まるで穏やかじゃない眼差し
ほんの一瞬、どこからともなく視線を感じた。…それも、『悪意の篭った』視線を。
眠気は一気に吹き飛び、俺は視線の元を探るべく立ち上がり、窓に近付こうとしてふと足を止めた。
モノクルが、《警告》してきたからだ。
《直接探るな》…て、事か?…じゃあ、どうやって探ればー。
すると、モノクルに《必要な物》が写し出された。…これは、コンパスだよな?これで、探せって事か。
すぐさま袋に手をいれ、《いつもの手順と現象》の後に目的の物を引き出した。…あれ?なんか変だな。
そのコンパスは今まで取り出してきた物と違って実体ではなく、存在感がぼんやりとしていた。…もしかして、《感知》されるのを防ぐ為だろうか?けど、これだとはっきりした方角が見えな…ー。
不便さを感じていると、ふと頭に言葉が浮かんだ。
《ナビゲーション・オン》。…ん?…なっ!?
頭の中で言葉を紡いだ直後、足元にぼんやりと銀のサークルが展開した。そして、再び頭の中に言葉が浮かんだ。
……《エネミー・ナビゲーション》。
驚きながら言葉を紡ぐと、サークルに一歩の矢印が構築された。そして、その矢印は独りでに動き出し窓の方向を差し示した。…凄っ。……ん?まだ、何かあるのか?
更にびっくりしたが、またモノクルがイメージを写し出した。…おわ、これはなかなか。
その《目的と手段》にまたまたびっくりしながらも、イメージを現実にすべくまずは《次元魔法》の元になる《小箱の粒子》をコンパスを持つ右手に集め、左手には《汎用魔法》の元にかる《乳白色のオーラ》を集め、最後にコンパスに新たな指示を出す。
《セッティング・インダション》
すると、新たな矢印が生まれたと思ったらそれはサークルを飛び出し壁を突き抜けた。…大丈夫かな?
若干の不安を抱きつつ、続けて言葉を紡いだ。
《ディメンションゲート》、《ノーマルスコープ・クリア》
すると、昨日と同じように目の前にサークル状の《ゲート》と《透視窓》が展開した。そして、《透視窓》の左下には対象となる『ピンクの髪の少女』がいた。
…どんな悪党が居るかと思ったら、随分と可愛らしい刺客だな。…ただ、『見た目』に騙されるときっととんでもない『カウンター』を食らうだろう。
その少女からは、悪意は勿論凄まじい力を感じた。…首謀者に近い実力を持つ人間だろうな。さてと-。
気を引き締め、次の手順に取り掛かる。まず右手に《水魔法》の元の《青いオーラ》を、左手に《ガス魔法》の《複雑な色のオーラ》を集めてから言葉を紡ぐ。
《アクアミスト》、《チェイスカーズ》。
すると、右手から霧が発生し左手からは白い煙が発生した。そして、最後に手を合わせながら言葉を紡いだ。
《ユニゾンマジック:チェイスミスト》。
直後、二つの魔法は混ざり合い《真っ白い霧》となった。それを、両手ごと《ゲート》に突っ込んだ。
…良し、散布成功っと。
《透視窓》でどうなったかを見ると、《霧》は朝靄と混じり完全に同化した。これは攻撃魔法じゃないから敵も気付かない…って事だよな?
少し不安になりながら少女を見ていてると、彼女はゆっくりとその場を離れ《霧》が混ざった朝靄の中に消えていった。…ふう、大丈夫っぽいな。《オールキャンセル》。
ため息を吐き、全ての魔法の解除を行った。同時に、コンパスは袋の中に吸収された。…ようやく、十分か。今度こそ、ちょっと寝ようかな……。
そう考えている内に、うつらうつらとしてきたので素直に目を閉じた-。
ー……おっと、そろそろかな?
それから少し経った頃、ふとこの部屋に近付く気配を感じゆっくりと目を開けた。
『タクト、入るよ』
すると、ノックと声が聞こえた後ドアがゆっくりと開き再びニーナさんが入って来た。
「あ、お疲れ様です。…何か、ありましたか?」
だが、先程と違いその表情はほんの僅かに曇っていた。その事を指摘された彼女は、少し驚きそして困った表情になった。
「…やれやれ、『銀の装者』には隠し事も出来ないようだね。まぁ、どのみち伝えて欲しい事だから良いか。
…タクトは昨日の御者の方の話を覚えてる?」
「ある程度は。…もしかして、敵について何か分かったんですか?」
「正解だ。…話の中で、賊は三つの希少アイテムと一つの禁止アイテムを使ったと言っていただろう?」
「ええ。…そして、それらは盗賊の背後に居るであろう首謀者が用意したんでしたよね?」
「…実はね、三つの希少アイテム…いや、禁止アイテム《召魔の笛》以外の全ての希少アイテムに関しては間違いである事がさっき判明した」
「…え?他にもあったんですか(そういえば、いくつか思いあたるな。けど、他は気付かなかった…。…まぁ、多分俺が救援に行った時には停止していたのかな)」
「ああ。
まず、シオンを捕らえようとした賊が持っていた木の小箱と客車の中で発動していたトランクの二点。ちなみに、これらは同じ《ディメンションー》…《空間魔法》の一つ《ディメンションプリズン》が《インストール》…記憶がされていた。
次に、最後のダメ押し用として《プリズン》に侵入する《ディメンションインベイション》を記憶した五つの指輪に、馬車の周辺に展開していた《ディメンションシェルター》が記憶された球状の小箱。それから、馬車の正面に仕掛けらていた《ディメンションゲート》を記憶したチャクラム(輪の形状の武器)。
そして、冒険者を操っていた《ファントムキャプチャー》を記憶した《ブレスレット》に…。
-勇敢に助けを呼びに行ったシオンが賊に捕まりかけた原因となった、《ファントムフェイク》の記憶されたトランク外部に取り付けられた小型ランプ…。
合計で十二のアイテムが使用されていたんだ」
「…それだけのアイテム、一体『何処から流れて』来たんですか?」
「…そこまで分かるのか。…それらのアイテムは全てご丁寧に型番が潰されていたが、《鑑識》が《経った過去を捜査》した結果一つの商会にたどり着いた」
「(優秀~)…一つの商会?」
「ああ。それらはブランロース連盟最大の商会、『エスピル商会』で取り扱っているアイテムだったのさ」
「…つまりは、客に扮した敵が秘密裏に転売しているか、もしくは幹部に上り詰めた敵のスパイが横流ししている可能性があるってあるって事ですよね?」
「…ああ。非常に厄介な事になった」
「…まぁ、あくまで憶測でしかないですからね。そして、こちらが調べようとしたらどんな《イレギュラー》が起こるか分かったモノではない。…第一、《今確実に迫っている脅威》を防ぐ事で手一杯ですし、現状手は出せませんね」
「……ちょっと待って。もしかして、ジーン殿から何か連絡が来たのかな?」
俺の呟きに、ニーナさんは表情を固くした。
「…はい。この街の北東にあるというイレツ森林にて、《予兆》を感じたそうです」
「…なんて事なの……。…詳しい地点は言っていたかな?」
ニーナさんは頭を抱えながら聞いて来た。…うん、これ以上心労を掛けない為にも『あの事』は黙っていよう。そして代わりにー。
俺は『決意』を固めながら、口を開いた。
「…それが、どうも『小さい』らしく中に入ってみないと詳しくは分からないみたいです。ただー」
「ー…そうか、《魔導資格》がないからダンジョンには入れないのか。…だが、それを取得する為には…いや、一つ方法があるな」
「…本当ですか?」
「ああ。…なるほど、これも条件の一つなのかな。
…さて、その方法だが手順は極めて簡単だ」
ふと独り言を呟やいたと思ったら、ニーナさんは唐突にそう言った。
「…え?」
「なにせ、この後に行う『やるべき事』をやれば済む話なんだから」
「それってー」
『ー…し、失礼しますっ!』
詳しい事を聞こうとしたその時、ドアからシオンさんの声が聞こえた。
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