17話 はるのひ、そのあさ

「いつまでも寝てると牛になっちゃうよ。おばさんも怒ってたよ!」

そう言って僕を叩き起した少女は「ぷんすか」と可愛らしい擬音のつくような怒り方をしながらも琥珀のような瞳を細め、笑っていた。


遠いあの日の記憶


視界がまだ定まっていない僕にはまるで天使のように見えたのは内緒の話である。

「……はょ…かのん…」

声にもならない声で少女の名を呼び、それを聞いた少女が栗色の髪をなびかせて振り向き応える。


彼女との最後の、最後になるはずだった記憶


「おはよ!ともくん!」

屈託のない笑顔、白磁の肌を春の陽だまりに照らされた少女に手を引かれる。

「今日はお花見日和だね!」


忌み嫌う春の日の記憶


「お花見…そっか今日か!」

「ともくん寝ぼけてるの〜?かわいいなぁ〜」

寝癖をツンツンとつつきながら奏音が笑う

「あの、ちょ…やめ……」

ツンツンがワシャワシャに変わり寝起きの頭がシェイクされて気分が悪くなる。

「あわわ、ごめんねともくんが可愛くてつい…」

「かのn……」

奏音の方が可愛い と言いかけて口を閉じる

こんなこと言ったら絶対ワシャワシャが悪化する

「どしたの?ともくん」

勝手に追い詰められてしまい苦肉の策で出た回答が

「着替えるからちょっと部屋出て」

嘘ではないため罪悪感もない。

「私は構わないのに〜」など危険発言を残して部屋を出ていく姿をドアが完全に隠すと

「……っぶねぇ…」

ただ奏音がからかってきただけでこんなに心臓が跳ね上がるなんて僕はどうかしてしまったのか!?


そんなことを考えながら普段は着ないお出かけ用の服をクローゼットから引っ張り出して袖を通す


「少しキツくなったな」

自分の身体が大きくなったことを密かに喜んでいると

「ともちゃ〜朝ごはんでよ〜」

と、上機嫌の小豆がノックもなしに入ってきた。

「姉チャっ!待っ!」

「わわわわ!ごめん!着替えてるなら言ってよ!」

「ノックくらいしてよ!」

ギリギリでズボンを履き替えた直後だったため、なんとか一命は取り留めた。


「ふふ、何やら2階が騒がしいわね」

「むぅ…私も混ざりたい……」

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