によりますね。

 水上都市では水棲魔獣が。山間部では長距離同様飛行魔獣や《土の魔法》を得意とする魔獣が従事しています」

「なるほど(あー、早く知りたいなー)」

 ふとシオンさんの口から零れたワードに、思わずウズウズした。

「えっと、それじゃあこれで説明を終わります。

 …では、改めて聞いていきたいと思います」

 どうやら、ウズウズしていたのは俺だけではなかったらしい。


「(…あ、そうだ。)うーん、実はですね…。

 他に《覚えている》事が、もしかしたらシオンさんの作品にそぐわないかもしれないので、どういう内容か見せて頂けませんか?」


「……っ!……分かりました」


 少しびっくりした後、彼女は意を決して端末を操作した。すると、画面は本屋を写し出した。そしてその端には小さい本のマークが出てきた。…もしかして『オススメ本』か?


 その予想通り、その内の上から二つ目のアイコンが拡大し『二つ』の本を表示した。


『未来幻想記 著:エトワール=マルタン』

『外洋幻想記 著:エトワール=マルタン』


「…これって、もしかして連盟の未来の光景と連盟の『外』を予想した作品ですか?」


「は、はい…」


 シオンさんは、消え入りそうな声で頷いた。…しかし、何でこういう空想小説を書こうとしたんだ?…まあ、今はいいか。

 浮かんだ疑問を追い出し、とりあえず『未来幻想記』の小説概要を見る。……おいおい。これって-。

 その内容に、物凄く既視感を覚えた。…なので、詳しく聞いてみる。


「…この新時代の《コンテナ》って、どんなモノですか?」

「えっと、街中だと『お金を入れるとジュースやお菓子の出るモノ』だったり、『光で交通整理を行うモノ』だったり、長期間交換の必要のない《街灯コンテナ》が。

 家庭だと、ただ保存の為だけでなく氷を生成する《冷蔵コンテナ》や、料理によって火力を調整できる《加熱コンテナ》。それから乾燥まで出来る《洗濯コンテナ》。家庭用に小型された《通信コンテナ》に、ニュースも同時に分かる《ライブコンテナ》に、いつでも快適に過ごせる《空調コンテナ》とかですね」


「……へ、へぇー。…あ、じゃあもう一つ聞きますが、こっちの新時代の『ルール』っていうのは?」

 思い切り聞き覚えがある作風に、思わず声が震つつ次の質問をする。

「…いろいろありますが、良く描写するのはさっき言った『光で交通誘導するコンテナ』が深く関わるルールです」

 俺のそんな様子に気付く事なく、シオンさんは答える。…だか、こっちは余計に動揺した。


「…それは、もしや『交通ルール』ではありませんか?」

「っ!そうです…。…もしかしなくても、タクトさんの所ではそのコンテナが使われているのですね?」

「…ええ。…ちなみにですが、路面や馬車も大分変化していますか?」

「は、はいっ!地面は凹凸の少ない灰色の道が何処までも伸び、馬車や鉄道、それに流通にも魔獣の姿はなく大小様々な大きさの鉄の箱みたいな客車や貨物車がその道を二十四時間走っているんですっ!」

 やや興奮気味に、シオンさんは一気に語った。…なんで、こんなに嬉しそうなのだろうか?何か、自分の作品が現実にあるって分かった…みたいな反応とは違うんだよな。


「っ!す、すみません…」

「いえ(まあ、いつか聞ける時を楽しみにしよう。)…ふむ、だったら多分問題はないですね」

「…それじゃあー」

 キラキラと輝いた目でこちらを見るシオンさんに、俺はニッコリと頷いた。

「ええ。…ですが、既に幾つかは描写があるので、細かい部分をお話しましょう」

「はいっ!お願いしますっ!」

 彼女は素早くペンとメモ帳を取り、ワクワクした表情になるのだったー



「ー…とまあ、様々な便利な《アイテム》がある訳です」

「……」

 一通り説明(魔法で代用出来なさそうなモノを除く)を終えると、シオンさんはぽかんとしていた。…あ、もうちょい抑えた方が良かったかな?

「…凄い。まるで、『外の世界』にあるとされる『未来都市』のようですね」

「『外の世界』…。…あ、もしかして二つ目の?」

「はい」

 彼女は、もう一つの本を表示した。…ほう、こっちの方が売れてるのか。しかも、かなりのシリーズがあるらしい。


「タイトルに『外洋』とありますが、具体的に何処の事を指しているんですか?」


「…えっと、加盟国にはこの『ブラウクリネス大陸』の諸国だけではなく、東の海にある島国『ヤマト王国』、西の海に浮かぶ島『ドゥーフ公国』。北の海には『エルヴァニア王国』。南には『ポレーナ自治州』があります。


 その4つの国家の更に先に広がる海が外洋となります」


「つまりは、その先にあるかも知れない未知の国の事を想像した内容がこの本に書かれているんですね?」


「…いえ、ブランロースと各国の有識者で構成された合同調査チームが15年前から調査を始めているのですが、現在までに三つの大陸と17の島国を発見しています」


「…っ(手広くやってるな。…しかし、こっち世界も随分と広いようだ)」


 またしても聞くブランロースの名に驚き、そしてまだ見ぬ世界に思いを馳せた。


「…ただ、発見しただけで具体的な調査はまだ行われていません」

「まあ、もしかしたら言葉が通じずそれが『最悪の誤解』に繋がるかも知れないですし、当然ですね」

「…あの、タクトさんは何処かで『公用語』を教わったりしたんですか?」


 …そういえば、どうしてだろうか?


 ふと、シオンさんは俺自信考えもしなかった事を聞いてきた。

「(…まあ、なんでもかんでも-ジーンさんのお陰-もあれだしー。)…もしかしたら、以前連盟の何処かに長い期間滞在していたのかも?」

 とりあえず、当たり障りのない設定を口にした。


「っ!?…もしそうだったら、何処かに貴方の『記憶の痕跡』があるかもしれませんねっ!」


 シオンさんは、まるで自分の事のように喜んだ。…良い人だな。


「っ!…す、すみません。

 …えっと、それで人々の間で外洋の事が徐々に話題になっていき、私が成人する頃には多くの予想記事や幻想小説をみるようになりました。…その頃、小説家を続けようか悩んでいたので『これがダメなら』って思い切ってその波に乗ってみたんです」

 シオンさんはハッとして赤面したと思ったら、苦笑いを浮かべながら頬をかいた。…けど、こうして今小説家として成功しているって事は、余程面白い作品なのだろう。

 余計に興味が湧き、いよいよ本題に入る事にする。

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