21話 いちばんぼし
───気がつくと朱を深くした教室の片隅で大粒の涙を流しながら僕は立ち竦んでいた。
「ぁ…?なんっ……だ…コ、レ……だっせぇ…なんで…なん…で」
「おい灯夜、無理すんな、一旦座れ。とりまちぃ、水買ってきて」
「う、うん!わかった!」
脱兎のごとく駆け出した千恵の足音は普段より速く、巡回中の先生が「廊下は走るな!」と怒鳴るが
「今それどころじゃないんです!お説教は後でたっぷり聞きますから!」
と小さな身体を全速力で動かしていた。
「あの…私、聞いちゃいけないこと聞いちゃったよね…」
決まりの悪そうな碧が誠二に耳打ちしていた
「あー…まぁ、今回は灯夜の自爆もあるし…堀田は悪くないんじゃないかな…だろ?」
「…ん…堀、田さんは…悪くないよ。僕が弱いから…だから、あの時も…」
「灯夜!自分を責めるな、お前は弱くなんかねぇんだよ…お前は……」
「きっと、誰よりも…優しいんだよ」
息を切らしながらコンビニの袋を持って帰ってきた千恵が誠二の言葉を紡ぐ
「そうだよ!ちぃの言う通りだ!俺を誰だと思っていやがる?俺はお前を幼稚園児の頃からこれでもかと見てきているんだぞ!」
彼女の到来でいつもの調子を取り戻した誠二は太陽のように笑う
「そう…だね、なんだかんだ言って感謝してるよ」
「あ!真白くんがせーじにデレた!」
「やめて!灯夜さん!私には心に決めた彼女が…」
「気持ちわるいからやめろ」
「ウイッス」
ジェットコースターのように動きまくる感情は僕の想いを連れて足元のタイルに吸い込まれたまま消えていった
「あの、さ…さっき言った通り明日クッキー焼いてくるね?」
「ほんと、気にしなくて良いのに…でも、ありがとう」
「灯夜のクッキー久々に食べたいな」
ボソッと誠二が言葉を漏らしたことに碧が少し固まる
「ゑ、灯夜くんて女子力高いのッッッ…?」
「ワンチャン私より高い節あるよ」
「そマ?」
「……マ」
「終わっ………た」
いつの間にか朱の空は藍に染まり始め、宵の明星が我1番と夜の到来を告げていた
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