まるで一蓮托生のような『彼ら』との関係


-それでは、協力して頂くにあたりいくつかお聞きしたい事があります」


「なんだ?」


「まず、お二人はこういった物をお持ちですか?」


 アクウェルさんは、丈夫そうなポーチから中心にクリスタルがはめ込まれたカードを取り出した。…あ、ひょっとしてー。


「ー…流石『連盟』は進んでいるな。もうカードタイプの《身分証》が出回っているのか」


「…ええ。…という事はやはり、お二人は『外』から来られたのですね?」


「……っ」


 アクウェルさんの言葉に、シオン嬢はハッとしながらこちらを見た。


 …『外』、つまりは『加盟国』に属していない国って事か?…あれ、もしかして今の俺ってかなりマズイ状況では?


「…こいつはそうだが、俺は厳密にいえば違う」


「そうですか。…ふむ、となるとー」


 嫌な汗が頬を伝うが、ミリュー氏は特に慌てた様子はなく答え、アクウェルさんも言及する事はなかった。そして彼女は一度席を立ち御者台付近に置かれた鍵付きケースから、一円サイズの丸いクリスタルが着いた簡素な紐のネックレスを二つ取り出した。


「ー…お二人には、正式な《パーソナルクリスタル》が発行されるまでの間、こちらの特別許可証となる《エクストラクリスタル》を身に付けて頂きます」


 …へぇ、随分と準備が良いんだな。…ただ……。


「…あー、用意して貰っておいて悪いが『俺は街には入れない』んだ……」


 ふと気掛かりが浮かび意識だけをミリュー氏に向けていると、案の定彼は『ノンフィクション』な事情を口にした。


「……っ!そこまでの『訳』を抱えていらっしゃるのですね……」


「……」


「…ああ。そのせいでこいつには相当不便な思いをさせているから申し訳……あ、そうか」


 ミリュー氏はこちらを申し訳なさそうに見ていたが、ふと妙案を思い付いた表情になりニーナさんに視線を戻す。…ちなみに、ここに関しては俺は何も考えてない。


「さっきの件の『礼』だが、こいつに仮の名前を与えるのと、知識や技術の教導等の援助を希望する」


 ……はい?


 これには、流石にびっくりしてミリュー氏を見た。


「…貴方は何も求めないのですか?」


「ああ。俺は『余り-人と関われない-』んだ。…こいつは『少々』特別だから少しだけ手助けしてやれるが、それ以外の者に直接『何か』をしたりして貰ったりする事は難しいんだよ」


 思った以上に、厳しい『制約』があるようだ。…といか、俺は例外のようだか一旦なぜなんだろう?


「…そうですか」


「そんな顔をしないでくれ。『-これ-は我々』が自ら望んで選んだ事なんだ。


 …それに、こいつが『強く』なっていく程に俺の『事情』も《弱く》なっていくんだから」


 アクウェルさんの浮かない表情に、ミリュー氏は淡々と告げた。…やれやれ、これは頑張らないとな。


「…分かりました。彼の事はこちらにお任せください。


 では、早速お礼の一つである彼の『名前』を決めてしまいましょう。…で、何か良い名前はないかしら?」


 アクウェルさんは、唐突に妹に振る。…無茶振りではないだろうか?


「わ、私がそんな大事な事を決めてしまって良いのですか…?」


「勿論よ。なにせ、貴女にも報酬を払う理由はあるのだから。…彼はね、私とジーン氏が居ない間ずっと貴女を守っていてくれたのよ?


 だから、その恩は貴女も返しなさい」


 びっくりするシオン嬢に、アクウェルさんは真剣な眼差しで告げた。すると、彼女はハッとし直ぐに腰のポーチからメモ帳を取り出し、パラパラとめくっていく。…もしかして、彼女は普通の貴族令嬢ではないのかも知れないな。


「ー……っ。では、まずはこちらを見て下さい」


 少しして、シオン嬢はあるページを見せてきた。そこには、幾つかの名前が書かれていた。…どれにしよう。……あれ?


 一つ一つの候補を見ていく中、とある名前が何故か気になった。



その瞬間、モノクルは『壮大なイメージ』を見せてきた。つまりは、この名前を名乗る事で、将来相当『面白い未来』がこの身に訪れるって言いたいのだろう。


 だから俺は、その名前を迷わず選ぶ。


「…この、『タクト』って名前にします」


「「…っ!」」


 すると早速、面白いくらい二人はぎょっとした。


「……うん。良い名前だと思うよ。シオンも、『また』良い名前を考えていたんだね」


 だか、アクウェルさんは直ぐに気を取り直し微笑みを浮かべた。


「…『また』?…もしかして、そちらの妹君は小説家なのですか?」


 とりあえず今は突っ込まず、先に確認してみた。


「…は、はい。まだまだ駆け出しですが…」


 シオン嬢は、少し恥ずかしそうに言った。すると、アクウェルさんはニコニコしながら自慢気に言う。


「ふふ、シオンは凄いのよ?何せ今、『連盟中』で大きな話題となっている『新ジャンル』を書いている、新進気鋭の若手天才作家なんだから」


「っ!?」


「「ほう~」」


 突然の身内自慢に当人は赤面し、俺達は感心しながら彼女を見た。それが余計に、彼女を赤面させた。


「いや、その若さで成功をしているとは大した才能の持ち主のようだ」


「ですね。…正直、凄いです」


「……~~~っ!」


 俺達の賞賛に、彼女はそろそろ限界を迎えようとしていた。


「そうでしょそうでしょ。…っ、失礼しました。それでは、本題に入りましょう」


 一方、アクウェルさんはますますニコニコするがふと我に返り、コホンと咳払いをして《エクストラクリスタル》をこちらに差出した。…なんというか、なかなか面白い人のようだ。さてー。


「…タクト。とりあえず、そいつを手に持ってみな」


「はい」


 俺は『解答』に従い、アクウェルさんからクリスタルを受け取った。


「…んで、次は名前と魔力を《記憶》させろ。やり方は、『いつも通り』だ」


「(…なるほどね。)わかりました」


 彼の真意を読み取り、モノクルを通してクリスタルを見た。すると、『方法』がモノクルに写った。


「ー《名称・タクト》」


 俺は声に《魔力》を乗せるイメージで、《エクストラクリスタル》に向かって名乗った。すると、クリスタルは淡く発光し始めた。


「んじゃ、そいつを一旦騎士殿に返しな」


「はい」


「…はい。さてとー」


 アクウェルさんは《エクストラクリスタル》の上に、自分身分証をかざした。


「《身分保証人・ニーナ=クラージ=アクウェル》」


 アクウェルさんが名乗ると先程と同じ事が起こった。それが済むとアクウェルさんはネックレスを返してくれた。



それを見ていたミリュー氏は、少し嬉しそうする。


「…良かったな。これでようやっとお前は不便な生活からオサラバだ」


「…どうも。…ところで、ジーンさんはこれからどうするんですか?」


「…そうですね。今後の協力するにあたって、せめて連絡手段だけは教えて頂けますか?」


「……っ!そうだな…」


 二つの問いに、ミリュー氏は少し考えてから懐に手を突っ込みある物を取り出した。


 ーそれは、小さな紫の石だった。…なんだ、これ?何か、とんでもない『力』を感じるんだが?


「俺は、街の周辺を《同志》と共に警戒しておこうと思う。何かあったら、それを用いてタクト経由で連絡する(《後でそれを、貴方の影に-入れて-下さい。そうすれば、仮面を着けた私以外の者とも簡易的に交信できますし、更にいろいろと手助けが出来るようになります》)」


 案の定、凄い物のようだ。てか、あくまでも『俺』の手伝いってスタンスなんだな…。



「…まさか、哨戒まで手伝って頂けるとは。本当にありがとうございます。


 では、こちらで何か掴めた際は彼を通して連絡しましょう」


「頼んだ。さてとー」


「…?」


「ー隊長、そろそろルシオンに到着します」


 ミリュー氏が前を見たちょうどその時、御者席から騎士が到着を知らせてくれた。


「…ありがとう。さてと、ちょっと失礼させて貰いますー」


 するとアクウェルさんは席を立ち、御者席に向かった。しばらくして馬車は止まり、外から話し合いが始まると共に少し周りが騒がしくなった。それから少しして、後続の旅馬車ともう一台の騎士団の馬車が横を通過していった。


「ーお待たせしました。…あ、ジーン殿はそろそろ行かれますか?」


「ああ。それじゃ、短い間だが宜しく」


「はい、宜しくお願いします」


 ミリュー氏は立ち上がり、そそくさと客車を出て行った。それと入れ替わるように、憲兵が会釈をして入って来た。


 そして、彼は俺とシオン嬢のクリスタルをルーペのような物で調べそれからアクウェルさんのと運転手の騎士のを調べ、問題が無い事を告げお辞儀をして出て行った。どうやら、特別なケースの場合自動ではチェックできないらしい。…ま、俺が抱いていた『こういうシーン』のイメージと比べて、充分ハイテクだがな。


「…そうだ。せっかくだし、『あれ』をやっておこう。…シオンも、手伝ってくれないかな?」


「っ…。はい!」


 ふと、アクウェルさんは何かを思い付きシオン嬢に協力を求めた。すると、彼女は何故かとても嬉しそうに快諾した。そして、二人は背筋を伸ばしこちらを見た。…なんだろう、すごく予想が出来る。


「「ようこそ。ヴェルナー州で常に賑やかな街。『始まりの街・ルシオン』へ!」」


 二人は美しい声でハーモニーを奏でながら、俺を歓迎するのだったー。



 ーこれが、俺とこの姉妹との長く不思議な絆の物語の始まりの思い出だ。…当然この時はまだ、お互いにそんな事になるなんて夢にも思ってなかっただろう。でも、きっかけは直ぐにやって来たんだ…。


 シオンの作品から『飛び出て来たような奴ら』が起こす、とんでもない事件に姿を変えて。



 



 

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