まるで普通じゃない高度な情報共有


ーふう。朝食美味かったな…。ふわふわ食感のパンに、優しい味のコーンスープ。複数の野菜を取り入れたサラダに、メインの塩と胡椒が程よいベーコンエッグ…。…なんとなく異世界の食事はマズイと思ってたけど、これなら大丈夫そうだ。



 三十分後、ニーナさんに言われた通り応接室で待ちつつ激ウマ朝食の余韻に浸っていた。…と、そろそろ《連絡》を入れてみるか。


 気持ちを切り替え、袋から《仮面》を取り出し意識をそれに集中し頭の中にミリュー氏の姿と言葉を浮かべる。


 《…えっと、こちらタクト。ミリュー氏、応答願います》


 《ーはい、こちらミリューです。良かった、ちょうど報告したいと思っていました》


 直後、ミリュー氏は通信に出た。同時に、ミリュー氏の現在の状況がぼんやりと浮かんだ。どうやら、今しがた森から飛び立ったようだ。


 《…あ、今大丈夫ですか?》


 《-この状態-での同胞と会話は良くするので、問題はありせん。…あ、実は今から-哨戒-を始めるところなんです》


 《そうですか。どうやらちょうど良いタイミングだったようですね。


 …では、一応こちらの状況を伝えておきますねー》


 俺は彼に、騎士団の動きと《プロフェッショナル》が来る事を伝えた。


 《ー…ほう、適切な対応ですね。やはり、-中-の軍組織は優秀だ》


 それを聞いたミリュー氏は、満足げにそうコメントした。…『この対応』が完璧って事か。ますます、『ブランロース』が気になってくるな。


 《おっと失礼。わざわざ教えて頂きありがとうございます》


 《…いえ。それでは、何かありましたら-合図-を送って下さい》


 《分かりました。ではー》


『タクト、入るよ』


 通信は切れたタイミングで、ニーナさんがノックをしてから入ってきた。


「あ、ちょうどよかった。さっき、ジーンさんから『今から哨戒』を始めると連絡が来ました」


「…っ、早速だね…。…分かった」


 ニーナさんは、そのまま部屋に入って来て対面のソファーに腰を下ろした。どうやら、『お礼』を始めるようだ。


「…さて、答えられる範囲でだけど質問に答えましょう」


「(…まぁ、機密があって当たり前だよな)じゃあ、まずは兵士や騎士の横に控えていた犬や鳥の『隊員』達の事を教えくれますか?…ぶっちゃけ、《彼ら》って普通の動物じゃないですよね?」


 先程のミーティングの様子からある程度の『ルール』を察していたので、それがあっているかの確認を含めて最初の質問をした。



「……。ええ、勿論。


 彼等は《魔獣》と呼ばれる存在だよ」


 ニーナさんはほんの一瞬なにかを考えてた後、その正体を教えてくれた。


「《魔獣》…。…って事は、彼等は《魔法》を使えるって事ですか?」


「正解。…まぁ、《階級》によって使える魔法の種類や威力は違うけどね」


「(…一応、-あの事-も聞いておくか。)その《階級》って、何段階あるんですか?」


「…それを説明するには、まず魔法について説明しなきゃいけないんだ。そしてそれは、一朝一夕で覚えられるモノではないから『明日来る専門家』に纏めて聞いてね」


「…分かりました。じゃあ、次は警備隊の大まかな仕事を教えて下さい(どうやら、魔法の種類と-階級-は密接に関わっているようだな。…-楽しみ-だな)」


 ワクワクした気持ちになりながら、次の質問をした。


「良いよ。


 まず、さっき見た通り主要任務は街と周辺の治安維持になるんだ。それは、不審人物や不審物の捜索だけでなく喧嘩や迷子等のトラブルの解決、そして昨日のような事件が起きた時の制圧や被害者の保護と多岐に渡る」


 …なんか、警察みたいだな。


「そして、それらを未然に…もしくは事態が悪化しないように日々巡回警備や市民の救援要請に迅速に対応するため『交番』にて常駐警備をしているんだ」


「なるほど(…あれ、めっちゃ聞き覚えのあるワードが……。…どういう事だ?)」



「…っと、すまないが一旦戻るね」


 元の世界で聞いたワードについて考えていると、ニーナさんは断りを入れ立ち上がった。


「はい」


「続きは、そうだね…。…そこの時計が-六時三十分を過ぎた辺りになると思う」


「分かりました(今が五時五十分だから、四十分は待つな。…しかし、時間の読み方も一緒か)」


 ニーナさんがアンティークな柱時計を指差しながらそう言うのを、またもや不思議な気持ちになりながら頷いた。


「それじゃー」


 …さて、あちらはどうなったかな~?


 ニーナさんが部屋を出て再び暇になったので、ミリュー氏達の動向にぼんやりと思いを馳せていた、その時。仮面がゆっくりと起動した。


そして、空を舞うミリュー氏のイメージが見えその後に繋がりる感覚がする。


 《ーこちらミリュー。タクト殿、宜しいですかな?》


 そして、ミリュー氏の声が聞こえてきた。…早速、なにかあったのか?


 やや不安になりながら、返事をする。


 《こちらタクト。…どうされましたか?》


 《…実は、つい先程気になる場所を見つけたので報告した次第です》


 《そうですか…。場所は?》


 《そこの街の北東にある-イレツ森林-と呼ばれる自然変化型の-ダンジョン-です》


 《ダンジョン…?…えと、もしかしてモンスターが出現したりする場所って事ですか?》


 《…失礼しました。まだタクト殿は-こちらの事-を殆ど知らないのでしたな》


 ミリュー氏はハッとし、申し訳なさそうに謝ってきた。…真面目だな。


 《気になさらず。一つ、-楽しみ-が増えましたから》


 《…それはなによりです。


 …それで、ここから本題になるのですが、一度-視て-貰えませんか?》


 《……もしかして、-この力-の事知ってます?》


 唐突な要請に、確信に近い予想を抱き聞いてみる。


 《…我々が知っているのは、その-力-は悪意を見抜き-障気-と呼ばれる世界を破滅に導く不浄の力を浄化し、世のバランスを保つ…という事だけです》


 《なるほど(…ほんの少し言いづらそうにしているのは、多分それだけじゃないからだろうな~。現に、この袋の能力は明らかに説明がつかない。…まぁ、確実に《トップシークレット》な内容なのだろう)。


 じゃあ、早速-転送-して下さい》


 事情を察したので知りたい気持ちを抑え、なるべく普通に要請を出した。


 《……。了解しましたー》


 直後、視界はゆっくりとクリーム色の雲で埋め尽くされた。そして、体感で五分経ったその時、ゆっくりと雲は消えたその時。…おわ。『分かっていても』びっくりするな。


 俺は周囲の景色は、応援室から外の…昇る朝日によって照らされた草原に変わっていた。それから少しして、目の前に急速に『森』が構築されていった。


 -《ファントムプレイバック》だったか。…ホント、イメージ通り凄い魔法だ。……さて、どうかな?


 《幻魔法》の一つによって『再現』された森に意識を集中させる。すると、ほんの僅かだか『嫌な気配』を感じた。…昨日と違ってまだ『発生』してないせいか、はっきりとは感じないな。とりあえず、現実に戻るか。


 一旦目を閉じ、頭の中で《キャンセル》と呟いた。すると、再びクリーム色の雲が視界を覆いそれが晴れると元いた応接室に戻っていた。


 《ーどうでしたか?》


 《…ほんの僅かですが、-嫌な気配-を感じました》


 《やはりですか。…これは、かなり困ったことになりましたな……》


 《どういう事ですか?》


 《一つはそのイレツ森林…というか殆どのダンジョンには、我々は立ち入る事は難しいです。なぜなら、『環境』が乱れる恐れがあるからです》


 …おいおい、見た感じ力を抑えているであろう小型の状態でも環境変異を起こしてしまう可能性があるって、どういう事?…はぁ、なんか初っぱなから凄い状況だな。


 《もう一つは、そこは初心者の為のダンジョンの一つなのです。故に、簡単に規制は出来ないと思います》


 《駆け出しの人にとって、それはなかなかキツイですね。…あ、俺も多分今日からルーキーになるだろうから他人事じゃないか》


 《…どうやら、順調に人らしい生活に近付いているようですね。良かった》


 《まぁ、身近に貴方という超常の存在がいる上に、ヤバい事態が静かに迫って来ているので、-普通-の人らしい生活ではないのですけどね。…けど、そのお陰で今回の事態を最高の結果で解決できるかも知れないのだから、ある意味ラッキーだったのかな?》


 《……やはり、行くのですね?》


 《勿論ですよ。…多分これは、-無くさなかったモノ-なのでしょう》


 《…元々の-性分-なのですか?》


 《ええ。


 -出来るかも知れないのにやらないのは、嫌なんですよ》


 《分かりました。どうか、宜しくお願いします》


 《任されました》


 《では、引き続き哨戒をします》


 《お願いします》


 《ではー》


 そこで通信が切れ、俺はソファーに体を預けた。…なんかちょっと眠くなってきたな~。《ファントムスタイル》って結構エネルギー…魔力を消費するのかな?


 そんなことを考えてながら時計を見るが、まだ五分しか経っていなかった。なので、少しのあいだ眠ろうとした。だが-。


 -……っ、なんだ?


 ほんの一瞬、どこからともなく視線を…『悪意の籠った』視線を感じた。



 

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