第2話 能力の把握と目標

三人は酒場の隅のテーブルに腰をかけた

「マスター」

スイがカウンターへ向かって声をかけると

「あいよ」

と 少し太った店主がテーブルに向かってきた

「今日もオムレツを三人でつつくのかい?」

店主は笑顔で注文を伺う

「マスター 今日僕たちは成人したんだ」

スイがそう言うと

「なにぃ?!もう成人?!

ついこの間までチンチンに毛も生えてない卵やきだったじゃねえか!」

店主は大袈裟に驚いてみせて話を続けた

「そうかお前らが成人か

もう何年通ってるんだ?銅銭一枚のオムレツだけ三人でつついてぇ え?」

「そうか成人かぁ」

三人は店主のそのリアクションを見て 少し誇らしげに笑った

「それでマスター 今日はお酒を飲みに来たんだ」

スイが上着のポケットから金銭を出して店主に見せると それを見て店主は首を横に振った

「えっ お酒ってこれでも足りないですか?」

スイが少し困った顔をすると 店主は

「バカ言うな!」

とテーブルを叩いた

「んなもん 今日は俺の奢りだ!好きなだけ飲んで食え!」

そういうと店主は後ろを振り返り

「おーい!かあちゃん!とびっきり旨い酒とオムレツ頼むわ!」

と厨房に声をかけた

三人は戸惑いと嬉しさで顔を見合わせていると店主が満面の笑みで言った

「お前らは俺の息子みたいなもんだ メシを食ってデカくなってくのをずっと見てたんだからよ」

「ありがとうございます」

「おうよ」

店主は上機嫌でカウンターへ戻って行った

「マスターさん、なんか嬉しそうだった」

ハナがスイにそういうとスイも頷いた

カイはさっきからフォーク片手に落ち着かない様子だ


「はい!エール三つね!」

店主の奥さんが笑顔で木のジョッキをテーブルに置いた

「お酒は初めてでしょ?周りの人みたいに一気に飲んじゃだめよ!合わない体質とかあるからね」

そう優しく注意し、その場を後にしようとした奥さんをカイが呼び止めた

「オムレツ!まだですか?」

すると奥さんの影から店主が大きなオムレツを持ってカイの前に置いた

「おまちどうさん!」

店主が皿から手を離した瞬間オムレツにカイのフォークが突き刺さった

「ストーップ!!」

店主がカイに向かって叫んだ

三人が急な怒号に驚きを隠せずにいると、店主が語った

「酒を飲むなら流儀を守らにゃならん

料理に手を付ける前にジョッキを掲げて乾杯!これは絶対だ!」

三人は少し照れ臭そうに各々ジョッキを掲げた

「乾杯!」

奥さんの忠告通り ゆっくりと一口飲み込んだ

「ごゆっくり!」

店主は嬉しそうにその場を離れた

「うえぇー 美味しくない!」

ハナが舌を出しながら顔をしかめる

「僕は わりと好きかも」

スイは続けて二口 三口と進めていく

カイは感想も言わずオムレツにがっついていた

「あはは カイはいつにもましてがっつくなー」

スイがそう言うとカイはオムレツを急いで飲み込んで話した

「これは マスターの言うことに凄く納得出来た 流儀の意味」

スイがカイの言うことに首をかしげて見せると オムレツを食べてみてくれとジェスチャーした

スイがオムレツを口に含むと エールの余韻とオムレツの風味が合わさってなんとも形容しがたい味になった

カイが

「マスター!」

と声をあげると その様子を横目で見ていたマスターが

「ここは酒場だぜ?ハハッ」

と得意気に笑ってみせた

ハナは早々にお水に切り替えてオムレツを頬張っていた


三人は食事を済ませると誰が切り出すでもなく今日貰った本をテーブルに置いた

各々が自分の本を開く

そしてそれぞれに内容を確認し合う


スイ 発現能力 サーチ

物のステータスを視認出来る能力


カイ 発現能力 魂食(こんじき)

食べることで魔力とは違う力 物の魂を溜め込む事が出来る能力


スイ 発現能力 魂包(こんぽう)

物や生物に自らの魔力を移せる能力


「カイちゃんの魂食(こんじき)って能力はすっごい納得だね」

ハナがカイに向かって笑いかける

「スイちゃんのサーチっていうのも合ってる気がするね」

スイの顔を覗き込む

「でもわたしの魂包(こんぽう)って、イマイチ難しいなぁ」

ハナが腕を組んで難しい顔をする

「うん ハナの能力は使い方は難しいけど でもかなり強いと思う」

「つまり」

スイはテーブルに置いてある紙ナプキンを手にとってハナに向けた

「ちょっと魂包してみて?」

「あ、うんちょっと待ってね」

ハナはスイの持つ紙ナプキンに手を添えて魔力を流した

「普通は術者の手から離れると物との接続が切れて魔力は霧散するけど」

ハナは魂包を済ませ手を離す

「うん やっぱり」

「どういうこと?」

ハナが首を傾げるとスイは紙ナプキンをテーブルに突き立てた

「えっ?」

ハナが驚いて目を見開くとスイは説明を始めた

「僕のサーチで紙ナプキンのステータスを見てたけど、ハナが魂包する前と後では物の強度や質にかなり差が出た」

「それに、紙ナプキン程度では容量限度が低すぎるけど純水などの媒体に魔力を詰めとけば緊急時の魔力補充に使えるんじゃないかな」

「ほぇ~」

ハナは自分の能力より それを一瞬で理解出来るスイに感心していた

「じゃあさじゃあさ カイちゃんのは?」

「カイの能力は、カイ次第かな?」

「どういうこと?」

「そもそも魔法っていうのは出来る事に制限がある 例えば肉体は治せても魂は治せない 風を強くは出来るが起こせない そこにあるものに干渉することしかできない」

「ふんふん」

「しかし魔力とは別の力というくらいだからそれには当てはまらない さらに制限が強いのかもっと自由なのか」

「そもそもどちらにしても術者の適正次第で出来ることが限られるだろうし」

「カイはどう使うかイメージはある?」

「俺は頭を使うのは苦手だから 食べて強くなれたらいい」

「身体能力の強化か 使ってる内に精度も上がればシンプルに強い能力になるね」

「スイちゃんのサーチは凄くシンプルで便利そうだよね」

ハナの言葉を肯定も否定もせず少し考えた後に答えた

「このサーチは、正直戦闘に使えるか分からない ただ」

「ただ?」

「ハナの魂包と相性は凄く良いと思う」

この発言を聞いてハナは顔を真っ赤にしてニヤニヤしている

「ま まあ わたしとスイちゃんは兄妹みたいなものだし?当然だよね!」

「取り敢えず 二人ともこれからの事は分かってるよね」

スイはハナとカイの顔を順に見る

二人は深く頷いた

「明日冒険者ギルドに登録して名を上げる」


「僕たちの理想の国作りの第一歩だ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る