まるでジェットコースターのような劇的な始まり②


 …制圧完了。後は…。


 俺は、男の横に落ちた宝箱に近付く。…普通に開くかな?


 躊躇っていると、モノクルが宝箱をズームした。…そして、数秒後に宝箱に重なるように『◯』を表示した。…便利だなー。


 感心しつつ、宝箱をそっと開けた。…すると、『予想通り』宝箱を中心に魔法陣が展開し突然薄緑の髪の身なりの良い少女が姿を現した。


「―……」


 少女は気を失っているが、目立った外傷はなかった。…まぁ、『傷が付くのを避けた』からだろう。…しかし、どうして見るからに良い所のお嬢様がこんな所で賊に……。…っ、まさか。


 ふとある予感が脳裏を過り、少女を抱えたまま洞窟の外に出た。


 ―直後、先程賊の男から感じた『黒い意志』を複数感じた。…やはり、襲撃されている。さて、どうすれば良い?


 すると、案の定モノクルは『方法』を教えてくれた。…おお、確かにこれなら『後に起きそうな問題』も発生しなさそうだな。


 すぐさま、モノクルで見た《それ》をイメージしながら袋に手を突っ込んだ。すると、袋はそれを実体化させた。


『カァーッ…』


 そのクリーム色の仮面を見たカラス達は、あからさまに唖然としたような気がした。…あ、どうやらかなりの《レア物》を出してしまったらしい。…まぁ、どうせ『二役やる』し大丈夫だろう。


 とりあえずスルーし、まず簡素な作りの方の仮面を装着した。


 すると、仮面は一瞬だけ光った。…多分、これで《記憶》されたな。


 次に、袋をくれた―…恐らくリーダー格のカラスに目線を送った。…そのカラスは、一瞬ぎょっとしたがすぐさま側に来てくれた。


 そして、カラスに仮面をあてがう。…次の瞬間、カラスはクリーム色の光に包まれた。


「―…いやはや、流石上級魔法具ですな」


 そして、光が収まるとそこにはカラスの姿はなく、代わりに銀の髪に青い瞳の男ーすなわち《俺》がいた。…へぇ、俺ってこんな容姿だったんだ。…っと。


 すぐさま思考を切り替え、最後に装飾の施された仮面を付けた。


「…おお、姿が代わりましたな。それで、我々は何をすれば良いのですかな?」


 直後、『俺』が目を見開きつつ尋ねできた。


「(…なんか慣れないな。…まぁ、良いか)えっと、お仲間に『三人と一人』に別れるように言ってください」


 なんとなく、『敬意』を抱きつつ要望を出した。…すると、『彼』は少しキョトンとして、それから仲間に指示を出した。


「…次は、右のお一人には『賊』を運びながら私に追走するようにと。貴方と残りの方々に『彼女』の警護をお願いします」


「分かった。…ー」


『彼』が再度指示を出すと、言われた一人が賊の男を《手》で持ち上げた。


「…では、行って来ます」


「ご武運を。…ー」


「「カァーッ!」」


『彼』は俺には柔和に、仲間には厳しい『声』を掛け見送った。


 …厳しい『上司』だな。…さてー。


 俺は気持ちを切り替え、《翡翠色の粒子》をイメージする。そして、《それ》を全身に纏わり付かせるイメージを描く。


「《ウィンドフライ》」


 言葉を紡ぐと、身体はゆっくりと浮かぶ。…次に、加速するイメージをする。直後、身体は目的地に向かって飛翔を始めた。そして、ものの数分で馬車の上空に着いた。…ふむ、見た所馬車はまだ大丈夫そうだが…多分違うな。


 下を《ズーム》して見ると、馬車の周りでは賊と護衛の人達が戦っていて賊が攻めあぐねているように見えた。


 ―…だが、肝心の客車からは外の比にならない『黒い意志』を感じた。間違いなく、主犯格は中だろう。…さて、どうしよ?


 とりあえず、中を《覗く》と乗客と乗務員とが客車の中心に固まり《結界》を展開し防戦していた。…そして、それを破ろうとしているのは賊と、きちんとした身なりと装備をした男女だった。…ふむ、《操られた》警護の人達だな。…なるほど、『そういう事』か。


 異常の真実を見極めたので、空間を越えて突入しようとするがふと、モノクルがイメージをみせた。……これは、『あの男』がカギとなるって事か?


 イメージが終わり後ろを見ると、賊の護送を頼んだカラス達が側を飛んでいた。


 《―…ナニカ、ゴ用デスカ?》


「…っ!」


 すると、突然耳にカタコトが聞こえて来た。恐らく、この仮面のサブ的な能力だろう。


 俺は直ぐに落ち着き、要望を出す。


 《ええ。…今からちょっと準備をしますのでその後に、賊を降ろしてください》


 《心得マシタ》


 …さて。


 俺は早速準備を始める。まず、周囲に《籠》を展開する。次に、表にいる的に気付かれないよう死角となる場所…すなわち、客車の下に《透視》をしながら《小さな箱》を設置した。そして、最後に《籠》と《箱》を繋ぎ準備を終えた。


 《―お願いします》


 《了解デス》


 合図を出すと、護送役はゆっくりと賊を降ろして来た。そして、ちょうど良い高さで止めてくれた。


 そして俺は、賊の手を…《檻の鍵》となる指輪を着けた右手を接続の魔法陣に突っ込んだ。


 ―次の瞬間、『箱』の方から僅かな振動が伝わって来た。そして、すかさず客車の中に《ゲート》を作り賊の持っていた宝箱を投げ入れた。



 すると、それを見た賊が《宝箱》を拾い下卑た高笑いを上げ乗客達に告げる。


『アッヒャヒャヒャッ!お客様に大変残念なお知らせがありますっ!皆様が希望を託されたお嬢様は、無様にも捕まってしまいましたっ!つまり、もう絶対に救援は訪れないという事ですっ!


 痛い思いをしたくなければ、無駄の抵抗は辞めて《結界》を解除して下さ~いっ!』



『…っ!』


 《宝箱》を見た乗客達は絶望の表情を浮かべ、そして《結界》を展開していた乗務員は、恥辱に耐えながら術を解除した、その瞬間。


 《ーそいつを宝箱を持つ賊の正面にぶつけてください。次に、俺が突入した直後護衛と賊達を拘束して下さい》


 《了解》


 新たにゲートを作りつつ指示を出すと、護送役はゲートに賊を投げ込んだ。直後、その賊は勢い良くゲートから飛び出し宝箱を持つ賊にぶつかった。


『ーがっ!?』


『!?』


 その賊は突然の出来事に対応出来ず、床に倒れ伏せた。当然、乗客達も賊達も驚愕したが前方の座席付近にいた賊だけは、直ぐにハッとし座席下のトランクを取り出しー。



「ーさせないよ。《ディメンションプリズン》」


 トランクを開ける直前、俺は客車に移動しそれ《檻》に閉じ込めた。


「…っ!?」


「チィッ!……なっ!?」


 追い打ちを掛けるように俺が現れた事で、賊達は瞬時に何かしようとするが、護衛と共に即座に床に倒れ込んだ。



「ー残念だったな?」


「…なんだ、テメェは……っ!?」


 俺はニヤリとしながら賊に告げた。当然、賊は混乱しながら聞いて来た。


「…通りすがりのお人好しさ。…《ウィンドマスク》。

 それじゃ、さようならー」


 俺は護衛と賊達の顔に《翡翠のマスク》を装着させ、《穴》を開け《催眠ガス》を《マスク》に送った。直後、賊達は眠りの中に落ちた。


ー遅くなってすみません。助けに来ました」


『っ!や、やったっ!』


『あ、ありがとうっ!』


 乗客と乗務員は、皆抱き合ったりこちらにお礼を言って来た。


「どういたしまして。…ただ、まだ安心はできません。何せ、まだ賊は外にいるのですから」


『……っ』


 その言葉で、彼らは一気に冷静になった。なので、にこやかに告げる。


「ですが、直ぐに掃除してきますので皆様は大船に乗った気でいてください。…ああ、それと乗務員の方は救援要請を出しておいて下さい」


「っ!わ、分かった」


 …さて、行くか。


 俺は上空に展開した《籠》に戻り、再度下を《ズーム》で覗いた。…ふむ、護衛は結構強そうだし《援護射撃》にしておくか。


 とりあえず、そこに向かって手を向けるとモノクルがイメージを見せた。…っ、これはなかなか…。


 思わずニヤリと笑いつつ、《刺々しい形の粒子》をイメージする。


『ーっ!?』


 その時、どういう訳か賊達は護衛達への襲撃を止め一ヵ所に固まった。そして、《守り》の体制に入った。…まぁ、無駄だがな。


 俺は構わず、粒子を右手に集めつつ球体に変化させていった。


「ー《ポイズンバレット・イレイズ》」


 最後に言葉を紡ぎ、毒々しい弾丸を賊達に向けて放った。


 その弾丸は、賊達の《守り》に命中した。直後、そこを起点にして《守り》は崩壊していった。当然、賊達は慌てながらも再度守りを発動させようとするが、《弾丸》の残留物が染み込んだその場所では、それは叶わなかった。



そしてそれを護衛達が見逃すはずもなく、賊達は次々と無力化されていった。…しかし、何故か未だに『黒い意志』を感じ続けていた。


「ー《ノーマルエリアサーチ》」


 すると、イメージが浮かんだのでそれに従い周囲を見渡す魔法陣を周囲に展開した。……見つけた。


 それを用い馬車周辺を探していると、直ぐに二人の男が見つかった…のだが、そいつらは襲撃が失敗に終わったにも関わらずその場から逃げるどころか、まるで慌てていなかったのだ。


「ーっ!?《ディメンションゲート》」


 直後、《とても嫌な予感》が脳裏を過り気付けばその二人の背後に《ゲート》を展開していた。


「っ!やはり、気付かれたか…」


「とんでもないな…」


 だが、二人は直ぐに《ゲート》から距離を取り


 片方の男は地面に手を向けた。すると、地面に巨体な黄土色の魔法陣が展開し、そこから岩の《大蛇》が出現した。


 それと同時に、もう片方が懐から悪趣味なデザインの笛を取り出しー。


「《ノーマルレッグ》っ!」


 叫びながら言葉を紡ぐと、足は大きな乳白色の《足》に包まれていた。そのまま俺は上空から、岩の《大蛇》をおもいっきり踏み付けた。


 直後、《大蛇》は大きな音と共にばらばらに砕けていき、大量の砂煙を生み出し周囲を黄土色に染めた。


「なぁぁぁぁっ!?」


「《ウィンドアクセル》っ!」


 信じられないといった感じの絶叫が聞こえたので、その方向に意識を向け《加速》を使った。


「…っ!しま…-」


 ちょうど砂煙から飛び出した所に賊がいたので、膝を突き出した。当然、高速の攻撃に反応できる訳もなく…。


「ー…ごはっ!?」


 賊は腹に膝を受け、勢いよく吹き飛んで後ろの木にぶつかった。


「《ウィンドカッター》」


 間髪入れずに、もう一人の賊の持つ笛に向かって《風の刃》を飛ばした。


「っ!?バカな…、《空間》使いは複数…ー」


「ー《スリープカーズ》」


 混乱する賊に《催眠ガス》を放ち、意識を狩り取った。…ふぅ、ようやく一安心だ。


 俺は深いため息をこぼし、二人を《拘束》してから馬車へと向かったー。















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