第20話 仲間と選択肢

スイはあれから自分の部屋にこもってレオから貰った本を読み込んでいる

そこへコンコンと扉をノックしたハナが入ってきてスイの隣にしゃがみこんだ

「スーイちゃん!どう?領主様とのパイプは出来そう?」

スイの顔を見上げる形で問いかける

スイは本を読みながら淡々と話した

「ん?あぁ その作戦はやめた」

「え?!やめたって 失敗したの?」

目を丸くして驚くハナにスイは続ける

「いや 作戦変更 シャルルを領主にする」

「えええ?!どういうこと?!」

スイは本を閉じ ハナに向き合い経緯を簡単に説明した

途中から胸を抑えて唸っていたハナは全て聞き終わると

「うぇぇ 吐きそう」

と言いながら俯いた

「でも そんな簡単に領主って代えれるの?なんだかわたしには分かんないや」

そう言ってスイのベッドに体を投げた

「うん シャルルを領主に据えるのはそう難しくはないと思う 問題はそこじゃないんだ」

スイはそう答えながらこめかみに親指を押し付ける

「そうだ 明日レオの所へ行こうと思ってるんだけど ハナも一緒に行く?」

「行く行く!絶対行くよ!」

ハナは身を乗り出して応えた

「だって最近スイちゃん忙しそうで全然お話し出来てなかったし!」

そう言われてスイはハッとした

自分が小さい頃から一つの事に集中すると周りが見えなくなるということは分かっていた

でも自分では気付けず 今みたいに誰かから気付かされて始めて気付く

「そうだね ははっその通りだ」

今回の作戦変更も これからやろうとしていることも 全部一人で考えて一人でやろうとしていた

スイはハナの一言で視野が広がっていくのを感じる

「ハナ ありがとう」

スイはハナに優しく微笑んだ

ハナは顔を真っ赤にして視線を外した

ハナは少し遠慮がちにスイに問いかける

「え えっとね あの スイちゃん今時間 ある?」

「うん 大丈夫だよ」

スイはハナの問いにすぐに答えた

「スイちゃんに見て貰いたいものがあるんだ」

ハナはモジモジしながら立ち上がると外へ出た

「スイちゃんもおいでー!」

そう言われてスイも外へ出る

そこには 後ろ手に杖を持ったハナが少し照れながら笑っていた

「スイちゃんがレオの所へ行ってる間ね わたしもカイちゃんも自分達なりに色々考えて修行したんだよ!」

スッとハナが片手で杖を掲げると その先端に草木から水滴が集まり球状になる

ハナはそれを楽しげに見つめ クルクルと杖の先端を回すとその水球が細長くなった

「すごい」

スイはその光景にただただ感心した

ハナはスイの方をチラリと見ると

「まだここからだよー!」

ともう片方の手を杖に添える

杖から水柱に魔力が送られ それがクリスタルのようになる

「よっと」

そう言って杖でそのクリスタルを押し上げると それはハナの手元へ落ちてきた

それを手に取り

「ジャジャーン!」

と自慢気にスイに見せる

スイがそれを手に取ると 確かにそれは水で出来ていてヒンヤリ冷たかった

「魔力で水を閉じ込めたのか」

ハナは得意になって胸を張る

「フッフーン 凄いでしょ!」

「うん 本当にすごい」

スイは水のクリスタルを眺めてつついたり回したりした

「魔力の操作技術も上達したし 魂包のコントロールも少しづつ出来るようになってきたんだよ」

「カイちゃんもね 蓄積したエネルギーを体内で使えるようになったみたいだし 剣の道場にも通ってるみたい」

スイが手に持っているクリスタルにハナが指で触れると クリスタルは水になってその場に流れ落ちた

スイはその時自分の頭の中で物凄い勢いで広がっていく可能性を感じていた

自分一人ではなく多くの人が持つ可能性を視野に捉えると どんどんどんどん 自分でも把握しきれないくらいの勢いで広がっていく選択肢と可能性


無意識の内にスイの手は震えていた

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