第9話 武器と決意

翌日の昼

三人は依頼者のもとへ向かい馬車を進めていた

「出来た!記念すべきカイの剣第一号!」

馬車に揺れながら削り出されたその剣は 刃渡り10cm程度の両刃の剣

鍔には細かな装飾が施され柄は手に馴染むよう絶妙に曲がっている

刀身も美しく輝いて見える

「うっわぁ~ 本当スイちゃんって器用だよねぇ 器用というか超集中?ホント凄い」

なにやら騒いでるのが聞こえたのか カイは馬を制し荷台を覗き込んだ

「出来たのか」

「ああっ ほら!」

カイの剣をカイの手元に放り投げる

カイはそれを上手に受け取り マジマジと眺めた

「凄い カッコいい」

「でも本領はここからだ!ハナ お願いできるか?」

「もちろん!やってみるね!」

ハナはヒョイと荷台から外へ出て カイから剣を受け取る

両手でしっかりと柄を握り 目を閉じふぅっと息を吐いた

「んっ!」

という驚きの唸りと共にパチパチッと静電気が走るような音と光が発生する

徐々にそれが落ち着いてゆくと 刀身がまるで打ち立ての金属のように赤く輝き 煙のようなものが立ち上っていた

「す 凄いな 想像以上だ」

スイが目を丸くして驚いていると

ハナはその場に膝から崩れた

剣は床に転がり地面に横たわっている

「ハナ!!」

スイが叫び終わる前にカイが慌ててハナを抱き抱えた

ハナはカイの腕の中で力なく笑って手の甲を額に置いた

「あはは これ結構 しんどいかも」

今までと違って許容量の多い容器に有限である魔力を注いだのだから そうなるのは必然だ

「ハナ ごめん こうなることは十分理解できていたはずなのに ごめん」

カイの手でゆっくりと荷台に寝かせられたハナの手を握りながらスイは何度も謝った

「あはは なんで謝るのさ」

ハナはスイに笑顔を向ける

「魔力なんて寝て起きれば回復するんだよ 少し疲れただけだよ 大袈裟だな」

「でも こんなに辛そうになるとは思ってなくて」

「大丈夫 何度だってやるよ 辛くなんてない でも ちょっと寝るね」

そういうとスゥスゥと寝息をたててハナは眠った

握ったハナの手をそっと床に置くと

外でカイが「うぉっ」っと唸った

カイの方へ視線を向けるとその手には先ほどハナが魔力を込めた短剣が握られていた

「スイ これはちょっと 振るうのが怖い」

空に向けて突き立てられた刀身を眺めてカイは言う

その刀身はさっきまでの赤い輝きは失われているものの 生物の命を簡単に屠れるピンと張りつめた空気を感じさせる

「握っただけで凄いのが分かる」

カイの顔はいつになく強張っている

「うん 僕も武器のことはあまり詳しくはないけど ステータスとして見るとその辺の店に売っている一級品と変わらない

戦い 命のやり取りをするための武器だ」

しばらくその刀身を眺め スイは顔を伏せた

「僕が作った武器が 人の命を奪うかもしれないのか」

そう呟くスイの声は震えていた

スイはその場に座り込むとスゥッと息を吸った

「僕たちは まだ冒険者としての覚悟が足りなかったのかもしれない

当然 獣やモンスター以外 時には害意を持つ人間を殺すこともあるんだ」

「殺せるけど殺さない というのと

殺されるから殺せない では状況が全く違う」

腕を組み 自らを納得させるようスイは続けた

「それに 殺すためではなく守るためにも強さは必要だ」

「強さを持ち その扱いに慣れるのは早ければ早いほどいいに決まってる」

スイがカイの方を向くとカイは深く頷いた

「うん よし!武器の生産を続けよう!

次はハナの杖か 火種を維持する方法をまずは考えないといけないな」

そう呟くと スイは木箱から本を漁り始めた

カイは腰にその短剣を下げ 馬を走らせた

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