第2話農民と救い



「何処からきなすった」

日焼けで黒い肌の男が俺に言った。



「あー…お邪魔でしたか?

何かの撮影でもされてますか?」

俺はこう返す位しか思いつかない。


目の前の男はほつれた衣服を着込んで、頭はざんばらで肩には木で出来た何かを担いでいた。

それを見たら何かの撮影が近くでやってると思うだろう。

男は言った。


「何要領をえん事言うのぉ。旅の人け?」

男は目を少し細めて俺の顔を見ている。


「おまけに見たことない着物着て、背負物しとったら…」


「え、何ですか?」

俺は良く分からずに言う。


「そんな着物仕立てて派手者やのぉ。

あれか。バサラ者かい」


バサラ?…何かそんなゲームがあった記憶はあるが、何なんだろう…


「お前さんは武芸者かい?」


武芸者?…


「足軽郎党かい?」


ん?足軽?郎党?


(もしかしてドッキリかな)

俺は良く分からず、テレビの企画だとピンと来た。きっと難しい言葉で困るのを遠くから撮影しているのだろう。


(一般人騙して楽しいのかよ…)

個人的にバラエティのそんなノリが嫌いな俺は内心面白くなかった。

そう思ってる間も男は何か無遠慮な目を向けてくる。


「あの、俺はバラエティ嫌いなんで、さっさと駅を教えて下さい」

怒りを抑えて言った。すると。


「この辺に駅なんちゃ無いわ」

男は言った。


「何も知らん振りしとるな。駅なんて偉い武士が馬を繋いどくもんや。お前さんそんなに偉いがかい」


「え、馬?」


「なんや、馬鹿らしい。物知らずのものめくらかい。オラより本当に知らんなら…ばかや」

男は自分より俺を下に見た様で何か遠慮みたいなものが無くなってきた。


「お前さん、流石に文無しじゃないやろ。偉い人に会わしたるから何か渡せや」

そう言って肩に担いでいた棒の様な物を片手にだらりと下げ持ちながらもう片手を俺の前に出した。


(タチ悪いなぁ…)

付き合ってみたのが馬鹿だった。これじゃカツアゲじゃないか。なんてテレビだ。

テレビじゃないならイカれた男だ。


「あなたとは話にならないんで失礼します」

そう言って男の脇を足早に過ぎようとした。


「待てやイカレ者」

男は棒でいきなり俺を殴りつけた。

いきなりの暴力で俺は倒れ込み、道のあぜに倒れる。


「どうせ余所者じゃ。話聞かんならこうじゃ」

男は更に数発棒で殴った。背中のザックを避けながら殴るので頭に危ないのを喰らい昏倒しそうになる。

更に男は大声で。


「おーい!村んもん!余所者居るぞ!とっ捕まえるの手伝えやー!」

そう四方に呼び掛けると、程なく男女数人が駆け寄ってきてザックを引き剥がし、俺を担いで歩き出した。

くらくらする頭の中で、

(あー、昨日死ぬんだった…)

後悔していた。





村里に入った様で無様に担がれる俺を無邪気な子供達が。


「イカレ者やイカレ者や」

そう囃し立てる。


「おうおう、何処の国のもんかのぉ」

俺を担いでいる大柄な男が子供をいなしながら言う。


「まあ旅しとるのは本当やろうから何かしら良いもんもっとるかもなぁ」

俺を殴った男が言うと、子供達はもの凄くはしゃいではやす。


「おー寺、お寺、イカレが通る。和尚ま和尚ま、会わしゃるかー、会わしゃるかー」

何かの祝いの様にはやして騒ぐ。


「おう。勝手したら和尚まが灸(やいと)据えるやろうからもう帰り」

俺のザックを背負った女が子供達を帰した。



それからまだ歩き、そうれと大柄な男は俺を地面に放おった。


「和尚ま!、いらっしゃるかい!」

殴った男が大声で問う。


少しすると。


「はいはい、居りますよ」

そう言って誰かが来た。


「いらしましたか。おら達不審なもんおったら知らせなと思うて、寺まで担いで来ました」

男は少し言葉を正して言った。


「そうですか。ご苦労な事です。その倒れた男がですか」


「ですじゃ」


「では私が詮議致しましょう。勿論、その人からは何も奪ってはないですね?」


「は、勿論ですじゃ。お寺さん居らなんだら村里なんて足軽に乱暴されますから、全部お寺さんに納めます」

男は恐々とした様子で言う。


殴られた頭も少し働いてきた。

この話してる男に全部渡さないといけなかったから男はその前に俺から何かせびろうとしたのだろう。断ったので怒って滅多打ちにした。


(ここは日本なのか…?)

俺は少し考えた。オカルト話に、「この先日本国憲法通用せず」と看板をしたはぐれ村があって、村人は入り込んだ余所者を惨殺すると言う話だ…



「宜しい。承知したので、皆さんはもうお帰りなさい」

和尚ま、と呼ばれた男はそう言って解散させた。

男達は畏まり、なんまんだぶと念仏を唱えてから解散した。


「うん。頭を打たれたね。まだ話せないだろう」

和尚まは俺を覗き込み独り言を言う。


「門前の門徒達、庫裏に縛って入れて下さい」

和尚まはそう言うと、小高くなっていたのか、下から足音が数名分聞こえてきて、俺を後ろ手に縛り、また俺を担いだ。そして板葺きの部屋に入れた。


「ご苦労です。もう山門に戻って下さい」

和尚まが言うと、男達は無言で部屋からおり、また遠ざかって行った。

男達は俺のザックも運んだ様で同じ部屋に置いて有るのが、薄目を開けて確認出来た。


和尚まと呼ばれた男は僧侶の様で、何かしら念仏を唱えてから部屋を出て、戸を閉めて離れていった。



頭が痛む…それで意識が保たれているが、反対に意識が飛ぶ瞬間もあり、動けずにそのまま放置された。



一体此処は何処なのだろう。

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