まるで奇跡でも見るような目の姉妹





「…すごいな、あんた……」


「あ、貴方は一体…?」


 …とその時、護衛役の内の二人が話し掛けて来た。


「ただの通りすがりのお人好しですよ。…ああ、そうだ。


 ー勇敢な乗客の一人は、無事ですよ」


 俺はにこやかに身分をぼかし、話題をそらす意味でも最優先に少女の事を伝えた。


「…っ!本当かっ!」


「ええ。…私の『仲間』と共に、少し離れた場所で待って隠れています。直ぐお連れしましょう」


 直感で上手い言い訳を口に出し、直ぐにその場から離れ《彼》の元に戻る。…その道中、ふと向こうから《メッセージ》が飛んできた。


 《ーこちらミリュー。応答願います》


 《はい。…何か、ありましたか?》


 《今しがた少女の所持品から、強い魔力信号が発生しました。恐らく、防犯用のアイテムが作動したのでしょう。


 …そして、現在こちらに強力な魔力反応が急速に近付いています。…どうします?こちらで対応しますか?》


 …どうしよ。…まぁ、別に正体明かしても問題ー。


 そう考えていた俺に、何故かモノクルは激しく反応するようにとあるイメージを見せた。……は?何で、今から出会う『その人』に正体が知られたら、あの娘が命の危機に瀕するなんて事になるんだ?


 訳が分からなくなるが、時間は無いので解決策を求めた。…すると、最悪のイメージは消え別のイメージが浮かんだ。



 《ーミリュー氏。今から-入れ替え-を行いますので私の指示通りの動作をして下さい》


 《…っ。分かりました》


 …とりあえず、一旦止まるか。


 最初の指示を出しつつ、地上に降りた。そして、二つの粒子を同時に集める。


 《では、行きますー》


 まず互いが見えるように《スコープ》を展開し、二つの《仮面》に《箱》を重ねる。


「《ディメンショントレース》」


 直後、互いの《仮面》は入れ替わり《彼》の姿は『俺』から中性的な容姿に銀の髪の人物になった。…後は。


 俺は《ゲート》を開いて、ミリュー氏と場所を入れ替わった。



「ーっ!?」


 直後、肌を刺すような濃厚な闘気ともいうべき気配を遠くから感じた。…おいおい、彼女一旦どこのお嬢様だ?あんなにも強い護衛が居るって事は、相当な家柄だと思うのだが?


 予想を立てつつ、とりあえず『守っている』感を出す為袋から剣と鞘を出し少女の前に立つ。


 ーそして数分後、その人物の姿が見えてきた。…あの格好、兵士か?


 白の馬に跨がるのは、白とオレンジのカッチリした服に身を包み、その腕と足と胸部に装甲を装着した緑の髪をポニーテールの女性だった。


「ーっ!ストップッ!」


 そして、互いの距離が目と鼻の先まで近付いたその時。女性はこちらに気付き、馬を止めた。


 馬は嘶き共に止まり、そして女性は地面に降りこちらにゆっくりと近付く。


「…っ。大丈夫、私はこの近くの都市の警備を拝命している者だ。そして、君の後ろにいる少女の家族でもある」


 女性は、一瞬目を見開くが直ぐに凛とした表情で身分を名乗った。


「(…もしかして、この髪の色って珍しいのか?)…そうですか……。っ……」


 一応モノクルで安全かどうか確かめてから、剣を収め『緊張を解けた』ように剣と膝を地面に落とした。…すると、女性は優しい微笑みを浮かべた。


「ありがとう。君がこの娘を助けてくれたんだね?」


「…あ、いえ。直接助けたのは俺ではなくー」


「ー…ふぅ。…おや、そちらはどなただ?」


 女性のお礼の直後、ちょうど良いタイミングでミリュー氏が現れた。ーその瞬間、不意に頭にある名前が浮かんだ。…つまり、本当の名前は誰にも言ってはいけないって事だよな?


「…っと、失礼。

 私は、王国騎士団上級騎士ニーナ=C=アクウェルと申します」


 そんな事を考えていると、アクウェルさんは再び微かに驚きつつ身分と名前を名乗った。


「…これはご丁寧に。私は…申し訳ないが訳あって真の名前を捨たんで、ジーンと呼んでくれ。…んで、俺が保護している者だがこっちも相当な訳があって一切の記憶を失ってるんだ。たがら、こいつも名乗る名前が無い」


 すると、ミリュー氏は唐突に『真実混じりの設定』を言った。あれ?記憶喪失って言った覚えが……あ、コピーした時に《それ》も読み取ったのかな?


「……そうですか。…そんな状況の中、賊より馬車を…何よりも私の妹を助けて頂き本当にありがとうございます」


 アクウェルさんは、一瞬悲しげな表情をするが直ぐに凛とした表情になり改めて俺たちにお礼を言った。


「どういたしまして」


「…ところで、お二人はこの後何か用事はありますか?」


「別に、急ぎの用事は無いが…ー」


 …あ、考えるられるとしたら聴取とかか?


「ーなるほど。確かに関わった者として、状況の説明はしなければな」


 予想を立てると、何故かミリュー氏はその事を口に出した。…もしかして、これも《仮面》の効果だろうか?


「助かります。…では、そろそろー」


「ー……っ、ん……」


 アクウェルさんは少女に近付き抱え上げようとしたが、ちょうどその時少女は目を覚ました。


「っ!シオンッ!」


「…え、姉さ…ん……?……っ!?」


 少女ーシオン嬢は、寝惚け眼でアクウェルさんを見つめ次の瞬間ぎょっとして周囲を見渡した。


「…わ、私、助かったんですか……?さっき、盗賊に捕まって……それ…で……っ……」


 そして、シオン嬢は肩を抱き凄く怯え始めた。…無理もない。いきなり襲撃され、森の中を追い掛けられた挙げ句に『覚めない悪夢』に突き堕とされる所だったんだから。


「大丈夫。…貴女を恐がらせる者は、彼らが追い払ってくれたわ」


 涙を流すシオン嬢に、アクウェルさんは肩に右手を置き左手で震える手を握りこちらを向いた。


「……え?」


「どうも。俺はジーンと言う者だ。こっちは、俺の仲間だ」


「どうも」


 シオン嬢もこちらを向いたので、ミリュー氏は代わりに自己紹介をした。……?


 すると、彼女は俺達を見て固まった。


「…シオン?あんまりジロジロ見ては失礼よ?」


「っ!…すみません。…その、ありがとうございました」


 アクウェルさんに窘められたシオン嬢は、ハッとして謝り、そして再度頭を下げた。…やっぱりこの髪はかなり珍しいようだ。


「どういたしまして。…さて、それじゃ改めて現場に行くとするか?」


「そうですね。…シオン、体調は大丈夫そう?」


「…あ、はい」


「それじゃ、貴女は私と一緒に乗って。…で、申し訳無いのですがー」


「ーああ、大丈夫だ。こいつにとってもちょうど良い修行になるだろ」


 申し訳なさそうな表情で言いたい事は察したので、言葉を遮りもっともらしい『設定』を言う。


「すみません。…っと」


「よっ…」


「シオン、しっかり掴まってなさい」


「はい、姉さん」


 ニーナさんはペコリと頭を下げ馬に股がり、シオンさんもその後ろに乗った。


「《ウィンドフライ》」


「……」


 俺たちも準備を整え、ニーナさんを見た。


「ゴーッ!」


 アクウェルさんは頷き、手綱を軽く振るう。すると、馬は嘶き駆け出したので俺たちはその後に続いた。

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