第14話 成長と等価交換
「出来た ついに実現させたぞ!」
スイの手には木を掘って作られた杖が握られていた その鈍い光沢を放つ先端は先の丸い巻き貝のような形状をしている
持ち手の辺りに細長い窪みがあり そこにちょうど収まる形の筒が収納されていた
スイはその杖に向かって火打ち石で火花を散らす
するとボッと勢いよく先端に火が着いた
その様子をニヤニヤとスイが眺めていると
寝室の扉が開き 今まで眠っていただろうレオーネが欠伸をしながら出てきた
「なんじゃ朝から騒々しい」
「あ!先生!おはようございます!」
「うむ おはよう」
レオーネは白衣を身に纏いながら挨拶をする
「しかし 主は元気よのぅ 昨晩もタップリ絞ってやったというに」
スイは少し照れながらもレオーネに向かい杖を掲げて見せた
「そんなことより見て下さい先生!」
杖を手渡されたレオーネはその杖でタバコに火を着けながら目を細めた
「ほほぉ 中々考えたではないかスイ」
レオーネは杖の窪みや筒 先端の形状をじっくり眺めながら小さく頷いている
「よもや半年足らずでこれ程の物を作り上げるとは思わなんだぞ」
「可燃性 耐燃性 燃焼時間 メンテナンス性 全て実用レベルをクリアしておる」
ふぅーっと煙を吐き レオーネは杖をスイに返した
「わしは主のことを少し過小評価していたのかも知れんな 自己の欲を捨て全ての時間を学びへ向かわせるというのは並大抵のものではないぞえ」
レオーネはスイの頭を優しく撫でた
「ありがとうございます!僕には実現させなければならないことがあって それを共に目指す人がいます」
スイは杖の筒を抜き火を消しながら目を伏せる
「自己の欲を満たすための学びなのです」
「それに 毎晩先生が性欲を発散させて下さいましたから」
スイはレオーネに少しイタズラに微笑みかけた
「フフッ 言うようになったではないか」
「よし 合格じゃ!今日から主は助手などではない わしの大切な弟子じゃ」
スイは小さく拳を握りしめ 自分が一歩前へ進んだことを誇った
「ありがとうございます!先生!」
レオーネは小さく首を横に振り
「これからはわしのことはレオと呼んで欲しい」
「よいかスイよ 師弟というのは上下関係を示すものではない 信頼関係を示すものぞ」
「師は常に弟子を想い 弟子の行動の責任を負う 弟子はそんな師を敬う」
レオはスイの顔を両手で優しく包み
「どうじゃ?親と子のようじゃろ?」
そう語りかけた
スイは胸をギューーッと絞られたように苦しくなり 呼吸も酷く浅くなった
気付くともう涙で視界がボヤけていた
止めどなく溢れる涙と鼻水でグシャグシャになった手を レオは一切の嫌みも含まずスイの後ろへ回し 優しく抱き寄せた
それはレオがその全てを見通す目でスイのことを覗き見た結果の行動かはわからない
それでも 幼い頃に両親を失い 成人する前に唯一の身寄りだった祖母を失っていたスイにとって
親と子
という言葉は あまりにも深く胸に突き刺さる言葉だった
スイはレオの胸の中で嗚咽を止められないままに言葉を発した
「ぼ ひぐっ 僕は 仲間しか居なくなって ふぐっ もう 頼れる人は いないんだって」
「、、うん」
「僕は 僕は先生 レオ を 頼っても いいんでしょうか」
「いいんじゃ 頼っていいんじゃ」
スイをより強く抱きしめ レオは続ける
「弱さを認め 人に晒すことは恥ずべきことではない」
「人はな みな弱さを持っておるよ
その弱さを隠し強く見せようと思うから疲れるんじゃ」
レオはゆっくりとスイを離すと しかと目を見て諭した
「よいかスイ この世の理で万物共通する事象がある」
「それはな 等価交換じゃ」
「何かを得ようとすれば失うものもある それが多ければ多いほど 大きければ大きい程に取り返しのつかなくなることもある」
「じゃからなスイよ 与えるのじゃ」
「それは力でも 知識でも 金でも 快楽でも 愛でもいい」
「失う側に回っても良いことなどなにもないぞえ」
「、、、はい!」
スイはレオの言葉を深く心に刻んだ
程なくして バンッという音と共に小屋の扉が勢いよく開いた
「スイちゃん!スイちゃん!大変なの!!」
扉を開けたのはハナだった
スイは立ち上がって涙を拭いハナの方を見る
「一体どうした?そんなに慌てて」
「あ!居たスイちゃん!」
ハナはスイを見て少し耳が赤くなった
「スイちゃん なんか暫く見ない内に凄く大人びたっていうか」
「って そんなこと言ってる場合じゃないんだ!あのね!凄いの!」
そう言ってハナはスイの腕を引っ張って外に出た
そこには三人の馬車一杯に金銭が入った布袋が敷き詰められている
スイはその異様な光景を見て開いた口が塞がらなかった
すると馬車の陰からカイと いつぞやの商人が歩いて来た
カイが「スイ 久し振り」と片手を上げる
そして商人がスイの目の前へきてガッシと両手を握った
「ワシのこと 覚えてるかね?」
ニッと笑う商人の声を聞いて スイはハッとした
「あの時の依頼の!」
商人は深く頷く
「あの日 ワシは店を畳んで田舎へ帰ろうと思っとった もう人の悪意に晒されながら商売を続けるのがしんどくてな」
「冒険者に愚痴を言いながら最後にデッカイ商売がしたかったなんて言ってたら 国王に会うべきだ!なんて言われるじゃないか」
スイが少し首を傾げているが 商人は続けた
「目の前に近道があるのに なぜ通らない!あの言葉には 正直痺れたぜ」
「ワシはあのあと国王に会い デカイ商売を直接取り付けた!人間死ぬ気でやればなんだって出きるんだって そう実感したよ」
「これはな そのときのお礼だ」
スイはこの商人が大きな勘違いをしていることに気付いたが
カイとハナから凄い尊敬の視線を向けられていて 否定することが出来なかった
スイの陰から一部始終見ていたレオが笑いながら言う
「あっはっはっは!凄いなこれは!」
「スイよ 言ったであろう 主はこの御仁に勇気を与え 主は金銭を得たわけだ」
スイがレオの顔を見ると レオは笑っていた
商人も カイもハナも
みんなが笑顔だった
「ありがとうございます!」
「いやいや 礼はワシがするほうじゃ」
「さて ワシはこれから忙しくなるぞい」
そう言い残し 商人は自分の馬車に乗り込み 雇った傭兵とこの場を後にした
三人は思わぬ再会を果たし それぞれに喜びを分かち合った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます