第3話 登録と受注
朝 日が上り鳥が鳴く
小さくも輪郭のハッキリしている雲を眺めながらハナはグッと背筋を伸ばした
「あぁっはぁー いい朝だなぁ」
水瓶に貯めた水で顔を洗い 短く切った前髪をピンで留めると視界の端で蝋燭の火が揺れるのを見た気がした
「ん?」
その火の方を見ると 確かに朝陽の射し込む窓際に蝋燭の火が揺れているのが見えた
スイの部屋だ
ハナが窓から部屋の中を覗いてみると スイがずっと本に集中していた
「スイちゃんおはよー!」
ハナの元気な挨拶にピクッと眉を動かし
「あぁ おはよう」
と視線を本に向けたままハナに応えた
ハナは蝋燭の火をふぅっと吹き消す
「もう朝だよー!もしかして一晩中その本読んでたの?」
スイは眩しそうに窓の方へ視線を移し 本をパタンと閉じた
「あぁ 少し考え事があって」
スイもハナ同様グッと背筋を伸ばした
「スイちゃんは本当、本の虫だよね」
スイは閉じた本を小さなテーブルに置き 窓際のハナに近づいた
「人を虫呼ばわりするでない」
ハナの両頬をムギュっと押すと口をタコみたくさせながら「ふへへ」と笑った
「今日は冒険者ギルドでカイちゃんと待ち合わせだよね!遅れないように支度して出てきてね!」
ハナは満面の笑みで向かいの小屋へ走っていった
スイは小さく笑いながら窓を閉めて支度を始めた
外へ出るとすでに支度を終えたハナが待っていた
「よーし!行くよ!」
「ハナは朝から元気だなぁ」
欠伸をしながらハナの後をついて行くスイにハナは後ろ向きに歩きながら話した
「わたしは朝が一番好きなんだ!
だから夜は早く寝ちゃって少しでも長く朝を過ごせるように早起きするの!」
前に向き直りボソッとハナは言う
「スイちゃんみたく寝不足で朝を台無しにしちゃうなんて考えられないよ」
「ハナさん悪口聞こえてるよー」
「聞こえるように言ったんだよー」
ハナは顔だけスイの方へ向けてイタズラっぽく笑った
そうこうしてる間に冒険者ギルドに到着した
「まぁ 分かってはいたけどカイはまだ来てないか」
「あはは カイちゃんはノンビリさんだからね!」
「それじゃ 少しそこのベンチで休もっか」
二人は冒険者ギルドの入り口が見える位置にあったベンチに並んで腰かけた
「ねぇねぇ スイちゃんは一晩中何の本を読んでたの?」
「ん?あぁ 鉱物図鑑と金属の精錬書と兵器大全とSF漫画と」
指折り数えていたスイの話を遮るようにハナは手をバタつかせた
「あああ!もういい もう大丈夫だよ!」
「取り敢えず一杯読んでたんだね!」
「うん 十冊くらい かな?」
「うひゃー わたしなんて年間一冊読んでるかな?」
ハナは思い切り天を仰いだ
スイは唐突にスンスンと鼻を動かした
「ん?あれ なんかお花の匂いする」
ハナは跳び跳ねるようにして体を硬直させた
「えぇえ?!なんだろ わかんないな」
「ハナから花の匂いする」
スンスン
「ああぁ あ!そう!最近お洗濯するとき花びら浮かべてるんだ!それかな?
、、、臭くない?」
「うん なんか落ち着く匂い ラベンダーかな?」
「そっか 良かったー」
ハナが安堵の表情を浮かべているとき スイは難しい顔をしながら
「植物か 面白いかもな」
と呟いた
「あ!カイちゃん来たよ!」
ハナが指差した方に頭がボサボサの大男が居た
「やっと来たか」
二人はカイと合流してギルド内へと歩みを進めた
扉を開けるとカランコロンという軽快な鐘の音がなり
「いらっしゃーい!」
と元気な女性の声が響いた
カウンターからこちらを伺う受け付けの女性は笑顔で続けた
「見ない顔ですね、未登録者様です?こちらへどうぞ!」
女性に促されるまま指し示す方へ向かう
そこには指輪の入った箱と筆記用具が置いてあった
「それでは 登録手続きの前に簡単な説明をさせていただきます」
「まずしていただくのは この指輪を着けていただくこと
この指輪は三色あって自分が何者なのかというのを色で示していただく形になります」
「まずはこの赤色 これは肉体を使った戦闘が得意ですって方に着けていただきます」
「次に青色 これは戦闘に限らず魔法の扱いに長けた方に着けていただきます」
「最後に黄色 これは先に挙げたいずれにも当てはまらない方
例えば職人さんや学者さんですね」
「この指輪の色を見て こちらで適正な依頼を提示させていただきます」
「ちなみに この指輪はどちらの手のどの指に嵌めてもらっても構いません
ただし 指に嵌める以外の方法で持ち運ぶのはダメです 首に下げたりですね」
「なぜかというと この指輪は装着者の行動を指の動きで把握して 更に色分けを行うからです」
「例えば赤色の指輪をした方が弓を好んで使っていたなら それを把握して赤と白の二色の指輪になります」
「依頼は多種多様多岐にわたるので出来る限り冒険者様の特徴を細分化して把握する必要があるのです ご協力お願いいたします」
「さて それではさっそく指輪を着けていただきましょう 他の事は順を追って説明いたしますね」
三人はテキパキと早口で説明をする女性に圧倒されながらそれぞれに指輪を着用した
スイは左人差し指に黄色
ハナは右手小指に青色
カイは左手中指に赤色
驚くほど指に馴染むその指輪は 金属ではないようだ
スイがサーチで指輪を見ると どうやらトレースウッドという魔力を帯びた木材らしい
「さて 皆様着用されましたね」
「ではお次は規約ですね
この規約は原則依頼遂行中のみ適用されるものと思って下さい
基本冒険者様自身の行動に制約は課しません」
「一つ 依頼遂行中の冒険者に対する妨害行為を禁ずる
二つ 依頼放棄 または完遂不可能な状況に陥った場合は その旨ギルドに報告すること
三つ 依頼者の無用な詮索行為全般 脅迫やクレームの一切を禁ずる
四つ 依頼内容に大きな不備が確認できた場合 冒険者の生命を脅かす事態に陥った場合 ギルドへの報告前にそれを破棄する権利を認める
以上」
「何か質問はある?」
「ないですね!では同意書にサインお願いします」
三人はそれぞれにサインした
「はい では最後にギルドから冒険者様にライセンスを発行するのですが、個人で登録なさいますか?チームとして登録なさいますか?」
三人は顔を見合せ、頷く
「チームで」
「はい かしこまりました
ではチーム名または代表者の名前の記入お願いします」
三人は再度顔を見合せるが 先ほどとは打って変わって微妙な顔を合わせている
「えーっとスイちゃん任せた」
「スイの案で文句ない」
「、、、」
スイは腕を組んで暫く唸ったのち 少し照れながら記入を始めた
「えーっと じゃぁチーム名はユートピアで」
「あーっ残念 ユートピアはすでに登録されております」
「えっえーっと んーーーハナ頼んだ」
「ええええ?!えっとじゃぁカモミール とか?」
「カモミールもすでに登録済みです」
「カイちゃん!お願い!」
「、、、魂食の夜明け団」
「あー それは版権に掛かりますね」
「スイ 頼む」
「あーっと じゃあ僕の名前でお願いします」
「代表者の名前で登録 でよろしかったですか?」
「はい」
「では スイ エルメンス で登録させていただきます」
「では こちらがライセンスになります
冒険者ランクはD新人なので青枠となっております」
「それでは 今後ともよろしくお願いします」
スイは女性からライセンスを受け取った
金属で出来たライセンスは見た目に反して結構な重みを感じる
「さて 続けて依頼の受注もなさいますか?」
「はい お願いします」
「かしこまりました
では 新人Dランクで受注可能なのは」
「こちらなどいかがでしょうか 薬草の採取と納品 種類や質は問わず期日も設けられていません 取り敢えずこの木箱に一杯摘んでくれとのことです
報酬は銀銭3枚と出来高で上乗せ と承っています いかがですか?」
「はい それでお願いします」
「かしこまりました 手続きさせていただきます少々御待ちください」
女性は慣れた手付きで依頼書を丸めると赤い紐を括りつけた
「はい どうぞ」
女性は依頼書と木箱をスイに手渡した
20cm四方くらいの蓋のない継ぎ接ぎ木箱
「薬草の採取が終わったら依頼書に書かれている住所まで納品しに行って下さい
そこで依頼完了のサインを依頼書にしていただき 報酬を受け取るという流れになります」
「その後 出来るだけ早くギルドにお越しいただき依頼完了の旨お伝え下さい その際サインをいただいた依頼書を忘れずお持ち下さいね」
「何か質問はありますか?」
「えっと 報酬は全額僕らで貰っても良いのでしょうか」
「モチロンです!当ギルドにはすでに依頼者から依頼料を頂いておりますので問題ありません 他には何か?」
「ありませんね!では!冒険者様の初陣に幸多き事お祈りいたします!行ってらっしゃいませ!」
女性は深々とお辞儀をし三人を送り出した
女性の勢いに終始圧倒されていた三人もギルドを出る頃には冒険者としての初陣に胸が高鳴り 自然と顔がにやけていた
「スイちゃん わたしたちついに冒険者だね!三人で子供の頃から何度も何度も話した夢に ようやく一歩近づいたんだ!」
「ああ!これからだ!僕たちは必ず夢にたどり着く!」
、、ぐぅぅ~っ
やる気を滾らせた二人に反して カイのお腹が悲しい悲鳴をあげている
「取り敢えず メシ 食いに行こう」
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