第12話 手詰まり

最初の依頼達成から 早くも一か月という月日が経とうとしていた

三人は採取だけでなく 討伐や護衛といった任務もこなすようになった

そして今は行商人の護衛中だ

前は三人の馬車にカイとハナが

後ろに行商人の馬車とスイという配置だ


といっても 護衛とは名ばかりで実情は商人の暇潰しに付き合う である


スイは商人の他愛もない雑談に相槌を打ちながら未だに解答の出ない火種を維持する方法を考えていた

しかし一向に答えが出る気がしない

ある程度の風や動きに耐えられるレベルの火の勢いをロウソク以上の時間維持するなんて そもそも無理がある

それを杖でとなると尚更だ

ただ一つ

実現させるための心当たりならある

あの女性がしていたように 二つ以上の性質を一つに纏めることが可能ならいくらでも方法はある

しかし 再度あそこを訪ねる気になれない

というか 訪ねたところで素直に協力して貰える気がしない

自分との差を嫌というほど思い知らされる

それに冒険者としてのキャリアを積むことを第一に考えるべきだ

今 足踏みすべきじゃないというのは明白


ただ

あのガラス瓶の中身に胸が高鳴ったのも事実で もっと知りたいという気持ちも強い


「んあああああ!僕はどうすべきなんだ!」

唐突に頭をかきむしり叫び声をあげたスイを見て商人は目に涙を浮かべていた

「そうかそうか ずっと難しい顔してたのはワシの為に何が出来るか考えてくれていたんだね」


商人の都合の良い勘違いに我に返ったスイはまた相槌をうっていると

なにかがプツンと切れた感じがして

その瞬間頭がスッキリクリアになるのを感じた


「違う 会うべきだ」

「なに?!わしがか?」

「なに悩んでたんだ!今すぐに会うべきじゃないか!」

「そうだな そうだ!ワシはなにを弱気になっておったんじゃ!会おう!」

「目指すのは国なんだ!目の前に近道があるのに予定どおりの安全な道を選ぶ理由なんてないだろ!」

「その通りだ!国と取引出来るチャンスを棒に振るべきじゃない!そうだな!」


スイは勢いよく商人の馬車から飛び降りるとカイとハナのもとへ駆ける

「カイ!ハナ!」

スイの声に気付いたカイは馬を止めた

「僕 行くよ!」

その言葉にカイとハナは顔を見合わせ笑顔で頷いた

「スイちゃんの最近の様子を見てて きっと悩んでるんだってこと分かってたし

カイちゃんと話してたんだ」

「スイ あの人のとこ行くべきだと思う」


スイは二人の言葉を聞いて少し驚いたけど

なにかが動き出した気がして心臓が強く鳴るのを感じる


「スイ」

カイがスイの名前を呼びながら短剣を放った

それをスイは受けとる


「ギルドのお仕事はゆる~いのを二人でのんびりこなしとくから スイちゃんはスイちゃんの思うこと精一杯頑張って!」


「うん!」


スイはそう短く返事して深く頷く

そして勢いよく走り出した

更に心臓が強く早く鼓動する

足も腕も痛い

それでも気持ちが昂る

道に捨てられた壊れた自転車を拾い 目一杯こぐ

車輪が外れて転げてもすぐに起きて走った


日が沈みかけたとき

ついにスイはその小屋にたどり着いた

勢いよく扉を開ける

「、、はぁ、、はぁ」

肺に言葉を発するだけの余力がなく 何も言えずにいると

ソファにドッカと腰を掛けた女性がタバコをふかし ニッと笑った

「ようやく決意出来たのか 遅かったではないか スイよ」

「、、はぁ、、はぁ、ふぅ」

スイは息を整え グッと目に力を込め言った

「僕を 僕を助手にして下さい!」

女性はゆっくり立ち上がり煙を吐く

「良い心がけじゃ 弟子などと言ったら追い返しとるとこよ」

「よかろう助手よ 入れ」

スイは静かに扉を閉めた

女性はスイの前に立ち両手を腰に当て胸を張った

「一度しか名乗らぬ しかと聞け!」

「わしの名はレオーネ ファウスト!この広い世界に一人 唯一無二の錬金術師じゃ!」

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