9話 ふたりきり

「んで、ともくんや。好きなコは居るのかな?」

再び投げられた問いかけにどう答えようか思考を巡らせながら出た回答は

《とにかく逃げる!》

「僕に追いつけたら教えてやるよ!」

と、僕は勢いよく走り出した。

幸い車の通りもなく人目も気にすることが無いので全力で走れた。

途中で靴ひもが解けるまでは。

「うぉっ…とっ……ヤバっ…」

脱げかけた靴が僕の足を止めるが身体は前へと進むことをやめない。

詰まるところ転んだ。

「わぁぁ!大丈夫?怪我してない?」

「ん〜…だいぶ痛い…」

「買うもの、増えちゃったね」

「そうだなぁ……」


おつかいメモに絆創膏が追加された。


やっとの思いでコンビニに入ると

「…っしゃっせー…」

と夜勤のバイトのお兄さんがやる気のない出迎えをしてくれた。

早速おつかいメモに目を通す

・牛乳(安ければ)

・お姉ちゃんのおやつ

・飲み物(灯夜に任せます)

・黒ボールペン

・お釣りでなにか灯夜の好きなもの

※絆創膏

となっていた。

なかなか荷物が重くなりそうなメンバーだった。

「とりあえず買うか……」

店内を物色していると、奏音が何かを訴えている。

「私って他の人には見えてないみたい。」

「まぁ、見えてたら大事だもんな…」

他のお客さんやレジのお兄さんに聞こえない程度の小声で会話を続けた。

「ちょっとお腹減ったかも」

「……じゃあ好きなのあったら買うよ」

「やった!」

無邪気に笑う横顔を見ていると胸の辺りが暖かくなる。

「甘いもの…甘いもの……ん、新商品?」

[New]のシールの付いた期間限定のプリンを手に取り、そのままカゴに入れた。

おつかいメモの内容物を諸々カゴに入れた時に袖を引っ張られる感覚があった。

「あれ、食べたい」

目をキラキラと輝かせながらそれなりにお値段の張るパフェを指さしていた。

「いいけど半分ちょうだい」

「ん!わかった!」

子供のようにはしゃぐ奏音が他の人には見えていないというのがとても不思議な感覚だった。

「…っしゃっせー」

「これ、お願いします。あと桜のパフェ?もお願いします。」

「かしこまりましt……」

とても眠いのか会話が途中で終了してしまう。

「では、1番様でご用意しますのでお待ちください。お会計1082円になりまs……」

(かなりパフェがデカイな)と思いながらもお会計を済ませてレジ横のゴミ箱の隣でパフェを待つ。


5分ほど待つとなかなかのボリュームのパフェが出てきた。

一礼して受け取り、外に出るとコンビニの壁にもたれてうたた寝をしている奏音がいた。

その寝顔はあどけなくいつまでも眺めていたいが、今は違う。

パフェを柔らかそうなほっぺたに押し当て無理やり起こす

ヒャッ!と何処から出てるのか分からない声を出しながら奏音は飛び起きた。

「む〜…ともくんのいじわる…」

「うたた寝してるお前が悪い」


あまりポジティブな感情を表に出せない僕はどうしてか彼女の前では笑顔になってしまう。

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