まるでSFのような凄まじい技術力

「-っ!どうぞっ!」

途端にニーナさんはご機嫌になりながら許可を出す。すると、ドアは恐る恐る開いた。

「…っ!お、おはようございますっ!」

そして、レースが刺繍された白のブラウスに紺のパンツルックのシオンさんが、おどおどした様子で入って来た。

「おはよう、シオン」

「おはようございます、シオンさん。早いですね?」

「…は、はい。大体いつもこのくらいから執筆しているので」

「なるほど。…あれ、だったらどうしてこっちに」

「昨日言っておいたのさ。『目が覚めたら、朝食を食べてから応接室に来るように』ってね」

「は、はい」

シオンさんは、頷きながらニーナさんの横に座った。


「…さて、まだちょっと時間はあるし防衛関係での質問はないかな?」

「…そうですね。街の至るところで見掛けたてっぺんに丸いモノが取り付けられた太い金属の柱の正体が気になりますかね」

「…それって……」

「あれに着目するとはね。…良い勘をしている。

タクトの予想通り、あれは治安維持為の装置だ。名称は《セーフティータワー》。

役割は、『居住区画での攻撃魔法の検知』だ」

「…なるほど。つまりは、野外やダンジョンや人が住んでる場所の中にある特定の施設以外で攻撃魔法を使うと、罰せられるんですね?」

「理解が早いね。…ただし、非常事態の時のみ警備隊と冒険者等で構成される《対策チーム》は、特別な方法でその対象外になる事が出来るのさ」

「(…まぁ、どうせ後で知るだろうし今はスルーだな)へぇ、そういう時の事まで想定した《マニュアル》まであるんですね。…正直、驚きました」

「そうだろう?……おっと、どうやらここまでのようだ。他に何か聞きたい事はないかな?」


「はい。…今のところはですが」

「分かった。…ところでシオン、例の物はちゃんと持って来ているかな?」

「っ!は、はい…」

「じゃあ、後は任せるよ?」

「…が、頑張ります」

…なんだ?やけに緊張しているようだが…。

「さて、それじゃあ次は七時になるかな。その後は三十分の休憩時間だから、ゆっくり答え

られると思うよ。

じゃあ、失礼するー」

疑問をよそに、ニーナさんは部屋から出ていってしまった。…そこで、なんとなく予想がついた。


「…えっと、もしかして何か説明してくれるんですか?」

「っ!…は、はい。……えっと、昨日姉さ…姉様に『簡単に覚えられる一般常識を彼に教えてあげて』…と頼まれたので」

「なるほど。…では宜しくお願いします」

「…はい」

頭を軽く下げると、シオンさんは意を決したのか腰のポーチから品の良さげなハンカチと小さな革製の小物を取り出した。…なるほど。『あれ』か。

予想を立てていると、彼女はハンカチをテーブルの上に広げて小物…財布から数種類の硬貨と二枚の紙幣を取り出した。

「…それじゃあ、まずは連盟で使われている貨幣について説明します。

連盟では、『ヴァール』通貨という六種類の硬貨と二種類の紙幣が使用されています。…そして、今置いたのが貨幣の実物になります」

そう良いながら、彼女は一番右端の一番小さなアルミっぽい材質の硬貨を指差した。…なんか、凄く似ているな。

「まず、この小さな硬貨は一ヴァール硬貨で、最小の通貨になります。その隣から順に五ヴァール硬貨、十ヴァール硬貨、五十ヴァール硬貨、百ヴァール硬貨、五百ヴァール硬貨、千ヴァール硬貨になります」

彼女は順に、黄銅の硬貨、銅の硬貨、銀の硬貨、金の硬貨、プラチナのような硬貨を指差していった。…最後の二つは素材や大きさこそ違うが後はまんまだな。…偽造防止の植物や建造物の模様とか、まんまじゃないか。

「…そして、こっちが五千ヴァール紙幣、こっちが一万ヴァール紙幣になります。…ここまでで何か質問はありますか?」

彼女は最後に表に人物が裏に建造物が描かれた二枚の紙幣を指差していき、そこで一旦説明を止め聞いてきた。

「いえ、大丈夫です(硬貨や紙幣にある模様は後で個人的に調べるか。)」

「分かりました…ー」

シオンさんは素早くお金をしまい、そして財布をポーチに戻しまた何かを取り出した。…あれは、ひょっとしてアイテムか?


すると彼女は、丸いクリーム色の玉が中心にはめ込まれた金属の円盤をテーブルの左端に置き、そっと縁にあるボタンに触れた。

直後、玉から数多の同系色の光が溢れ出しテーブルの上に大きな《画面》を構築していった。…まさか異世界で空間投影を見る日が来ようとは仰天だよ。

驚いていると、俺と彼女にとって見易い位置に出来た画面に街の縮図が表示された。

「…えっと、ここからはルシオンの《ガイドマップ》を見ながら説明します。……あの、タクトさん?」

「…いやはや、本当に凄いですね。地図さえもマジックアイテム化されているなんて」

「…もしかして、見るのは始めてですか?」

「ええ。私の記憶喪失は、あくまで名前と何処で何をしていたかの『エピソード記憶』が無いだけです。基本的な知識…《向こう》で使われている文字や簡単な道具の使いとかの『手続き記憶』は、忘れてはいません。…だから、今まで見た事も無い物がこうして目の前にあるこの状況に、とても驚いていますし『どうしようなく興奮』しています」

「…なんと言うか、タクトさんって『強い』ですよね。…もし私が同じ状況に陥ったとしても、タクトさんのようには振る舞えませんよ」

機嫌良く笑う俺を見て、シオンさんは呟く。

「ただ、お気楽なだけですよ。…さて、『それ』を使って何を教えて貰えるのですか?」

知りたいのは勿論だが、何よりも重い空気を変える為に話を元に戻した。


「っ!す、すみません…。

そ、それじゃまずは『情報伝達』について説明しますね」

彼女はハッとして、慌ててアイテムを操作した。すると、画面上部にある『検索窓』っぽいスペースに文字が次々と表示れていった。…『新聞社』で良いのかな……っ、どうやら文字さえも認識出来るようだ。…うん、『ジーンさん』に最低限の事は教わった…という事にしよう。

まあ、言葉が通じている時点で確実に思い込んでるだろうから、明日来る『先生』にだけ言っておけば良いか。

そんな事を考えていると、地図が拡大されていき最終的にとある大きな建物を映した。…『どう見ても、-グー○ル○ップ-です、本当にありがとうございました』をまさか異世界でも体験するとはな~。

「ーまず、この連盟における主だった情報伝達の手段は新聞です。そして、此処『ラル-ションビル』には王国時報社を始め加盟国の新聞社が『加盟国数を確認』入っています。

勿論、各地にも各国の新聞社の支社は有りますが全てあるのは首都と此処ルシオンを含めた各州の大都市だけですね」

「…はぁー、凄いですね外国の新聞社がそんなにあるんですね。まあ、それだけ移住者や他国の事に興味を持っている人、または情報を必要としてる人がいるって事ですよね」

「…っ。タ、タクトさんはその辺どうだったか覚えてますか?」

ふと、シオンさんは意を決した様子で聞いてきた。…なんか、凄い気を使わせてしまっているな。…《仮面》で、どうにか出来ないかなー。


ーすると、その願いに応えるように仮面は起動し頭の中に『目的のモノ』を浮かべた。

「(…出来たよ……。この仮面、思ってた以上きチートだな。)…そうですね。…他国の新聞は入手こそ出来ますが、新聞社そのものはあんまり見掛けた記憶がないですね」

「…そうなんですか。…っ。あ、あの今の話、小説に使わせて貰っても良いですか?」

すると、シオンさんは再び緊張しながら聞いてきた。…なるほど、だからか。

真意を理解したので、笑みを浮かべる。

「新進気鋭の若手天才作家の紡ぐ物語に、私の話を載せて頂けるとは光栄ですね。…あ、他にも聞きたい事があれば…まあ、《覚えている範囲で》ですが遠慮なく聞いて遠慮なく載せて下さいね」

「っ!は、はい。これからはそうします…。…じゃあ、一旦お待ちください」

シオンさんは、メモ帳を取り出し素早くネタを書いていった。


「…じゃあ、説明の続きをしますね。

えっと、これはちょっとした捕捉になりますが実は新聞を見る媒体は二つあるんですー」

メモを終えたシオンさんはそれを手前に置き、興味深い事を言いながらアイテムを操作していった。すると、画面は切り替わり別の大きな建物が写し出された。

「一つは、当然ですが紙媒体。そして、二つ目は《ニュースボード》…つまりは、特殊な魔法が記憶された掲示板みたいな物です」

彼女はそう説明しながら、更に操作していく。すると、建物の脇に表示された小さなアイコンらしきモノの一つが拡大された。

…しかし、完全に市民の生活に溶け込んでるな。こりゃ他にもあるな?

「ニュースボードはこの市庁舎等の公共機関や新聞紙の配達が遅くなりやすい場所にある町や村への中心、また一部のホテルとかだと部屋ごとに設置されてますね」

情報の鮮度を保つ為に、そこまでやるのか。…てか、最後のは確実に高級ホテルだろうな。

「…では、ここまでで何か質問は有りますか?」


「…そうですね。

このニュースボードって、他に種類があったりしますか?例えば『その場の状況をまるで実際に見ているような』タイプとか」

「…っ、有ります。別の場所の映像と音声を同時に流す《ライブボード》という大型アイテムが。…もしかして、似たようなモノを見た事が?」

「ええ。お話ししましょうか?」

「…いえ、残り二つの説明の後に纏めて聞きます」

シオンさんは、我慢しているのがプルプルしながら操作を始めた。…なんか、今の俺みたいに知識欲が凄いな。それにしても、一体どういう作品なんだろう?

操作に集中する彼女を横目で見ながら、とても興味が湧いた。

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