19話 はるのひ、そのむかし
「もういっその事うちにお嫁に来ちゃってもいいのに」
母が軽率に開いた口は場の熱気を最大限に引き上げた
「ッッッ?! ナナナナニヲ オッシャルンデスカッ!」
顔を始め、耳や首までもが赤くなった奏音が上擦った声で反応する
「そもそも!私なんか可愛くもなんともないし!」
「そんなこと無いわよ〜!ねぇ、お姉ちゃん」
「そうだよ〜かのんちゃんは可愛いんだぞ〜ねぇ!灯夜!」
「……」
急なフリで思考が完全に止まってしまった僕から咄嗟に出た言葉はひとつだった。
「……奏音が可愛いのは僕が1番知ってるんだよ!」
「…………グズッ」
「わわわわわ!灯夜がかのんちゃん泣かせた!」
「ごめん、奏音…僕…奏音の気も知らないで」
うずくまってしまった奏音にゆっくりと近ずいて様子を伺う
「ちが…違うの……私ね、う、嬉しくて……私こそごめんねともくん…グズッ」
涙を溢れさせ、潤んだ瞳を僕に向けてくる少女の姿は弱々しく壊れそうなものではなく、幸せに満ちた《泣き笑い》を浮かべていた。
「転校してきたばっかりの頃のこと、ともくん覚えてる?」
「あれは忘れられないなぁ……」
転校してきた少女には「珍しいもの見たさ」で人だかりが出来ていた。
「好きなたべものなに?」「どんな曲きくの?」「友達になってよ!」
様々な質問が押し寄せる中、不穏な空気も流れていた。
「何あいつ……転校してきたからって人気者気取り?」
「ちょっとばかし見た目が良いだけのお人形さんじゃない」
「アタシ、あいつのこと嫌いだわ」
「…お前らさ、言いたいことあんなら本人にハッキリ言いなよ。あ、そっかクラスの人気者様は席を取られて動けないんだ 可哀想にね」
「灯夜!やめとけって!お前なんで怒ると笑うんだよ普通にこぇぇよ!」
「本人に聞こえる程度の大きさの声で陰口言うよりはマシだろ」
自分の事を言われるのはなんとも思わないが、他人が努力もしないのに他人を見下して評価するのは許せなかった
「天崎…さんだっけ?聞こえてたんでしょ?」
「う…うん、ちょっとだけ……でも、私全然気にしてないから!大丈夫だよ……!」
クラスの視線が人気者様に集まる
「灯夜…この辺にしとこうぜ…俺大きな問題にしたくねーよ…」
「誠二は黙ってて、既に大きな問題だから。」
「ふ、ふん!なによ!アンタもあの女の事好きなんじゃない?」
「ま、少なくともお前よりはな」
「俺!先生呼んでくる!」
この出来事を境に奏音は陰湿なイジメを受けるようになったが、その都度奏音をイジメたやつを精神的に追い込んで撃退した。
そうして行くうちに奏音をイジメるやつは居なくなり、次第に奏音との距離も縮まったいった。
「ありがとね…」
猫なで声で呟かれた言葉に僕は聞こえていないふりをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます