第15話 旅立ちとホーム

レオを含む四人は スイが助手になってから少しづつ片付けて以前とは見違えるほどキレイになった中央の部屋でテーブルを囲うようにして椅子に腰掛け 話していた

カイとハナは護衛や宅配といった比較的危険度の低い依頼を多くこなしていたこと

スイはレオのもと色々なことを学び つい先程弟子という位に格上げしたこと

レオはスイと同じようにその仲間へも優しい顔を向けていた


「それでねスイちゃん 私たちが採取した素材の木箱は私たちの家の中庭に置いてあるんだけど この大量の金銭はそうもいかないよね スイちゃん どうしたらいいだろ?」

スイはハナの問いかけに 腕を組んで考える

「うーーん そうだなぁ

さずがにこんな大金持って動くのは気が重いし かといって置いておけるような場所もない かぁ」

考え込むスイにレオは笑いながら言う

「そんなもの さっさと使ってしまえ」

「使えと言われても こんな大金なにに使えと言うのです?」

スイがレオに問うと レオは淡々と話した

「つまりは使いきれぬ金銭を安全な場所に隠せれば良いのだろ?ならば家を建てれば良いではないか」

その提案にハナは目を輝かせた

「三人の家!凄い!夢みたい!」

カイも言う

「広い畑も 牧場も作れる」

スイもレオの言うことが凄く利にかなっていると感じた

「なるほど 自分達に都合の良い拠点を持つのか そんなこと今まで考えたこともなかった」

「しかし 広い土地を買うとなると領主の許可が必要になるな まずはそこからか」

「うぇ 領主ってあの嫌なやつ?」

三人は半年前の成人の儀の後のことを思い出して ため息をついた

「なんじゃ?なにがあったのか わしにも話してみい」

スイは一部始終の話をレオに聞かせた

「なるほどのぉ しかしスイよ 今のお主なら其奴の行動から色々なこと 読み取れるのではないか?」

レオはスイの顔を見てニッと笑う

「其奴のことを理解してみせよ」

スイは頷き 組んだ両手に顎を乗せて目を閉じた

あの時のシャルルの行動

高圧的な笑い 金銭の施し 取り巻き 暴力 能力の確認 失望

その全てを溶かし繋げる

「何が見える?」

スイは自分に問いかける

プライド プレッシャー 怯え 隷従 助け

スイはハッとして顔を上げる

レオはその様子を見て言った

「見えたか?其奴の心」

「仲間の いや 人との信頼関係の渇望」

スイの呟きにレオは小さく頷く

「スイよ この二人にも今見えたことを分かりやすく教えてやれ」

スイは二人にも分かるように簡潔に話した

彼の行動は領主という立場の親の面目を守るため高圧的になっていること

そしてそれが敵を多く作ることを知っていて怯え 大きなプレッシャーとなっていること

そんな自分を守ってくれる有能な仲間を欲していること

そして彼が一連の行動の中で唯一見せた良心

それは 暴力の裏に隠された金銭の施し

「シャルルのその唯一見せた施しという優しさ それが彼の本心だ」

「困っているなら助けてやる だから自分のことも助けて欲しい そう言ってるんじゃないかな」

二人はスイの説明を真剣に聞いて納得していた

「きっと 寂しくて 怖くて 辛いんだね」

ハナがそう言うとスイは頷いた

そしてレオが言った

「このシャルルという奴を利用すれば上手くいけば領主の座に就くことも出来るやも知れん わしはお勧めせんがな」

レオはスイをチラリと見る

「はい 僕もそれはしたくありません あまりにもリスクが大きすぎるし 今貴族を敵に回して生き残るだけの体力もない」

「今は しっかり自分達の力や知識をつけることと より大きく強い地盤を築くことが大事だと思います」

レオは優しく頷く

「その通りじゃ みなまだ若く発展途上じゃ 今は出来る限り器を大きく育てるべきよ」

三人は「はい!」と頷いた

「まずはシャルルに取り入り 領主とのパイプを作ることから始めようと思う」

スイが二人にそう言うと二人は頷いた

「でも その間この金銭どうしたらいいかな?」

ハナが不安げにそう問うとレオが言った

「金くらい わしがここで預かってやるぞ

可愛い弟子の頼みとあらばな」

スイはレオに「お願いします」といい 三人で馬車の布袋を一つ残して全部下ろした

「さて スイよ 話の流れから察するに 主はここを出るのだな?」

「、、、はい これから多くの知識を教わろうというのに名残惜しいですが」

「うむ わしもじゃよ 弟子がわしの持つ知識を吸収して大きくなる様を この目で見届けたかった」

レオは優しく寂しさを湛えた表情でスイを見る

スイはそんなレオをゆっくり抱きしめた

「な なんじゃ!」

レオは珍しく狼狽えている

「レオに僕から近づいたのは 初めてな気がします」

「そうじゃな」

レオは少し困った顔をしてスイの髪を撫でた

「スイよ さっき寂しいと言ったがなあれは本心じゃ しかしこうなることも わしにはなんとなく想像できていた」

レオが体を離すと「少し待っておれ」と言い残し小屋へ入っていった

程なくしてレオは片手に分厚い本を一冊持ち帰ってきた

その本をスイに託しレオは言った

「これはわしの知識を書き貯めた本じゃ

全てではないが 主がここを訪ねた時から出来る限り書き記した」

スイが驚きの表情を見せるとレオは嬉しそうに笑った

「いつでも訪ねて良いからな もし主が道に迷いどうにも出来なくなったとき 必ずわしが導いてやる」

「はい!」

スイは深々と頭を下げた

「行ってきます!」

「うむ いってらっしゃい」


スイが馬車に乗り込むと 程なくして馬は走り出した

スイはいつまでも外で見送るレオに手を振り続けた

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