8話 よかぜにふかれて

春とはいえ夜はまだ肌寒く感じる。

「薄着すぎたな…」

軽装で出てきたことを軽く後悔しつつ、少し遠いあまりコンビニエンスではないコンビニに向かいつつ、今の時刻を確認する。【21:39】スマホの液晶が僕に教えてくれる。

お巡りさんに見つかったら補導されるのではないか。

「赤いおじさん」が「黄緑のおじさん」に変わると、すぐ近く自動車のテールランプが消え、タイヤの擦れる音とともに僕も前へ進む。

しばらくすると、個人的に通りたくない道に出る。とある少女、僕の初恋の人、とても大切な人を失った場所。

「あれから5年か…」


護れなかった、助けられなかった、自分が弱かった、何も出来なかった


僕が死なせた


後悔の念で心の中を濁らせていく。


軽く曇り始めた空から月光が差す

「なんでそんな暗い顔してんのかな、少年」

塞ぎ始めた世界に色がつく

「私はずっと傍にいるよ?ずっと、ずぅっと」

声の聞こえる方に目を移す

「やっと逢えたね、ともくん!」


月白の光を浴びながら桜の散る道にそこには居るはずの無い「少女」がいた。

「なん……」

「なんで私が居るのか、でしょ?」

詰まった言葉を少女は汲み取り、紡ぐ。

「実は…私にもわかんないんだ」

あっけらかんな回答に呆然としていると少女はまた口を開く。

「私の事、覚えてるかな?」

天使のような優しい声でありながら小悪魔のように笑うその姿を僕は一瞬も忘れたことがない。

「奏音……天崎 奏音…!でも、お前…」

5年前の奏音ではなく、高校生の姿で現れた彼女は

「会いたかったから、かな?」

と微笑む。

奏音に再開出来たことを僕の脳と心はまだ処理できずにいた。

「とりあえずおつかい済ませて来たら?」

この一言で身体から離れかけた心が戻る。

「あ…あぁ……そ、だな…」

覚束無い足取りでコンビニへ向かう。


「ともくんはさ、好きなコとか居ないの?」

居ないと言えば嘘になる。

居ると言えば僕が爆死する。

「……まぁ……うーん…?」

「どっちよ!」


小さい頃と同じように「ぷんすか」と怒りながら笑う奏音の事が心から好きなんだと、再度理解した。

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