第16話 虎穴と虎児

三人はレオのもとを発ってから一週間シャルルとその取り巻きの情報を集めた

そして多くの情報を手に入れた

この町へは三日にいっぺんの頻度で訪れること

取り巻きは三人居て交代で二人づつシャルルに付くらしい

その三人はもともと領主と近しい家の出で豪商だったり大地主だったりの息子なのだそうだ

取り巻きとは領主の屋敷付近で合流すること

ぐるりと町全体を歩いて夕刻には屋敷へ戻ること

取り巻きはその報酬で夜酒場で酒を飲むこと

そして その情報を提供してくれたほとんどの人間が彼らを良く思っていなかったこと

唯一シャルルという名前を聞いて飛んできた女の子だけは彼のことが大好きだと言った

これは少し意外だった

女の子が言うには自分が大切にしている犬が馬車に跳ねられ 小さな自分ではどうすることも出来なくて泣いていたところへ現れて 簡単な治療魔法をかけてくれたのだとか

その後程なくして大人の人が来て犬を抱えて病院へ連れていってくれたらしい


「うーーん なるほどねぇ」

スイはそれらの情報を頭で整理しながら唸っている

「スイちゃん なにか良い作戦出来そう?」

「それが まったく」

スイは両手の平を空に向けて肩をすくめた

「最初はこの取り巻き連中を排除してシャルルの近くに着ければと思ってたんだけど

親の繋がりで群れてるのなら切るのは難しい」

「唯一の救いは この女の子の存在だろうな もしこの女の子の存在がなかったら ちょっと厳しかったと思う」

スイは笑顔でため息をつく

「でも 無理ではないんだ!」

「そうだね 絶対の自信があるわけじゃないけど 取り敢えず僕一人でこの輪の中に小石でも放り込んでみようと思う」


そしてシャルル一行がいつものように町を練り歩く

スイは一人でシャルル一行のもとへ駆け寄った

それを察知した取り巻きが腰を落とし剣の柄に手をかけ声をあげる

「何だキサマ!」

スイはその場で跪き一行に向かって声をかけた

「僕は!半年前に成人の儀の後シャルル様から金銭を恵んで頂いた者です!」

「お金が無く困窮していた僕と友人にとって あのときの施しは何にも代えがたく 命を救って頂けたシャルル様へお礼を言いたく 今日馳せ参じた所存です!」

暫くの沈黙の後 シャルルが取り巻きを制し 前へ出た

シャルルは跪くスイを見下しながら冷たく声をかける

「ほぉ そんなことは憶えていないが 貴様が今ここにいる理由はなんだ?」

スイはシャルルの問いに間髪入れず答える

「ただお礼の言葉を言わせて」

「建前などどうだっていい!」

シャルルはスイの言葉を最後まで聞くことなく声を荒げる

「貴様 大方わたしに気に入られればもう一度施しが貰えるとでも思っているのだろ?浅ましい下民が!!」

「そんなことはございません!泣いていた女の子の犬を助けたとも聞き及んでおります!」

犬の件を出されたシャルルの眉がピクリと動いた

「町の様子を見て歩き 困っている民へ手を差し伸べるシャルル様を 僕は尊敬しております!」

スイとシャルルのやり取りを周りの住民が気にし始め 人が集まりだした

「シャルル様が施しをなさる際 敢えて悪態を突くことで民が劣等感を感じないよう配慮されているのも 僕は知っています!」

住民はスイの発言を聞いてざわつきだす

取り巻きが「見世物ではないぞ!」と怒声をあげる

住民が散ろうとしたその時 人混みから犬を抱いた女の子がシャルルへ近づいた

「シャルル様!あの時助けてくれた わたしの大切な家族です!こんなに元気になりました!」

スイが女の子の方へ視線を向けると その奥でハナが親指を立てて笑っていた

シャルルは女の子へ近付くと 何も言わず犬の頭を手で撫でた

その目は確かに優しかった

その様子を見た住民が一層どよめきだす

あちらこちらから「シャルルさま!」と声が上がっていた

「シャルル様!僕はあなたをお守りする剣にも盾にもなります!どうかこの町を見回るときだけでも近くに居ることをお許し下さい!モチロン報酬など必要ありません!ただあなた様の助けになりたいのです!」

スイは顔を上げ真っ直ぐシャルルを見た

ここまで注目を集めてしまっては 好意を向けてくる少年のことを理由もなく突き放すことなど出来ずシャルルは踵を返しながら

「好きにしろ」

と言う他なかった

取り巻きは「シャルル様!」と困惑したが

「周りを見ろ これが拒否出来る空気か?」

と囁かれ頷くしかなかった

まずは第一関門を突破しスイは不敵に微笑んだ

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