第6話 初めての冒険

三人は目的地へ向かっている最中 何度かスライムや野犬といった低級なモンスターと遭遇した

しかしその都度ハナの低級魔法で駆除してきた

道端の少し大きめの石ころをぶつけるだけで大抵のモンスターが倒せる事を知った一行は特に警戒することもなく気楽な旅を満喫していた


「しかし やっぱこういう平和な道には有用な素材はないものだね」

スイが頬杖をつきながらため息を漏らす

「まぁねぇ みんなもこういう安全な場所で採取するだろうし仕方ないよね」

ハナはそれでもニコニコ楽しそうだ

「でも 骨と毛皮と肉は少し手に入った」

カイも食料を確保できて上機嫌だ

「でもなぁ 少しは僕のサーチでしか気付けないような有用な物が見つかると思ってんだけどなぁ」

「これも先人たちが築き上げた知識と目利きのたまものかぁ ハァ」


一行が目的地付近に着いたとき すでに日が沈みかけていた

「日が暮れてからの採取は効率悪いし 今日はこの辺で野営しようか」

スイは比較的平坦な草むらを指差した

「あそこにしよう」

短刀と手斧で草を刈り 大きな布を広げた

刈った草を馬の足下に敷いてやると 馬も脚を折り休んでいた

獣避けの焚き火をたき 今日倒した野犬の肉を鍋で煮込んだ

家畜の肉とは違って硬く臭みもあるが 不味くはない

むしろ冒険しているという実感が湧き 食べることが楽しかった

夜の見張りは 暗がりでもサーチで敵の位置を把握できるスイが担当することが決まっている

とはいえ昼間も素材の探索で集中しなければならないため スイは夜全員が寝れるよう思案を巡らせていた


「ねぇ スイちゃん」

「、、ん?」

「ついにわたしたち 冒険に出たんだね」

「、、そうだね」

スイはふと夜空を見上げた

満点の星空 冷えた空気 焚き火のはぜる音とオレンジに揺れる灯り

カイは食べた後すぐに眠ってしまったようだが ハナは寝付けないようだ

「ねぇねぇスイちゃん」

「、、ん?」

ハナは焚き火を眺めながら 幸せそうに目を細めた

「わたし 今すっごく幸せだよ」

「なんだよ急に」

唐突なハナの言葉にフフッと笑いながらスイはハナの顔を見た

横になったハナもスイの顔を見上げる

「わたしね こうして誰かに見守られながら寝れる日が訪れるなんて想像もしてなかったんだ」

「、、、うん」

「スイちゃんが救いだしてくれたあの日からね ずっとこんな日を夢見てたんだ」

「、、、」

「いつか きっと って」

ハナの声は少し震えていた

「スイちゃん ありがとうね」

「、、、ん」

「おやすみなさい」

「おやすみ」

暫くの静寂の後 ハナの寝息が聞こえてきた

「さて っと」

スイは立ち上がると 馬車の木箱の中から一冊の本を取り出し焚き火の前で読み始めた


寝返りをうったハナの手がスイの服の裾をぎゅっと握りしめた

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